第61話 最強の少年vs最恐の漆黒龍

エヴァとミリーゼはノアールトとの戦いの末勝利をおさめ、そして体力がつき力なく倒れた。それから、すぐのことだ。

ザッザッザッという地面をける音が聞こえてくると、学園の前に現れたのはアルトリアら騎士団の一部隊だった。


「ん?なんだこれは…」


街の市民の避難のためにここまで探索にきており、偶然通りかかった。しかし、見てみれば荒れ狂う炎をあげ、にもかかわらず冷気の漂う異常な場所。


通り過ぎ去るのも無理であった。


「全兵、止まれ!」


アルトリアが率いていた騎士兵が足を止めると、その彼女はその中へと足を踏み入れる。すると、目に映るのは荒れた戦場、そして倒れたエヴァ達だった。


「!?」

「どうかなさいましたか?お姉様」


驚いたアルトリアの後ろから現れたのは、同行していたユリアルクス王女、通称ユリスだ。本来ならば、城に身を潜めほとぼりが冷めるのを待つべきなのだが、本人は回復の魔法を得意としているためけがをした人を迅速に治療するには自分が必要だと、自ら申し出たのだ。


アルトリアとしては反対だったのだが、人を救いたいという熱意に負けどんな時もアルトリアのそばから離れないことを条件についてきたのだ。


そんなユリスもまた、姉の見たものと同じそれを目にすると顔色を変えた。


「けが人!?っ!?」

「ユリス!危ないぞ!」


その眼に映ったそのそばから、彼女の体は倒れた者たちの方へと飛び出し、すぐに倒れたエヴァの方へと駆け付けた。


「酷い怪我……よく見たら、この人たちアーク様のおそばに居た方たちでは!?」

「ああ、こちらの少女にも見覚えがある」


校舎の方で倒れていた、ミリーゼを抱えながらアルトリアは頷く。ユリスのそばにまで来ると、ミリーゼをゆっくりとその場におろした。すると、ユリスは両手を広げて二人にかざすと、二人が緑色の光粒に包まれていいく。


「この大けが、魔法での全治は厳しそうです。それにしても、一体ここで何があってこんな怪我が…?」

「戦闘になったのだろうか…」


と、ふと横を見た、その直線状。よく見てみると、もう一人倒れている者がいる。


「ん?あそこにも誰かが…」


しかし、目を凝らしてよく見るとそこには一度だけ見たことのある顔があった。


「こ、この男は…!?――――皆の者、即刻そこに倒れている男を捕縛せよ!」


急なことに驚きつつも、すぐに作業に取り掛かる騎士たち。アルトリアはそこでここであった戦いに想像がついた。


「なるほど、そこの二人とあの恐ろしい男が戦ったのか…」


どんな壮絶な戦いだったのか、考えただけで恐怖を感じたが同時に、そんな男を倒したエヴァとミリーゼに、歯が立たなかった自分を重ね悔しさもあった。


「ユリス、徐々に街の火の手もこちらに迫っている。適当に止血して一度ここから離れるぞ」

「は、はい!」


切り替えたアルトリアがそう言い、ユリスが一時的な治癒を終わらせた、その時だった。


星の一つもない夜空に赤い流星がかけていった。


「……あ、あれは………」


アルトリアや、他の騎士たちもそれに思わず呆けてしまった。そして、何か嫌なものを察したアルトリアは一言、口にした。


「アークヴァンロード……」


ここから、時は遡る。




       ※       ※       ※






オレが追いついた時に、龍は口から赤い炎を吹き、大きく広がり街を飲み込んだ。これはやばい!

