第62話 最終兵器
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…どれだけ時間がたった………?
なんか、身体が以上に熱い。
周りが朧気で、霞んで見える。
そこから見えた空は変わりなく、暗闇に染まっている。でも、その闇夜は綺麗とは全くと言っていいほどに見えない。そんな光景に嫌気がさし、その眼を瞑る。
そこでほんのわずかな沈黙。
…………そういえば、龍はどうなった…………
そうですよね、このわたくし、先ほどまで英滅龍ルーアサイドと戦ってたんだよな………
…………………………………
……………………
……………
「寝そべってらんねぇぇぇぇぇえ――ってイテェ!」
「いたぁっ!」
思いきり寝かせていた自分の体を全力で起き上がると、頭に何かが激突した。なんなんだよもう……
ぶつけた額を掌で押さえながらゆっくりと目を開けると、そこには見覚えのある清潔感があるようでない、否、まったくもってない顔がそこにはあった。
「って、ライアじゃねえか!」
「や、やあ、アーク君」
苦笑いを浮かべながら、手をひらひらと振るのは、二年ほどの付き合いの見た目とは裏腹な精霊王という…存在的に説明がなんか難しいというか、なんというか……
兎にも角にも!
「なんでお前ここに…というかそもそもここはどこ――っていててててててて!!」
「ほらほら、迂闊に動かないの。だいたい事情が訊きたいのはこちらだよ。自分の住処みたいなこのシャルルドの山がいつの間にかこんなすごい事になってるんだもん」
「えっ…って、おいなんだこれは……」
覚醒したその眼差しで周りを見渡してみると左右に大きな壁があり、どちらも綺麗な湾曲の形をしており、また周りは炎がうっすらと燃えていたり赤く焦げていたりしていた。そこで初めてなんでこんなことになったのかを思い出した。
龍が溜めて放った火炎放射に直撃したんだ。それで意識を失って気づいてらこんなことに…
ふと視線を下におろすと、せっかくの制服は綺麗に焼き消えており、上半身があ裸の状態だった。しかし、それよりも驚いたことがあった。
「あんな物凄い火炎放射受けたのに、火傷の一つもないんだな…」
「ああ、それは僕が治してあげたよ」
「はぁ!?」
なるほど、どうりでこんなに火傷跡がないわけだ。
「この光景に倒れるアーク君、そして向こうには封印されていたルーアサイド。この間訊きに来たことと色々はまって状況は理解できたからね」
「そうか、そりゃ助かった」
「礼には及ばないさ」
ライアは今度はしっかりとした笑顔を浮かべて言った。
「君には色々感謝しているからね。僕の暇をつぶしてくれたり、イレギュラーな事ばかり教えてくれたり、自然も大事にしてくれるしね!」
「そう思ってくれているならいいが。だが、謝らせてくれ。大切な自然をこんなになくしちまって」
「それは君のせいじゃないさ。でも、もし責任がとりたいのなら――――」
ライアは向こうで空を飛び街を襲う漆黒の龍を指さした。
「あのドラゴンを、やっつけてね」
「…ああ、任せろ」
オレは力強く頷き彼に背中を向けた。足元から風を巻き起こし、徐々に浮遊し高度を上げていく。しばらくして街を一目で見渡せるほどにまで上昇し、全体に目を通してみると街は気を失う前に比べて崩壊が進んでおり、燃え盛る炎も数多かった。
こりゃ、急ぐ必要がありそうだな。
街に急行し上空にまで行ったところで下を見下ろし改めて眺めてみると、街の住民達は騎士団の迅速な避難誘導もあってか、確認が全くできなかったので、ひとまず安心した。これなら心置きなく、というか気を遣うこともなく戦うことができる!
