第71話 とある隣の男子学園

それからしばらくして、ルナーアは満足いったのかオレの肩から離れ口を手で拭う。その彼女の表情は満面の笑みそのもので、お肌も随分とツヤツヤとしていた。それとは裏腹に一方で、オレはと言えば随分と血を吸われてしまったので貧血気味。頭がくらくらする……


「ご馳走様、なのじゃ。おや?大丈夫かの?」

「誰のせいだとおもってんだ……」


かれこれ二十分はずっと吸ってたじゃねえか。


「さて、ではこれからよろしく頼むぞ。我が主様よ」

「ああ」


服を着なおしてオレたちはここから外に出ることにした。その際にしっかりとカツラもつけておく。


ルナーアには「イメチェンかの?」などと問われたが、事情を簡単に説明して変装の理由を解らせた。


そして、道中。


「思ったんだけど、剣からその姿に戻った時、素っ裸かじゃなくちゃんと服着てるんだな」

「ああ、鬼族のみが持つ固有の技能で血を自由自在に操るってやつじゃ。それで恐らく服を補ったのじゃろうな。なんじゃ主様、もしかして、わらわの体見たかったのかの?」

「寝言は寝て言ったらどうだ?」

「なっ、なんじゃと!?」

「その体を見てみろ、合法ロリの名を欲しいがままにしたもんじゃねえか。オレは別にロリコンじゃないし、そもそもオレは女の体とかは興味が薄いんだ。好きな人を除くが」

「かーー!それわらわだけじゃなくて元の体の持ち主も貶しておるぞ!」


言われてみればそれもそうだった。

その後もルナーアと仲良く討論している内に、目線の先に光が見え始めていた。行きも長かったから当然だがやはり帰りも長かった。


しかも帰りの場合、行きで下りだった坂がとんでもない上り坂になっており、そこを登るのも貧血気味のオレには少々辛かった。


「さて、そろそろ出るわけだけど………」

「?」


オレは首を傾げるルナーアの方を見ながら考える。出るのはいいとして、問題は彼女をどうするか。ルナーアは今は亡き吸血鬼になってしまったため、他の誰かに事情を知られてしまえば事態は最悪となってしまうだろう。


見た目は人族と変わらないとはいえ、あってしまって特徴的なあの牙だったり幼女の見た目とは裏腹な口調に違和感を覚えたり、さしずめ接触を避けるべきなのは言わずもがな。


それを深く考えていたオレの心情を読み取ることができたのか手をポンッ、と叩くとオレの後ろに回りそしてオレの影の中に入り込んでいった。


「え、ちょ、ルナーア!?」


オレがどこに消えたのかと探すとオレの股下の陰からひょっこりと顔を出しながら言ってきた。


「眷属になった吸血鬼はこうして主の影に入ることができるのじゃよ。これならバレずに済むじゃろ」

「お、おお。それは助かるけど………でもそんなすぐにわかるものなのか?まだその姿になって間もないだろ?」

「まあ、なんとなくというか、感覚的にわかるのじゃよ」

「そういうもんなのか」

「そういうもんなのじゃ」


ならそれで納得しておこう。


ひとまず、これで先ほどの案件については片付いた。これなら外に出ても問題はないだろう。ルナーアが影の中に戻る前にオレがいいと言わない限り極力外には出ないよう釘を刺して影の中に戻らせた。


それからやっと、洞窟の出口に到着しオレは歓喜していた。

やっと戻ってきたーーーーーー!

そんな喜びを抑えて……さて、それは良いとして、これからどうしたものか。


暇だったからこの剣を抜くというクエストの様なモノを受けたわけだが、すぐに抜けてしまったためすぐにクエストクリアしてしまったため、時間は大いに余っているのだ。するとそこでグーっと腹のなる音がした。


『お昼時じゃし一度飯にせんかの?』

『ああ、それもそうだな』


影の中から話しかけてきたルナーアに賛同しひとまず自室に戻ることにした。


「よし、じゃあ一回部屋に戻るか」

「そうですか」

「うぉっ!?」


急に声が聞こえたもので神速でその声の方から距離を取り戦闘態勢をとるが、見てみると敵ではなくこの学園の長、エレン学園長だった。流石に神出鬼没にもほどがある。しかも全く気配を感じなかったので改めて猛者であることを実感することもできてしまう。


