第51話 好きな人いる?
二日後、月曜日。
週も平日最初の日を迎え、学園にはいつも通り通学した。
土曜日、オレはラティナベルグに行った際にかくかくしかじかあって、王族ベルムド家の住む国の中心にある巨大な城、ギルデガルデ城に行った。
そこでオレは国王のネクロムと口だけの契約を結んだ。アークヴァンロード自身が行ってきた愚行の罪滅ぼしとして。国に信用して貰うため。
内容は単純、困ったときにオレを頼れというモノだ。
ネクロム王事態、別にもうオレの非道な行いのことは気にしていなかったようだが、オレは納得いかず、そうしたのだ。
そうなった中、日曜日にもうもしかしたらくるんじゃね?なんて思っていたりもしたが、流石にそれはなかった。
まあなんせ、あのマターファルネ王国だ。その騎士なのだから、問題が起こるとは到底思えんが。しかし、なんでもいいからオレをこき使って欲し
い。
まあそこは首を長くして待つとしよう。
さて、今日も一通りの授業を終えたオレ、エヴァ、ミリーゼは放課後に校庭にてオレが先生としてこの二人に、色々と教授していた。
実は今、戦闘中でもある。
「たあっ!」
激しい剣のぶつかり合いを行ったと共に、今度は剣に炎を纏わせて、改めて渾身の一撃の剣を振るう。
ならばと、オレはエヴァと同じように剣に炎を纏わせてそれで、エヴァの剣を受け止めた。同時に横に薙ぎ払い、幾らか向こうに飛ぶと彼女は剣を連続でその場で振るう。
それは炎の剣撃を飛ばすため。数多の赤き刃はオレへと飛んでくる。それは切るのみ。
目でエヴァの放った剣撃を一つ一つ、しっかりと切り刻んでいると、足下が凍り始めた。
「私を忘れないで下さい!」
もう一人の対戦相手、ミリーゼはオレを氷で動きを止めようと考えたらしい。しかし、この氷ではまだまだ、オレは止められない。
この氷はなんてことないと動こうとするが、同時に、いつの間にかエヴァはオレとの距離を一気に詰めて、オレの間合いに入り込んでいた。
「終わりよ!」
叫びと共に剣を一閃させる。上から勢い良く落とされた剣を自分のそれで攻撃を防ぐ。しかし、今度は後ろからミリーゼが氷の礫を放っている。
対して、後ろに高速で魔方陣を展開させそこから水の鞭が出て、氷を全て弾くと共にしなりながらミリーゼの体をぐるぐる巻きにする。
次に、目の前のエヴァの剣を弾き返すと彼女に近付いてデコピンをした。軽くのつもりだったが結構飛んだ。
そして、後に着地。目をクルクルと回し頭にお星様をキラキラさせながら、倒れた。
※ ※ ※
「もうちょっと手加減しなさいよ!」
「そうですそうです!もっとハンデがあってもいいですよ!」
「手加減無用ッつったのはお前らだろうが………」
まあ、手加減はしたけど。
一応かなり抜いてはいた方だったのだが、どうやら二人にとっては手加減とはならなかったようだ。
戦いを終え、共に疲れ果てて地べたに倒れたり座ったりしている二人に水筒を取りだして御茶を配ってやりつつ、話を続ける。
「まず、エヴァな。あの『
前回の戦闘でやったときに比べて出す威力を幾らか上げていた。しかし、その分無駄に爆発が広い範囲に放出されていたため、威力が分散されイマイチだった。
「そこで、オレの提案は一瞬だけ爆発を更に爆発的に上げる、ということだ」
「………えっ?」
「その方が魔力の消費量が少ない上に、移動も速くなれる。因みにその時に爆発が一直線にできたら尚良し」
説明を終えると、エヴァは文句ありだということを隠す事なく反論してくる。
「流石にそれは私でも無理よ!大体一時的に爆発的に威力出すだなんて、一流でもできかどうか分からない技術よ!?」
「知ってる。だから、お前なら出来ると思ってるんだよ」
えっ?とエヴァは声を漏らした。見ていれば分かる、コイツの実力はとっくに一流を越えている。だから、細かな技術の求められるモノも恐らくモノに出来る。
「すぐにかは分からないが、近いうちには習得出来るぞ、お前ならな」
「う、うん。ありがと………」
彼女はそのまま向こうを向いてしまった。耳がほんのりと赤くなっている。褒められて照れるとは、随分と可愛いこと。
