第四章
第44話 始まりの予兆
場所は、マターファルネの東に位置するとある村、バロン村。豊かな自然と動物に囲まれた平和の代表とも言えるであろう国だ。そんな小さな村に、恐怖が襲いかかろうとしていた。
「んーと?……………おっとーありましたー」
暗闇が辺り一帯を覆う夜空を飛んでいた顔の整った少年は、目的のモノのがあるだろう、その村に向かい速度を加速した。そして、村の入り口の上まで飛んでいくと一気に落下して翼で落ちる速度を緩めると、ゆっくりと着地する。
彼は魔族特有の翼を閉じて、村へと足を踏み入れた。
「あの~、スミマセーン。お客ですよ~」
彼は割かし大きめの声で村全体に伝わるように言うと、家から一人の男が出てきた。見た感じでは四十代半ばといったところか。
「いやはや、こんな夜にすみませんねぇ。実はお願いがあるんですー」
「……貴様のような魔族に願われるモノなど、この村にはないぞ」
村の男は警戒心を隠そうともしない。腰にも剣を鞘にしまった状態で装着し、戦闘準備も整っている。しかし、何故ここまで警戒をしているか、それはここ最近よく聞く噂があったから。
「もう、警戒心といてくださいよー。何もしないっですって」
「…………ここ最近、幾つかの村や街が何者かに襲われるという事が起こっている。そして、その襲われた所は、必ずそこの“守り”的なその物がなくなっているという」
少年を無視して言ったこれが、まさに男の聞いていた噂。何より、そのなくなった“守り”には共通点があり、それは宝石だということ。そして、このバロン村にも宝石は存在する。
「貴様の目的は、この村にある“黄金の玉石”だろう」
「分かってんなら話はお速い。それ渡して下さい」
少年はそう言ってにっこりと笑みを顔に浮かべる。
村の平和を維持するその守りの宝石を欲しいという要求。
そもそもそれに受けることすら考えられないのに、その相手が巷で噂となっている危険人物である可能性がある。当然、返す言葉は決まっていた。
「絶対に渡さない。それは我々に取って最も大事なモノなのだ」
「…………じゃあ、力尽くで貰いますよ?」
「やってみろ。それも───」
言っている内に、周りの家から男達が次々と姿を現しており、また武装していることも共通していた。
「この数を相手にな」
流石にこの数を相手にするとなると潔く帰ってくれるだろう。村の男はそう思っていた。しかし、そんな展開があるわけもなかった。
「はぁ~あぁ。全く、せっかく素直に許諾してくれたら穏便に済ませようと思ってのに」
そう言って、彼は手を広げ無詠唱で炎を創り出す。それを彼は適当に、投擲しそして悪運にもそこにいた男に当たると、一瞬にしてほのうに呑み込まれる。
「ガァァァァァ!」
「なっ!………おのれぇ……!」
「あなたが悪いんですよ?僕の話呑み込まなかったから」
「くぅ、ふざけるなぁ!」
男は剣を抜刀、そして全速力で走っていき少年との間合いを詰める。それを、合図とするように他の男達も一斉に少年へと向かっていく。
「はぁぁぁぁああ!」
男は手にあるその剣を振るった。
その時少年の顔は、先ほど見た笑みであった。
気付いた頃には、全てが終わっていた。
村全体は紅蓮の炎に焼かれ、地に這いつくばる人々は必死に声にならない叫びを上げている。
地獄絵図。
その言葉がこの光景を表すにはふさわしかった。
彼は積み重なった男達の上に乗っかり、先程まで対抗していたその男の子首を手で掴んでいた。
「あのですねぇ。モブ程度の雑魚が粋がってはしゃいでいると、目障りだし醜いですよ?」
徐々に強めていくその握力に、首が圧迫され骨にヒビが入りつつ口から赤い鮮血を吐く。しかし、それでも足掻くように、言った。
「き、キィサマに……はっ、……災いっ……が……振るぞ………覚悟して────」
「うるさいうるさい聞こえましぇーーん」
空いている片方の手の人差し指を耳の穴に入れてそう言うと同時に、一気に握力を強めて男の首を握りつぶした。聞くに堪えない首の骨が折れる音と、赤い液体が地面に落下しなる独特な音。それは少年に取っては、とても心地よかった。
「つまらないなー。まあ宝石はゲットしたし、いいことにしておきますか。オーダークリアっと」
彼はメモ帳のようなモノに書かれていた“黄金の玉石”の五文字を手についた血で雑に消した。
「えーっと次行くところは………あ、爆弾投下しておきますねー」
村を出ると、聞いている人などいないがそう言い、気まぐれに村に特大の炎をぶちかました。少年を背にバロン村は爆ぜ、爆音が轟いた。
「次は………翡翠の宝石ですかね………?」
その少年の名は、ノアールト。次なる脅威となる魔王さえも殺すことが容易い魔族の若輩だ。
※ ※ ※
英雄譚フレイブ。
勇者である男の名前がそのままタイトルになった本。実話を元に作られたそれに書かれているモノは全て、彼が英雄と呼ぶに相応しい話。
フレイブ・フリートは小さな村で生まれた少年。しかし、その少年は決して平凡ではなかった。大人でも持ち上げることの出来ないモノを容易く持ち上げたり、あろう事か六代属性の全てを完璧に使えたり、彼は規格外。
The普通のその村のThe普通の家族から生まれたTheTUEEEな男。後に、みなは彼は神からの使者であり勇者であると知る。
それから月日が経ち、彼は旅立ち勇者のつとめを果たすために修行を重ね仲間を手に入れ、魔王に挑んだ。
激戦を繰り広げた末に仲間が犠牲になりつつも彼は魔王討伐をし、自分の使命を果たしたという。
しかし、彼には不幸が訪れた。
翌日の帰り道。
回復した状態で彼が高山を歩いていると、一匹の漆黒の巨龍が現れた。彼はその龍と戦い、敗北。
死して彼の人生は幕を閉じた─────────────
「……………なんとも切ないというか……」
「哀れな結末ね……」
「で、でも魔王には勝ったじゃないですか!……仲間が…犠牲にはなっていますが……」
ミリーゼはなぜかフォローをしている。
でもなぁ、魔王ならオレも一人で倒したし。
因みに、何故このような話をしているのかというと、先程の歴史の授業でこの英雄譚を習ったから。一部の話しか聞かなかったので、オレ達三人は続きが気になってしまい、学園内の図書室に訪れこの本を読んでいた。
「にしても。勇者を殺すドラゴンねぇ……」
“英滅龍ルーアサイド”
未だどこかで眠っていると言われる、伝説の黒龍。破壊龍でもあり沢山の二つ名を持つドラゴンだ。
「一体どんな龍なんだろうな」
「会ってみたいわ!」
「きっとカッコいいですよ!」
「あのなお前ら、魔王殺した勇者を殺した龍だぞ?会ったら多分、即、殺されるぞ」
そう言うと二人とも「ひいっ!」と言って背筋を震わせた。
まあ、確かに会ってみたいっていう気持ちはわからんでもない。恐ろしいとは言っても伝説の龍なのだ。会ってみたくもなる。そんな気持ちは心の内にしまっておき、オレはゆっくりと本を閉じた。
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