空に手を掲げて力を込めると魔力から生み出された炎が集まっていき、それにより作られた小さな火球を中心として更に炎が蓄積されていく。徐々にそれは巨大になっていきそれに伴いその熱も上がっていき、そして龍の巨体に並ぶ火炎玉を作り出した。
炎魔法『
短い時間の中で少し考えてみた。
あの英雄殺しの黒龍は普通のモンスターとは少し違う魔法が使えるという特徴があり、その中で極めて高度な回復魔法も使えることを把握できた。
そのため攻撃手段としては、一撃で沈めるものの方がいいとわかった。
騎士団の方たちのおかげで住民は全くいないし、これなら全力をだしても問題ない。
「おら、てめえ!たかが魔法が使えるだけの空飛ぶ黒トカゲがしゃしゃってんじゃねえぞ!」
大音量で荒い言葉遣いを用いてそう言うと手を振るい、巨大なその魔法を放った。
大きなそれはその巨大さもあってか瞬く間に距離を詰めていき、そして街をもろとも飲み込まれていき、そして柱を作るかのように爆発した。その爆ぜた衝撃により巻き起こった爆風があたり一帯に嵐の如く吹いた。
「これならどうだ……!」
期待を胸に背負い柱が消えていくのをただ見届けていく。そして、柱が遂に消え、その姿を目に捉えると、龍は地面に四足をつけなんとか直立している状態でかなり攻撃が有効だったようだ。
って、安心してる場合じゃねえ!
満身創痍とはいえ、生きてるじゃねえか!
いち早く仕留めないと!
首を取れば流石に死ぬだろうとオレは様々な魔法の付与がされた剣を片手に龍をめがけて飛んでいく。
間に合え…!
強い気持ちを残して間合いを詰めていき手に持っているそれが狙いの首に突き刺さる直前だった。緑色の光が龍を包み込み、ほんの少しの間を詰めていくそのわずかな時間の中で、ほとんどの傷を回復させてしまった。
「なっ、回復はやっ……!」
と思った矢先、こちらの存在に気が付いた龍は大きな口を豪快に開き火球を放った。
「うわっと!」
反射的に体がそちらを向き、火球に自身の剣を突き刺すとそこから、氷魔法を発動し剣から伝播して凍てついた。そのまま剣を持ち上げ腕に痛みを感じつつもそれを龍の頭にたたきつけ、パリィン!と音を豪快に立てて粉砕すると、それにより自由になった剣を顔に突き刺した。
跳躍していくつか距離を置くが、やはりその際に回復魔法をかけてその傷を癒してしまい、リセットされてしまう。
「本当に面倒くさい相手だな、この野郎…」
しかし、そう思いつつもオレは自然と顔に笑みを浮かべており、それはきっとまだ余裕があると本能的に感じているからか、やっと倒しがいのある敵と戦えるからなのか。理由はともあれ、状況と表情がかみ合わない自分であった。
そんな風に考えていたそのそばから龍は氷刃を多数放ち、それと同時に口から火球も放つという避ける場所を奪う攻撃をしてきた。なんとか軌道はよめるため、動き自体は見分けられるが、数が多すぎるため避けるのには一苦労。だが、その攻撃の波の中にいる際中にそこから逃げられるスキができ、それを狙って飛び上がりそこから抜け出した。
そこで油断していた。
胸から腹にかけて、いつの間にか斬りこみが入っておりそこから鮮血が空に飛び散った。
な、なんだ…っ!一体何が、何も見えなかったぞ……!
空中で静止し、できたばかりの傷を抑えながらこの傷の謎に疑問を抱く。いったい何をしたのか、龍を目に捉えるとそれは大きな翼を豪快に広げ羽ばたかせて上へと上がっていく。
その時だった。
空中に少し歪みが見えた。それから逃げようと飛び上がって避けるとその建物が斜めに切断され崩壊した。恐らくこれは、龍の羽を利用した風魔法の一種だろうか。先ほどオレに与えた攻撃はこれによるものだろう。
って、更に面倒なことが判明してしまった…
飛んでいるときに迂闊に近づけないし、知らない方が良かったなぁ……
と、龍は空中で翼を動かし場所を固定しつつ口を徐々に赤く染めていく。すぐに危険性を肌から感じすぐに逃げたとき、炎の吐息が放たれギリギリのところでなんとか回避することができた。
受け身を取りつつ転がり建物に隠れる。顔だけ覗かせて龍の様子を伺うと目標のオレを失ったからか、周りを躊躇なく炎やら風やら氷やらで蹂躙していく。住民が避難したとはいえ、街を破壊されては元も子もない。
………あれを使うしかないのか……
正直、それを使うことには躊躇があった。それはいったいなぜか、それはまだ完全に完成したわけではないからだ。それを完成させるには五つの工程があり、それを全て終わらせそこから最後の仕上げをして完成となる代物で、その内まだ第二段階の工程にまでしか進んでいないのだ。
それに、仮に使ったらそれが壊れてしまうのではないかという思いもある。
「でも……」
改めて龍を見る。そしてオレの目には尚も街を蹂躙するそれが映る。
「…………躊躇する暇はねえよな」
覚悟を決めようと手を顔の麓に持ってくるとそれを強く握りしめる。意を決して壁から飛び出すと、叫んで龍を呼んだ。
「おい!どこ見てんだ!オレはここだぞ!」
自慢の肺活量を利用して空に響かせるほどの声量で言うと、龍はそれに反応しこちらに体を向けてオレの存在を目に捉えた。すると、龍は大きく吠え龍は口の中を炎で一杯にする。
さあ、頼むぜ…!