「んで、ミリーゼはやっぱり氷魔法系で攻める感じで問題なしだ。ただ、もしかしたら氷魔法の概念事態に問題があるかな」
「が、概念ですか?」
「お前の場合、氷魔法は冷気を魔方陣から放ち氷を創る、という考え方、概念で魔法術式が出来てる。でも、オレが思うにミリーゼには氷をそのまま創るという事の方が大事だ」
彼女は冷気によって氷魔法で様々な距離の攻撃を放ってきたが、近距離は兎も角遠距離は正直今一つというのが本音だ。
そもそもの話として、冷気ではしっかりとした氷魔法の威力が出るかと言ったら、実際はまずまず。更には、発動までに時間が掛かってしまう。
証拠に、オレの足下を凍らせたときも魔方陣から氷を創成させるまでに、結構な時間が掛かっていた。
せっかく魔方陣を遠くの場所で構築することが出来るのだから、やはりそれは活用しないと意味がない。
「なるほど……」
「これから、オレも手伝うからな。スパルタで行くぜ」
「は、はい!」
ミリーゼもやる気は充分そうであった。
そうして、説明を終えオレは二人と同じように地面に腰を下ろし、水筒をガブ飲みする。その後、軽く周りを見渡すと、帰る生徒達が数多くいた。生徒と言っても先輩もいるが、にしても………
「カップル多いなぁ………」
「そうですね、先輩方は兎も角ここ最近は同級生でもよく見る気がします」
「体たらくでよろしいことね」
エヴァもまた、随分と辛辣な事を言う。そこら辺は自由なんだからいいじゃないの。
そう言えば。
「お前ら、好きな人っていんの?」
「こぷぅ!?」
オレの唐突過ぎる質問に、思わずエヴァは吞んでいた御茶を吹き出してから、一方でミリーゼは普通に反応を示した。
「きゅ、急にどうしたのよ!?な、なにもしかしてほしくなったの!?彼女が欲しくなっちゃったの!?」
「私は、いませんよ。あれ以来はずっと」
「ふむ、なるほど」
一人で勝手に熱くなるエヴァとドライなオレとミリーゼ。因みに、ミリーゼにはあの件については気にするなと言われている。なので、普通に聞かせて貰った。
「まあ、勿論のことわたくしアークヴァンロードは好きな人はおりません」
「まあ、好きとかそういう感情ってイマイチわからないですもんね」
「まあな」
ミリーゼには同意だ。恋愛感情が沸くその理由とかも、顔がカッコよかったからだとか、性格が良かったからとか、第一印象を優先している人とかもいればその人の中を重要視している人もいる。そこらへんは人それぞれというわけだ。
そういえば前世で、ある人がこんなことを言っていた。
――恋とは落ちるものなんだよ――
独身男性の教師の言葉だが、まあ元より彼女とかには興味もなかったし、「あ、そーなんですか。へー」と軽く受け流していたのだが。
「でもさ、貴族とかだったら政略結婚とかあるんだろ?そういう場合どうすんだろ」
「たしかにそうですね。まあ本人の意思くらいは尊重してくれるんじゃないんですか?」
「他は知らないけど、私の場合はいやだって抗議したらやめてくれたわよ」
「流石は政略結婚しかけた女、信ぴょう性が高い」
「うっさい!」
まあ、ワルワに誤解を招かせたりはしてるけどな。でも、あれはアイツの自意識過剰から来たものか。
「言っておくけど、うちの方が珍しいわよ。信ぴょう性はないわ」
「そうなんですか?」
「そりゃそうよ。貴族とかは、みんな親の言うことが絶対なのよ。内の家族が優しかっただけ。アークとかの公爵家とかは特にそういうものよ」
「まあ、うちは大丈夫だろうな。父さんと母さん自由にしてくれそう」
父さんも普通に「政略結婚とかはするつもりはないから、相手は自分で決めるんだぞ。勿論反対するときはしっかりと言わせてもらうがな」と言っていたしな。
「で、結局エヴァは好きなやついるのか?さっきは変に盛り上がって聞けてない」
「えっ、いや、その」
「その反応はいるって事でよさそうだな」
「ですね」
「ちょっと!なんでそうなるのよ!」
それからしばらくオレとミリーゼは完全下校時間までずっとエヴァの好きなやつを問い詰めていたが、結局分からず仕舞いに終わってしまった。いつか絶対聞き出してやる。
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