そう感じたその瞬間にオレは速度を加速させ、炎の元へと急いだ。


ついた頃には、街の市民は逃げ惑う様に街を走り回っており、それを早くも騎士団の兵たちが避難誘導していた。

にしても、流石は騎士団だな。オレが連絡してから間もないのにこんなに早く街に来てるなんて。


と、感心してる暇もなく今度は巨大な火球を口から一弾放ち、避難誘導され走って逃げる市民たちに襲い掛かる。


だが、そこはなんとかオレが追いつき魔法で凍らせる。


「急いで避難して!」


それに頷き騎士の人達の案内する方へと走り去っていく。周りに人がいなくなったことを確認すると、凍らせた炎を拳で殴り粉砕させた。


一度着地すると、向こうから誰かがオレを呼びかけた。


「あ、アークヴァンロード!」

「ん?アルトリアか」


そこには、特別騎士団の若き団長であるアルトリアがおり、また彼女の双子の妹であるユリスもいた。


「おいおい、王女様がこんなとこにきていいのかよ?」

「私も最初は反対だった。だが、ユリスが何もしないのは嫌だというのでな」

「はい、回復魔法なら得意魔法ですし!」

「なるほど。アルトリア、ちゃんと守ってやれよ」

「言われなくともわかっている」


まあ、かなりの実力者である彼女の元にいれば、危険性は結構減るだろうしな。


「っと、ゆっくり話してる暇ねえや。あの龍を倒さないと」

「そうだ、あの龍だ!あれはいったい何なんだ!」

「後で話す!」


それだけ言って、魔法を使い跳躍して飛んだ。街は短いこの間に炎に飲み込まれてしまっており、尚も龍は火炎を吐き出そうとする。舌打ちと共に龍の方へと飛んで行き、そして叫びと共に飛び蹴りを炸裂させる。


「なにしてんだっ!」


巨大な龍の腹部に自身の足がめり込み、そして蹴り飛ばした。そのまま平行に飛ばされるものの、その大きな翼を大きく羽ばたかせ勢いを弱め、止まる。すると、鋭い眼差しをオレの方に向け、その眼で照準を定めると口からあふれる程の炎を溜めて火球として吐き出した。


炎が距離を縮めてくると同時に、魔方陣を展開しその炎を凍らせると、龍に向かってそれを思いきり蹴り飛ばした。


「返してやるよ!」


龍に向かって勢いよく大きな氷塊が飛んでいくが、それをまたしても炎を吐き出してそれに対抗する。氷と炎がぶつかり合い、パァン!と破裂するような音が鳴ると、はじけ飛んだ。


「流石に簡単に倒せる相手じゃないよな。今回は俺TUEEEEEも通用しなそうだし」


空を蹴り距離を詰めると炎を吐き出そうとし、それを避けようとそこから蹴って上へと上がると、そのまま落下し龍の頭に拳骨をかます。一応会心の一撃のつもりなんだけど、どうだ……


しかし、龍はオレを払う様に頭を上げて吹き飛ばした


「うおぉっ!」


空中でなんとか態勢を立て直し、上から様子を伺うが見たところダメージはそれほど…

ならばと、収納していた剣を取り出し強く握ると、回転しながら龍の胴体に斬撃を入れる。これならと思っていたのだが、火力が足りないのか、剣がそもそも粗悪品だからか、傷をつけることができていない。


いやそれ以前の話で、皮膚が以上に硬い。見た目とは裏腹な硬度をしている。

それなら、火力を上げて攻撃するまで!


剣に硬化魔法で硬度をあげ振動魔法で微振動を加え、更に虚空を蹴るその瞬間に加速魔法をかけ龍に攻撃を仕掛ける。加速した速度のあまり一度斬撃を入れた後そのまま一度下に着地し、そこから更に上に跳躍し更にもう一撃入れる。


これならどうだ?


