第50話 罪滅ぼし
帰ってきてからも、カオスな楽しいお食事会は続き、一時間ほど経ってやっと幕を閉じた。改めて謁見の間へとオレ達は訪れた。先程までの楽しかった空気とはがらっと変わり、緊張感のある雰囲気が場に漂っていた。
「さて、まずはお主らの勝負の結果を知りたい。どうだったのだ?」
オレから言おうと口を開いたが、意外にも、それより幾らか速く、アルトリア王女がその結果を口にした。
「私の負けです」
「……………そうか……」
彼女は、真っ直ぐ、素直に、何も言い訳をすることもなく告げる。そして、ネクロム王はそこで一度口をつぐむ。それは、負けるとは思っていなかったことからの困惑からだった──────
「…………まあ、元から処刑するきなかったし、別にいいよ」
「「「「「……………は?」」」」」
ネクロム王から発されたその言葉に、彼以外のオレ達五人は、息をピッタリと合わせてそう言った。
待って、どゆこと?
最初から?オレを?殺す気は?なかったと?
というか、たまに出るその口調なんなの!?
「え……じゃあ何を理由に私とこの男を戦わせたのですか?」
アルトリア王女が恐る恐るとそんなことを訊く。すると、口調を戻して答える。
「さっきも言ったが、面白そうだったから、だ!」
だ!じゃねえよ!
何、目ェ思いっ切り開いてそんなこと言ってんだよ!
やっぱり、コイツオレのこと遊んで楽しんでんだろ!
「だから、別にもう用もない。帰って貰って構わないぞ」
ネクロム王はそう言った。その時に、オレは頭の中で思考を巡らせる。一体そのままで良いのだろうか。こんな王の甘さにすがって、何もしないままで終わらせていいのか。
それはただ、逃げているだけでは?
思った矢先に、オレは声を発していた。
「ちょっと待って下さい」
全員の目線がこちらに向けられる。それを浴びつつも、上のネクロム王にオレは言う。
「流石にそれは…………自分自身が納得いきません」
「……それは…?」
「単純な罪滅ぼしをさせて下さい」
どういう事だ?、と彼が訊くすぐ前にオレは答えていた。
「………何がしたいのだ?」
「一つ、契約を結んで頂きたい」
「契約……とは」
「これから、もし国で困ったことがあったら、人手が足りなかったり、窮地に陥る状況になったら………是非、オレを頼って下さい。オレを手下として扱って欲しい」
ネクロム王はふむ、と一度頷くとオレへ質問をしてくる。
「何故だ?お前はもう私が許した。例え娘達が許していなくとも、だ。ならばそれで良いのではないのか?」
「ええ、だからこれは─────」
続けて、届くか分からない自分自身の思いを潜ませて、
「ただの我がままです」
※ ※ ※
帰り、時は夕方を周り夕日の差し込むラティナベルグの商店街を、オレ達三人は並んで歩いていた。
あの後、件の契約は成立となった。王はしぶしぶ、アルトリア王女はイヤイヤ、ユリスは
ニコニコと頷いてくれた。
しかし、オレの両隣を歩く二人にはオレの感情を読み取ることが出来なかったようで、歩いていると、エヴァがまず口火を切った。
「あんた、本当に良かったの?あんな事言って」
それに続いてミリーゼも言う。
「はい、私も同意です。わざわざそんなことをする必要があったんですか?」
二人は同じように思ったらしい。まあ、無理に理解しろとは言わないが、だが分かってほしかったが故に、エゴでコイツらのおでこを軽くデコピンしてやる。
「「イテッ!」」
二人は歩きつつも手で抑える。オレのデコピンは割と威力が強い、前世でもデコピンパンチキングという玩具で、スコアを999出すほどだ。勿論上限は999だ。
「ちょっと!何すんのよ、痛いじゃない!」
「ヒリヒリします……」
「すまん、手が滑った」
何よそれ!とエヴァは憤慨してプンスカする。
「さっきも言っただろ?あれはただの我がままなんだよ」
「我がままって、自分自身に不利益な我がままなんて聞いたことがないわよ?」
「我がままというのは、自分の思うままに動かす事を言いますから、本来なら相手に対しての理不尽が普通ですが、むしろアークさんの場合は逆ですよ?」
「重々承知してるよ」
それ位、考えなくても分かっている。だが、そんな定義は自分自身で勝手に塗り替えている。我がままを自分に押しつけてダメだなんて、言われたことなどない。
ただ、想いは一つだ。
「自分の罪から目を背けたくなかった」
二人は、同時にオレの方を向いた。
「お前らは昔のオレを知らない。だからこそ、オレ自身が行ってきた愚行を知らないんだよ」
まあ、オレも知っているわけではないけれど、あのアルトリア王女の、あの街の反応を、あの家族皆の反応を見ればそんなことは容易にわかった。
「罪を背負う覚悟があっても、とどのつまり過去は消せない。だからその分、国のためになりたかった、だから罪滅ぼしだ」
積み重ね続けた罪という重荷は、容赦もなくオレのことを押し潰す。だから、オレに今出来るのは、否、するべきなのは過去を消すのではない。国に貢献することなのだ。
そうすることで、オレの荷台に積まれた荷物はゆっくりと、時間をかけて少なくなっていくだろう。というか、それを願っている。
「………まあ、アークの勝手なんだし、そこは任せるけどさ。友達なんだし………た、頼ってくれてもいいのよ……」
「その通りです!私達も力になりますよ!」
「…ありがとう」
二人のその言葉から、自然と力を貰った。
これからも、アークヴァンロードの行った罪は抹消出来ない。だから、逃げることも目を背ける事もなく、向き合っていこう。そして、国の力になろう。
ゆっくりとでも良い。一歩ずつ、しっかりと踏みしめて、歩みを進めよう。
※ ※ ※
「ふぅ………」
ネクロム王は一通りの仕事を手際よくいつも通りに終わらせ、そして一息ついた。そこでふと、彼は思い出した。ついさっきまでいた、この空間で契約書のない契約を結んだ、その少年を。
最初、アリアの魔眼により、変装した彼があのアークヴァンロードと分かったときは、驚いた。それは勿論。
そして、そこから更に彼の心には何かされたらどうしたものかと、心配の感情が畳みかけてきた。確かに、彼の行ったことを自分は許してはいる。けれど、それとこれとはまた話が別だ。しかし、それが杞憂であった事にある意味驚いた。
雰囲気も全く違う。憎悪や敵意も何もない、悪い印象が全くない、そんな男だった。
しかし、ネクロム王が最も感心したこと、それは「契約」と言うことを、良く分かっていることだ。
契約、という言葉で話を進めたからには契約書に諸々を書かせることが世の常で、また無難だ。けれど、彼はあえて口だけのモノだった。
口約束だった。
しかし、それがむしろ信頼性があった。アークにも、信頼して欲しいという意が彼には伝わったのだ。
だからそれで終わらせた。アリアからも幾らかの反論ら受けたものの、ある意味男と男の約束。それを契約書等というモノを使いたくはなかった。
「まあ、期待するだけしておくか」
彼に期待を寄せつつ微笑んだ。しかし、そこで速報が彼の兵より伝えられる。
「国王!」
「?どうした?」
「大変です!またもや国の西にて村が崩壊しました。やはり、何者かによるジェノサイドかと思われます!」
「了解した。伝達ご苦労」
はっ!と返事をして下がる。
そして、独り言ごちに言う。
「早速、出番、か」
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