第53話 ウザいが強い

「あら~?どちら様ですかねぇ」


紫色の短髪の男はそう言いながら、しゃがみ込みその下に倒れた、今も尚燃え続ける人を熱そうな表情を見せる事なく、手に持つ。


「もしかして、ここにいる人達にようがありました?ゴメンなさい、僕が先に殺しちゃいました☆」


言うと、燃える焼死体をぽいとこちらに投げ捨てる。そのまま弧を描いて地面に落ちると、脆くなったからか体が着地の衝撃で取れる。上半身と下半身が取れ、腕も取れる。


オレも、アルトリアも共にそれを見て呆ける。怒りで呆ける。しかし、ここで感情に任せてはいけない。なんとか感情を沈めに沈める。しかし、隣の彼女は違った。


「貴様ァァァァァァァァ!」


怒りが彼女の心を支配し、行動に移させる。腰に提げる剣を鞘から抜き、猛烈な勢いで男へと駆けていく。

おい、馬鹿野郎!

声を出そうとするが遅かった。

やはり、アルトリアは速い。瞬く間に間合いを詰めていく。


って、言ってる場合じゃねえ!

オレはすぐさま動く。

そして同時刻、遂にアルトリアが彼の目の前にまで来たときだ。


彼女が剣を振るより速く、男の腕が動いていた。爪を立てて、彼女の顔をめがけて振るう。そこで、彼女は初めてその男がに気付く。彼女もその魔眼を使えば良かったものの、冷静さが掛けていたのだから、ある意味仕方ないのかもしれない。


彼女に当たる、その寸前でオレは男の攻撃を防ぐ。手首を掴み力任せに止める。


「き、貴様!?」

「ここはオレが受け持つ!取りあえずこの村の火を連れてきた兵と一緒に消して、後、人も治せるだけ治してくれ!」


アルトリアはコクリと頷く。そして、同時にオレは男へと改めて目を向ける。


「あぁ?なんなんですかあなたは!?」

「教える義理はねえな!」


オレは男の手首を投げるように放り捨て、相手の態勢を崩すと、腹に蹴りを入れて向こうに吹き飛ばす。


「がぁぁぁぁ!」


悲鳴を上げながら飛んでいき、それにオレは地面を蹴り飛んで追いかける。すぐに追いつき男の体を掴むと、下へと落とすように体に体重を掛ける。


村の向こうにある山に落ちていき、麓で着地した。いや、着地とは言い難い雑なモノだけど。

砂埃を上げながらオレは男の両手を掴み固定する。


というか、初めて押し倒すのが男でしかも敵て。


「ちょっ。なんなんですか、離して!」

「うるせえ。今から幾つか質問するから黙ってろ!」

「いやぁ!やめてぇ!いやぁ!」


コイツマジでうるせえな!マジでオレが女性を強姦しようとしてる見てえじゃねえか!


「いいから!黙れよ!」

「分かりましたから分かりましたから分かりましたからぁぁぁ!」


ん?

なんか、さっきとは全然感じが違う。あれは虚勢だったのか?何が何だか………


「なんちゃって★」

「は──―」


言葉の直後、腹に強い衝撃が来た。まるで鈍器で攻撃されたかのようなとても重くて強い衝撃。その衝撃の正体は目の前の男の蹴りだ。そのまま蹴り飛ばされてしまい、オレが空中にいるときに自由になった両腕を使って男は即座に立ち上がる。


空中で態勢を整え膝を曲げて屈む様に着地する。

それと同時に首筋を何かが掠った。着地してから本当にすぐの刹那の間だったので、反応がいくらか遅くなってしまった。掠ったところからは部位が首だということもあり、血がドクドクと流れている。すぐに手をそこに重ねつつ回復魔法をかけて傷を塞いでいく。


「あっははー。ほんと、油断大敵とはこのことですねえ」


先ほどとは打って変わって余裕の表情を男は見せる。後ろを見てみると地面にはナイフが刺さっていた。恐らくあれがオレの首を掠った物だろう。


「あの、後ろ向いてちゃって余裕ですか?」


声が聞こえ咄嗟に前を向くと、すでにもう男の足が目の前にあった。

すぐに腕を顔の前に持ってきて蹴りを防御する。


「あれ?ガードできちゃうんですか?」

「なめんな」


男の足をはじいてやると「おっとっと」と言いながら後ろへと下がっていく。ゆっくりとオレは立ち上がる。


「とんだ頭の可笑しい野郎だな」

「よく言われます」


笑みを浮かべると懐からまたもナイフを取り出してオレへと投擲する。オレの首元へと飛んでくるそれは先ほどとは違い首を傾けて避けた。しかし、オレもまだまだ甘かった。


その男はいつのまにかオレとの間合いを詰めており、すぐそばにまで詰め寄って右手に握り拳を作っていた。何とか間に合えと魔方陣を男の目の前に構築するが―――


「はいパンチ!」


魔方陣を壊してオレの手に拳を打ち付ける。かなりの威力に少し顔を歪めるが、力を抜かず掌の男の手を掴む。そこから引っ張って関節辺りも掴むと縦回転して地面に叩きつける。