見てみると確かに傷はついているがしかし、あの龍には蚊ほどもダメージを与えられていない模様。今攻撃して改めてわかったことだが、正直あの皮膚は尋常じゃない硬さを持っている。切るのは一苦労かもしれん。


それならと、オレは建物の壁に足をつけそこから足に力を入れて飛びそこから風魔法で加速、そしてそのスピードをいかし龍の胴体に剣を差し込んむと、今度はその硬い皮膚に手に持っていた剣が見事にそれを貫いた。


なるほど、斬撃というよりかは突きに近い攻撃方法の方がよさそうだな。それならと龍の体から離れ建物の屋上に着地すると、片手を上に挙げると後ろに幾多の魔法陣が描かれる。


光、炎、氷、風、その他もろもろ、様々な属性で作り出した魔法陣から作りあげられたのは矢や槍など、穿つことに有効な武器だ。それを何百も作り上げると手を龍に向かってさげ、それに合わせて一斉に発射され勢いよく標的を襲う


全ての矢に風魔法で加速を加えているのでそれなりに速度は出ているため、その矢や槍は龍の体や手足を貫き、ダメージを与える事が出来た。その証拠にか龍は空の上で必死にもがき、吠えている。


「もう一押しだな、行くぞ!」


更に一撃を加えようと、魔法陣をいくつか描きそれらが混ざり合い巨大な魔法陣を作り出すと、そこから数多の属性の混ざり合った巨大な槍を作り出される。


なんか不本意だけど、あのゲスドラ…じゃなかったべルドラの攻撃に似てしまったが、まあ…しょうがないか。細かいことは気にしないようにし、創成した槍を龍を穿たんと放った。


そして、そのまま猛烈な勢いで飛んで行き、見事に目標の胴体を貫いた。痛みによるものか、咆哮を放つ龍の体を貫き反対側からそれの先っぽが覗かせ、貫いたその場所からは鮮血があふれている。これは結構なダメージが入ったな。


と、油断していると龍は槍が放たれた方向、それ即ちオレに向かって巨大な火球をはきだした。それも先ほど放っていた、只でさえ大きい火球のその倍といっていいほどのもの。しかもすげえ速いんだけど!?


オレは右手をそれに掲げ眼前へと来た時に先ほどと同じようにそれを凍てつかせようと試みる。しかし、火球の大きさが増した上にその炎の温度がかなり上がっているからか、そう簡単に凍らせることができない。右腕を左手で掴みなんとか保つものの、炎は魔法陣を破壊しそしてオレに直撃し、更に爆発した。


それにより吹き飛ばされ、いくらか距離のある大きな時計台に激突した。


「――っく、くっそ、いてえな……」


軽い火傷と爆発でいくらか体を負傷した。こりゃ、一度回復を…と、考えたその直後、目の前が暗くなった。その理由は、龍がこちらに向かって飛んできて、そして体当たりをしてきたから。龍の頭がそのままオレの身体に炸裂し物凄い衝撃を受け、時計台もまたその威力によって折れる様に破壊した。


飛んで行き今度はそのまま地面へと落下する。周りには避難する人やそれを誘導する騎士の人らがおり、その騎士の兵の何人かがこちらへと駆け足でやってきた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫です…気にせんでください」


まあ、こんな姿見せて、大丈夫とか言っても説得力ないけど。

それはさておき、ひとまず建て続きに起こった攻撃による負傷は骨が折れたわけではないものの、かなりのダメージを喰らった。火球によるものよりも、先ほどの体当たりの方がかなり効いた。


とりあえず、痛みにたえつつ体を少し動かすと跳躍して、龍の元へと急いだ。先ほどの時計台はボロボロに崩壊し、その所に龍は佇んでおり炎を口から吹いて街を燃やしていた。


オレは先ほどの一撃のお返しもかね、空を飛ぶ速度を加速させ龍に突進する勢いで飛び拳を硬く握りしめ、それを硬化魔法で黒く染めると振りかぶり、


「さっきの倍返し―――――だっ!!」



力を振り絞りその豪腕を振るった。勿論それは、倍返しの精神で。その倍返しナックルは龍の首元にめり込むようにに沈み込み、骨をきしませながら強化魔法によって白いオーラを纏い龍を殴り飛ばした。地上には落ちはしないもののいくらか高度が下がった所で何とかとどまり、そこから間髪入れず火球を吐き出した。