オレは収納魔法でゲートを作り、そこに手を突っ込むとそれを手に掴み取り出した。持ち手から先端にかけて煌めく銀色の刀身。
実際のところ、刀の形をした剣ならこの異世界にはいくらでもある。しかし、あくまでもそれは
題名「異国、二ホンの本!」
に異世界での本物の刀の作り方が書いてあったのだ。しかも、本に寄ると刀は普通の剣とは一味二味も違うらしく、あったら心強いかもしれないと作っていたのだ。まだ制作の前段階なので使えるかはわからないが、やってみるしかない。
龍は、火炎をオレに向かって吹き出した。それに合わせてオレは刀を一層強く握りしめあることをしてから、構える。そして目の前にまで迫ったとき、それを横薙ぎに一閃する。
すると、炎は霧散し消失していく。
「――っしゃぁ!」
できた!
曰く、刀には不思議な力がありその属性の魔法の付与をすることで、何倍にも強化した状態で使用できるらしい。それを信じてオレは刀に風魔法の付与をしたのだが、切ってみるとそもそもの刀の切れ味に強化された風の力が加えられ、衝撃的な力を発揮した。
これでまだ制作段階って、すごいな…
「っと、感心してる場合じゃねえな」
顔を空に向けると、龍は氷刃を空中に無数に作り出しながら、口から火球を吐き出す。オレは背に矢を作りだしつつも飛びあがり、刀を構える。オレが矢を放つと共に龍もまた氷を氷刃を放ち、また火球も尚吐き出す。
矢でカバーできない分は刀を使って何とか補い、龍との距離を詰めていく。自分自身の目を極限まで生かし、速い氷刃だろうと見えない風の斬撃だろうとそれを切り伏せて龍に迫っていく。
そして、龍が特大の火球を放った時、次に刀に氷魔法を付与しそれを切ると、それはいともたやすく切断されその瞬間に氷結した。勢いが緩むこともなく龍との差を埋め、その身の翼を目掛けて刀を振るい、付け根にそれがあたり力を強めるとミチミチと音を立て、そして切り裂いた。龍が片方の翼を失いバランスを崩したことにより高度を落とすが、それでも生き残った翼を必死に羽ばたかせるが、すかさず羽の麓に刀を勢いよく投げそれが突き刺さった。
その方に移動し、刀を掴むと横に振るって中から斬り、更にそこに一撃入れて完全に斬る。
両方の翼を失い飛行性能を失った龍はそのまま地面へと落下していき衝撃音と共に地面を砕きながら着地した。龍の背中から降りて走り出し間を取ると、地面を足裏で引きずりながら急ブレーキをかけた。すると、龍は驚くことに姿を変形させていき、仕舞いには二足で立ち上がった。
「おまえ……なんでもありなのかよ…!」
刀に炎魔法を付与してそれを下から上へとそれを振るうと、地面を削りながら燃える斬撃が飛んでいき龍に向かって一直線に迫っていく。すると、龍は口を大きく開く。すると、そこに赤いものが集束していきそして赤い球ができたと思えばそれを、オレの放った斬撃に向かって地面をなぞるように放った。
そして、それは溜めて打つはずの火炎放射だった。
「なっ、嘘だろ!」
それによってオレの飛ぶ斬撃はそれに飲み込まれ、そのままオレの方へと向かって襲い掛かる。危なげなくそれを避けると、横をそれが通りその部分が一瞬で爆ぜ炎の道と化す。
オレは建物の屋上に飛び乗ると、そこを突っ走り建物に飛び移ることを繰り返し、龍の隣の建物にまで移動するとそこから飛び上がって刀を振るおうとする。しかしオレの存在に気づき顔をこちらに向けた龍はすぐに口に炎を溜め、それを放った。当たる直前に虚空を蹴って間一髪のところで回避すると、龍の足元に着地しそれと共に刀を横に振るって足を斬る。
しかしそれは傷が浅くならばと相手の足を利用して、胸元にまで移動しそこに刀を突きさした。そして突き刺した氷魔法発動すると龍の胸を穿ち背中から氷の結晶が突き出した。
「ギィヤァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
その攻撃に痛みによるものか、その威力に悲痛の咆哮を上げ、それに自身の耳が耐えられず距離を一度置く。
正直、ここでまた回復するのだろうと考えていたのだが、どうやらそのような行動を見せる気配はない。予想としてだが、恐らくあの姿は短期決戦のための姿なんだと思う。だから、攻撃に特化するために回復魔法などは使わず全てをあの火炎放射に使っていると考えられる。
ふと、手に握っている刀を見てみると、刀身全体にひびが入っており、少し欠けていたりもしていた。
「使いすぎたかな。いや、そもそも未完成だと脆いのか」
しかし、この武器も使える回数も限られてくるとなると、道は一つしかない。
「一撃にかけるしかない、か」
決心したとき、龍は口に炎を溜め始めた。また、打ってくるのかと警戒したが、すぐに打て来ることはなかった。だが逆にそれは溜めてあの火炎放射を放とうとしているということになる。
「なら、オレもやってやるよ」
刀の先端を空に向けて持ち上げる。その状態から雷の属性魔法を付与し刀身に青と黄の混合するスパークが迸ると、更に刀に自身の体に流れている大量の魔力を込めていきそれを更に強化していく。刀に光が集束していきスパークは徐々に大きく強く迸っていく。
一方で龍もまた自分自身の炎を限界まで溜めているのか、炎が外に漏れだしても尚放つことはなく、更にはその炎は徐々に青色に化けていく。
ありゃ、本当にとんでもない威力なんだろう、だからこそオレも全力であれに勝手、そして勝負にも勝ってやる。魔力を込めるスピードを一段と早め全魔力を使い果たすつもりで注ぎ込んでいく。みるみると刀の光は眩しいほどに輝き、スパークは街の瓦礫を焦がし消滅させる程に激しく迸り、強い疲労感と怠さを感じてきた時、遂にしかるべき時がきた。
龍は口に蓄積していた高熱の炎を光線と言わんばかりの火炎放射で放った。街の建物を吹き飛ばすほどの爆風とスピード。それが徐々にオレとの間合いを詰めていくが、まだ足りないとオレは魔力を流し続ける。
「……あと少し……っ!」
更に距離を縮めその熱がこちらにも伝播される。
「……もうちょっと………っ!」
遂に直撃するその直前、煉獄の青色で視界が埋まったその時、
満を持して、その刀を振るう。
「はあああああああああああああぁっ!!」
刀を上から振り下ろす。
刹那、迸ったスパークが街を焦がし、オレの出す雄叫びにまるで答えるかのように雷光は更に激しく、強くなっていきその刀が火炎放射に激突し、雷撃と煉獄のせめぎ合いが起こる。熱とスピードに押し負けそうになり、腕をきしませつつもそれを切り裂いて見せようと、あきらめることなく刀を振るう。
「くぅぅぅぅぅぅぅぅううらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
握る力をより一層強くし、全てを切り裂く思いで!
『
刀は炎を侵食しその刹那、斬撃はその青き炎を、大地を、そして龍を切り裂いた。切り裂いた火炎放射が二手に分かれ左右に地面を通り爆ぜ、斬撃の切り裂いた部分はスパークを奔らせ、轟かせた。手にしていた刀は直後に戦いの終末を告げる様に粉砕され、それから手を離すと地面に落下し、その音が自然と空に響き渡る。
それはきっと先ほどまでに比べてとても、不自然な程に静かだからだろう。
打って変わって沈黙が響き渡る。街のあらゆるなしょが崩壊し、燃え盛るがそれでも戦いが終わったことに安息し脱力、そのまま腰を地面に落とした。
「……おわった」
疲れも痛みもある。
けれど、最も強く残ったのはやりきったという達成感であり、しばらくオレはその余韻に浸ってた。
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