第42話 粛正

「粛正?ハハハッ!笑わせんなよ」


何が面白いのか、彼は声を上げて高笑いする。


「粛正っつーのはな、強い奴が弱くて醜く愚かな奴らを断罪することを言うんだぜ?」

「そんなことは知ってんだよ。だから、オレがお前を粛正すんだよ」

「おいおい、首席だって調子ノンなよ?数字の順番なんてなんも関係ねえんだよ。この学園には実力を隠してる奴がいるんだよ。まあ、俺以外は知らねぇけどな」


彼はそう言って不敵な笑みを浮かべる。今の彼に先程までの彼など微塵も残っていなく、ベルドラと言うことなど、誰も分かることもなく分かろうとする奴もいなかった。


「オレは昔から下克上みたいな事が大好物でなぁ、実力隠して順位付けで良かった奴を片っ端からぶっ潰すのは最高に楽しいんだよ!」


言うと同時に詠唱をすることもなく、彼の後ろの空間から様々な魔方陣が描かれる。その数は三十を軽く超していた。


「思い通りに行かなかったイライラもあるし、ここでぶっ潰す………いや、ぶっ殺してやるよ!」


魔方陣から、水、風、炎、岩、氷、光の刃が数えきれぬ程に放たれ、それはオレへとめがけ一直線に向かってくる。


そして、激しい爆音を轟かせ土煙を巻き上げながらオレへと攻撃が加えられる。肩を貫き、頬をそして頭をかすり、腹を穿つ。


「おらおらおらおら!まだまだ、たっぷり味合わせてやるよ!!」


止まることのない連撃がオレを襲う。こんなに高度かつ速く魔法を放てるって、本当に実力を隠していやがった。


「おい、いい加減やめろ!」


すると、審判の男は声を張り上げベルドラに言う。


「あぁ?うるせえなぁ。たかが年が高ぇだけの三下がしゃしゃり出るんじゃねえよ!」


ベルドラはオレへの魔法を止めぬまま、新たに雷撃の矢を創り出しそして、彼に放ち肩を穿った。そして肩を貫かれ、叫びながら尻餅をついた。


その後も続く、オレへの連続攻撃。いい加減に飽きてきたのか、頭をポリポリと掻きながら口を開く。


「おいおい、さっきからずっと静かだけど。まさか死んだんじゃねえよな?もっと楽しませてくれんだよな?」


そう言いながら彼はやっと攻撃を止めた、未だに煙が周りを待っており、全く視界は見えなかった。そして、しばらくして見えたオレの姿は実に残酷なモノだった。


全身がかすり傷だらけで、至る所が矢で貫かれ、口から吐血し、周りからすればまさに満身創痍と言った状況であった。


「アーク!」


後ろからはエヴァの必死な叫び声が聞こえてきて、オレの元へ行こうとするがそれを他の先生達に制される。


「……はぁ~。んだよ、期待した俺が馬鹿だつわたわ。結局死にやがった」


落胆するかのように肩を落としてため息を一つつく。まあ、こんな姿見てその上で動かなければそんなふうに無理はねえよな。


「誰が死んだって?」

「!?」


残像が残るような速さでベルドラはオレに首を向ける。


「てめえ、生きてやがって……」

「当たり前だ。こんなの痛くもねえよ」


オレは体に刺さった矢を手で力任せに抜きながら言う。


「不思議だよな。心がない奴の攻撃って言うのは自然と痛くないもんだ」

「……てめぇ……!」


そう言うと、更に魔法をオレに放っていく。先程までは技と攻撃を受けていたが、ここからは違う。オレにめがけて放たれるそれらを片手でいとも簡単に掴んでいく。


「なっ、なんだと……!?」

「……一つ聞く」


静かな声音でオレは質問を問いかける。


「お前は、人の気持ちを考えたことがあるか?」


手の中にあるかその矢を握りつぶした。バラバラに砕け散る。


「……お前を信頼している人の気持ちを……お前に恋している奴の気持ちを!考えたことはあるのか!」


今まで出したこともないような声を張り上げて出し、会場に響かせながら走ってベルドラに向かっていく。顔つきが必死に変わり、高速で矢を放てる限り放ちまくる。それらを容易くは避けていくと、彼の目の前に。そして胸に豪快なナックルを繰り出した。


オレの腕がめりこみ、あばら骨をミシミシと音を鳴らすと力に任せ腕を振り、ベルドラを殴り飛ばした。そのまま壁へと向かっていき、後に激突壁に大きな凹みを創り、彼は口から赤い血を吐き出した。


「くっ……」


壁から崩れ落ちたベルドラに対して、口の中の血を横に吐き捨てた後に言う。


「自分自身の我欲を満たすためだけに相手を利用する奴らは、人の事を微塵も考えやがらねえ。それがお前も一緒なのは言わずとも分かることだ。だからこそ、ここでオレはお前を粛正する必要があるんだよ」

「………うるせえなぁぁ………」


ベルドラは更に額に青筋を立てて、憤慨する。力無く立つと、目を見開いて充血した目をこちらに向けた。鋭い双眸がオレを捉えそして獲物を仕留めるかのように魔法を放った。


「この野郎がァァァァァァァァァ!!!!!」


耳障りなほどに大きな絶叫と同時に魔法が放たれた。またもや矢を放つので、他に技がねえのかよと呆れてもいた。


右手をゆっくりと上げ、そして指を鳴らした。すると、空気は激しく振動しその強烈な振動は魔法を刹那にして消し去らせた。


「なっ……!」


その光景に彼は驚かざるを得なかった。一度呆けたと思えば今度は、歯を食いしばりギリキリと歯ぎしりを鳴らし、そして叫んだ。


「なんなんだよ!それは!?」

「ないしょ」


自分で創った魔法だなんて言えないし。


「ち、違う……嘘だ……これは嘘の世界なんだ……俺が最強なんだ……誰にも負けない……」


自分自身に必死にそう言って、精神を整えようとするが、それはむしろ逆効果。その洗脳じみたモノが更に彼の心を追い詰めていく。


「俺が………俺が最強ナンダァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」


絶叫しながら両手を上に広げると風を巻き込みながら魔法を構築していく。雷と炎と水と風が一つに混ざり合い、矢へと変貌していく。


「殺シテヤルゥゥゥゥ!」


仕舞いには特大の矢となったそれをオレへとめがけて放った。猛烈な勢いで向かってくるその矢に向けて手を掲げ、『衝撃インパクト』を放つ。矢は意図も簡単に消えてしまった。


「なっ…………」

「これでもまだ勝つ自信があんのか?」


問いかけると、彼は急に命乞いをするかのように訴え掛けてくる。


「なんなんだよ!お前は!オレが好きなことをして何が悪いんだよ!自由になんかやったって良いじゃねえか!何が悪いんだよ、なぁ!」

「……それが分からない時点で論外だ」


オレは言葉に怒りの感情を込めて、ベルドラに言う。圧倒的な覇気に彼は動かなくなり、恐怖でブルブルと震える。


「お前に何かを言ったって改心することはない。だから──────」


拳を握りしめ硬化魔法で黒く、強化魔法で白いオーラを纏い、そして彼の間合いに一瞬で詰め寄る。


「!?」

「終わりにするよ」


顔に拳を入れ、そこから回転して反対側に向かって殴り飛ばす。地面を削りながら止まることなく物凄い速さで向こうに進んで行き、壁を破壊した。


「…………ふぅっ」


オレは最後にもう一度、息を吐いた。

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