攻撃することで頭が一杯であったため防御がギリギリになってしまい、強化に加え腕を硬化させた状態のそれで何とか火球に太刀打ちするが、反応が遅くなってしまったこともあり力がうまく入らず炎に押され飛ばされた。


「ちっ、しぶといな!」


とはいえ、ついさっきの火球に比べて少しばかりか熱が感じられなかった。恐らく、今のオレの超会心の一撃はかなり効いたと考えていいだろう。空中で態勢を立て直し壁を蹴り飛ぶと、同時に龍がこちらへと突進してきており、恐らく先ほど喰らわされた体当たりをする気なのだろう。


「二度も、同じ攻撃で負けるか!」


避ける間もなく体当たりを喰らいそのまま上空へと羽ばたいていくが、その後に足で押し返しそこから踵落としを決め、頭に直撃するものの龍は自分の腕を振るいオレを殴った。


このパンチは――――っ!


なんとか腕で防御できたものの、その巨体から振り絞られる力の豪腕なので物凄い破壊力があり、いくつもの建物を壊していきながら飛んでいき次にぶつかる建物で何とか勢いが弱まり、手も使いながら引きずりながら踏みとどまる。



あの攻撃……ドラゴンパンチ(仮)を喰らった右腕を触って確認すると、痛みは尋常でないもののどうやら骨は折れてないらしく、改めてこのチートの身体と日ごろの筋トレに感謝した。


こんな余裕があるから、あまり危機感がないのかもな、いいかげんそれ持たないと。


負傷した腕をグングンと振り回しまだちゃんと動かせることを再確認し、空を飛んだ。すると、口から炎を吐かず体当たり、尻尾攻撃、殴りといった今までとはまた違う行動をとっていた。やはり、攻撃が効いてるんだな、なら早く畳みかけてぶっ潰した方がいいな。


オレは飛びながら大量の水を作り出し、そこから形を形成していき、完成させたのは金槌の形をしたもの。後に回転しながら間を詰めていくと、龍もこちらに気づき羽を羽ばたかせて飛んでくるが、直撃する前に回転の勢いを生かし巨大な金槌をスイングし、撲殺するつもりで殴った。


「おおおおおおおおおぅらあああああああああああっ!!」


胴体に激突しそのまま潰す勢いで叫びながら水の金槌を振るう。だが、その時だった。


オレの肩を右腕をが貫いた。そのせいにより力がスッと抜けてしまい金槌の形が崩れてしまった。


一体何が起こった?

肩に何かが刺さった、貫いた。

物凄く冷たい。いったいなんだ?


右側に顔を向けるとそこには大きな氷の礫が右肩を貫いていた。こ、これは魔法の一つの『氷刃アイスショット』!でも一体なぜ…


ふと、龍の方を向くと龍の周りにはオレの肩を穿ったものと同じそれがいくつも浮遊していた。


「まさか……魔法を使えるっていうのかよ?」


流石にそれは、強すぎるだろ…?

肩から氷を引き抜きながら、心の中でその事実にあっけを取られてしまった。


しかし、そんな余裕もなく龍は容赦もなく『氷刃アイスショット』を放ってくる。空を飛び回りそれらを何とか避けていくと、オレはその時に更に気づきたくもなかったことに気づいた。


龍の傷は、綺麗になくなってしまっていた。

今まで与えてきたその全ての傷がなかったかの様に消失していたのだ。つまり………回復の魔法も使えるってことかよ………


「嘘……………だろ…………………」


絶望の感情に近いそれが心の中で宿るがそんな暇はないと、切り替える。


そこでふと思った、回復していたのならば一体なぜ炎による攻撃がなかったのか。


考えても仕方がないのかと思った、その頃には遅かった。

一定距離があるにも関わらず物凄い熱気がこちらにも伝わってくる。龍の口から、炎があふれ出しそして大きく口を開いた。


まさか、炎の攻撃がなかったのは溜めていたからか!?


そして、


龍はその口から煉獄の火炎放射を放った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る