「おや、驚かせてしまいましたね。申し訳ございません」

「せめて一回声かけて近づいてくださいよ。急にあんな近距離で話しかけられても驚いちゃいますから」

「はい。それで、剣は抜けたんですか?」

「ええまあ、思いのほかサラッと」

「なるほど。ということは、あの吸血鬼さんもゲットしたというわけですね」


感心したように頷くが、その事実を知っているということはやはりルナーアを倒してあの状態にしたのはエレン学園長で間違いはなさそうだ。


『 あの女、わらわと同等以上の力を持っておったわ。スキを付かれたらボカスカされた』

『 そりゃ災難だったな』


しかし、元魔王で今は吸血鬼のルナーアだが、戦ってみてその実力があの時と同じかそれ以上だった感覚だった。


それをフルボッコしたということは、エレン学園長は想像以上に実力を持っているのかもしれない。


そんな底知れぬ人物は独り言ごちに言う。


「もし抜けて吸血鬼さんと何か……と思っていましたが、良かったです。計画通り」

「計画通り?やっぱり何か魂胆があったんですか?」

「魂胆、という程のことでもないですが、もし抜けたら面白そうだな、と」


そう言って顔に浮かんでいる涼しくなるほどの真顔にほんの少しの笑みを浮かべるエレン学園長に、やはりあのメレナの姉であるだけあると思った。


と、改めて空腹を覚えたと思えばまたも腹の虫が鳴いた。


「そういえば、ひとまず自室に戻ってお昼ご飯…って思ってたんだっけか」

「あら、そうでしたか。それはお邪魔しました。しかし、この後………ですか、」

「どうかしたんですか?」

「……アークヴァンロード君はご飯を食べたい時は静かに食べたい派ですか?それとも騒がしく食べたい派ですか?」

「えっ……と……」


あまりの話題転換に加えて藪から棒に飛んできた質問だったため、答えるのにほんの少し間を開けてしまうがそれからすぐに答えた。


「オレはどちらかというと騒がしい派ですね。でも、今みたいに疲れているときだったら静かに食べたいですかね。というか、急にそんな質問どうしたんですか?」

「いえ、なんというか……タイミングがわるかったですね……」

「?」


どういう意味だ?

エレン学園長の言っていることにイマイチ理解の行かなかったのだが、そんなオレの耳にドゴッ!っという鈍い音が飛びこんでき、それと同時に地面が軽く揺れた。


「うおっと……なんだ?」

「噂をすれば、ですね」

「あの、一体何が?」


オレがそう問いかけると、彼女は建物の壁に素早く移動すると手招きし、それに素直に従ってそこまで行き壁からエレン学園長と向こうを覗いてみると、ここから学園の正門に当たる位置をみることができた。そして、今まさにそこに人が集まっており、こちらの校舎側にイリヤを先頭に集まる女子生徒と対立している集団は、他でもなく男子生徒であった。


この近くにある学園の人らがプリスメア学園の誰かに告白だったりしに来たとか?

その可能性も十分に考えることはできるが、その割には空気が違う。

この空気はどちらかと言えば、甘いものよりもピりついたというものだ。


よく見てみれば男子集団の先頭の男の真下の地面にくぼみができたいるので、恐らくその男が先ほどの小さな揺れを起こした人物と考えていいだろう。


と、思い見たその男。


「……は?」


その思いもよらぬものに仰天せざるを得なかった。

なにがすごいって、金髪の少し長めのショートヘア―の美形の美男子なのに……

なのに………


「持っているのが金属バット……」


というかこの世界に金属バットあったんだ……


なんて思っているのはさておき、オレは向こうに耳を傾け何を話しているのか聞いてみる。


「今週も今週とてなんのようですの?前にも言いましたがもうわたくし達学園はもうあなた方の相手をしないと言ったはずですが」

「それは俺たちから逃げるための一方的な口実ではないのか?一度勝ったことをいいことに調子に乗って、それからも我々よりも貴様らの方が力が上だという事実を揺るがせたくないんだろう?」


よほど大きいこえで言い争っているのだろう。ここからでもその詳しい内容が入ってくる。それを聞くオレには一つどうしても知りたかったことが。


「というか、そもそもあの男子生徒ってどこの奴らなんですか?」

「あれは我々の隣に位置する男子学園、『シャガル学園』の方たちです」

「男子学園?そんなの内の隣にあったんですか?全然気づきませんでしたよ?」

「ええ、内に比べて校舎が小さいですから。気づかないのも仕方ないです」


ああ、それなら納得。

この校舎マジ、でっかいもん。


「再度言わせてもらいますが、あの時の一戦はただの交流を兼ねただけの試合でしたわ。そこで負けて学園の評判が下がったなど、それはただの私怨ではなくって?」

「黙れ!」


言い争いが更にヒートアップ、熱くなった先頭に立つ男子生徒はそこで真下の窪みに更にバットを叩きつけて、それを更に大きく凹ます。先ほどに比べて更に強く重い一撃で、その証拠に地面の揺れが先ほどに比べてよっぽど大きかった。


流石にちょっとやばいんじゃないか?このままだと本当に戦いが勃発するのも時間の問題だぞ?


と思った矢先、流石にこの状況には動かないわけにはいかなかったのか、この学園の先生で唯一の男性、ネス先生が駆け足で駆け付けてきた。


「ちょっと、一回落ち着きなさい!また争いごとを起こすつもりですか!?」

「ちっ、邪魔が入ったか。しょうがない今日はこの辺にしてやろう」


先生の介入によって興が冷めたのか男子生徒の集団はそこで帰って行った。どうやら一戦は起こらなかったようだ。


「学園長、これって一体何が原因で?」

「さっき、イリヤさんも話されていた通りほんの少し前に隣同士の学園のよしみでこの学園と隣のシャガル学園で交流を兼ねた勝ち抜きの対戦を行ったんです。そこで我々は圧勝してしまい、それが原因でシャガル学園の評価が落ちてしまったために、あのように」

「なるほど」


実に端的に還元されたわかりやすい説明文だった。メレナとは大違い。

しかし、このままでいいものか。あのような喧嘩腰で学園に侵入してきて何か事件を起こしたりと、何か厄介ごとを起してしまう可能性は高い。

しかも、見た限りでは持ったバットで地面に八つ当たりするくらいだし、そんだけ憤怒がたまっているわけだ。


このまま何もせずにドライ対応を続けるのだろうか?


しかし、これは今オレの考えることではないのだろうと頭を切り替えたのだった。

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