「痛っ!」


男がそんなことを言うが、オレは止めずに攻撃を繰り出す。足を思いきり上げてそこから踵落としを繰り出そうとする。


「いや、危なっ!」


真上のオレの足を見てそんな声を漏らして、男は転がって避ける。踵が地面に炸裂し亀裂が入る。直後、男が回し蹴りをしてくる。


腕で何とかガードするが、そこから更に男は体を螺旋させて今度はオレの胸に手を当てる。


「こちら、プレゼントでーす☆」


辞と同時に魔方陣から炎が吹き出す。激しい火花と共に大爆発と言わんばかりの音が響き渡る。


なんつー威力だ!

こりゃ魔王といい勝負だぞ!?炎を体に包みながら、後ろに後ずさる。


「地獄の業火、お味はいかが?」


その質問に内心ムカつきつつ、纏う炎をオレは指をパチリと鳴らし空気を振動させ、炎を消し去らせる。


「はぁっ?」

「今度はオレの番」


瞬きするスキも与えず男との間をすぐに詰める。


「ちょっ、ちょっと!?」

「さっきのお返しだ」


魔方陣を展開、そして炎を出す。灼熱を帯びた煉獄が男を襲う。


「いやあの、とても熱いのですけれ───」


と言いながら、羽を背中から広げ、


「どっ!」


羽ばたかせると炎が掻き消される。

あの羽、魔族だ。あれ、じゃあなんで肌の色が黒くないんだ?まあ、そこは今は追及しないとして。

そう言えば、オレはさっき自然とこう言った。 

“魔王といい勝負だぞ?”

まさか、コイツが。


魔王ルナーアが言っていた男なのか。


「あなた、手強い方ですね」

「だろ。でもあんたはそんなに強くない」

「……あのー調子に乗ってもらうのはいいんですけど」

「?」

「あなた。もうすぐ、死にますよ」


最初は言ってる意味が分からなかった。しかし――――


「がぁっ!」


ふと、苦痛を感じて嗚咽を漏らす。

そして、吐血した。

な、なんだこれっ………!


「まさかまさかさぁ、さっきのナイフに何の細工も為れてないと思ましたか?ざんねーん。実は毒が塗られていましたー」


体中がまるで溶けるように痛い。これは腐ってる、腐食していくという言葉の方が合っているかもしれない。


腕が紫色に染まり、血管が気味の悪い音を鳴らしてそこから血が噴き出す。


「いやぁ、ほんと。自分の天才っぷりに思わず自画自賛したいものです」

「があぁっ!…………テメェっ」


油断していた。こんな頭の可笑しい奴でも、ここまで賢いこと考えられるなんてな。

いや、ずる賢い、だな。

男はゆっくりとうずくまるオレのもとへとやってくると、顔を近づけてきた。


「死にゆくあなたに、私の名前を教えてあげます。ノアールトです。短い人生でしたね」


そう言って彼は背中の羽を大きく広げる。


「それでは、さようならー」


空高く舞い上がり、飛んでいった。すぐにでも追いかけて行きたい所だが、毒がオレを苦しめて力が入らない。


確かにオレはさっき首を治癒したはずだ。なのに何故毒がオレに廻っているんだ?首を治したのならば毒も一緒に分解されて消えるはずだ。まさか、回復が足りなかったということか?


いや、

それだけじゃなくて、毒が廻っているんだ。


オレは馬鹿か。すぐに考えれば分かることだろう。


嘆く暇も今はなく、オレは即刻回復に入る。骨がきしんでミチミチと音を鳴らす腕を持ってきて胸に置き、今度は体中に、先程の何十倍の回復をかける。


緑の光と粒子に包まれると、傷が癒え毒による苦しみが消え去っていく。そして、最後には先程までの痛みが嘘だった見たいに治った。


「はぁ……はぁ……」


危なかった。

もうすぐマジで腕が千切れてたんじゃないのか。


しかし、あのノアールトとか言う奴を逃してしまったのは手痛い。アイツは結構な強さを持つ。今ので捕まえて措くべきだったが、もう周りにはいるはずもない。


ひとまず今はアルトリアの元へと戻ろう

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