第32話 クラス委員
「もうすぐ、学年別対抗戦が行われる」
教室に入ってきて早々に、メレナはそう言った。
学園のパンフレットの中にこの行事について書いてあったので、一応覚えてはいる。
学年別対抗戦。
それは新学期、オレ達にとっては入学して間もなく行われる、このリデスタル学園有名行事の一つである。この行事はそれぞれのクラスの親睦を深める事も狙いの一つでもあるらしい。
「つーわけで、いまからクラス委員決めんぞ」
………いや、接続語おかしいだろ。
学年別対抗戦があるよー、だからー、クラス委員決めるよー。いや、それおかしいーよー。
一体何の繋がりがあるというのだろう。そんなオレの疑問を読み取ったかのように、隣のエヴァが挙手して質問をした。
「学年別対抗戦とクラス委員を決めることには一体何か意味があるんですか?」
そう、それ!
それが知りたい!
「わかんねえか?学年別対抗戦はクラスで戦うんだ。ツー事は、その皆を統一する奴が必要なんだよ。そこで決める必要が元からあるクラス委員を決めておこうっつー事だ」
なるほど。そういうことだったのか。
しかし、そういうことならオレは下がるべきだろう。今のオレは友達が一人や二人、出来たとはいえ、まだクラスの皆から信頼されているわけではない。
誰かを統一する役目は、クラスから信頼が厚い者が一番合っている。よって、オレは適任ではないのだ。
「因みに、男女一人ずつなんだが、俺が勝手に決めたから」
は?
「男子はアーク、女子はエヴァナスタにしてみたいんだが、異論はあるか?」
「ありまくりだわ!」
思わず声を張り上げて、オレはメレナに叫んだ。
「いやいやいやいや、おいおいメレナ先生!もっと考えろよ!今のオレの信頼度考えて見ろ!エヴァナスタは兎も角、オレはだめだろ!」
すると、隣からエヴァがオレの腰をぷにっとつねってくる。
「別に気にしなくて良いじゃない。逆にこれで親睦を深められるとポジティブに考えなさい」
「……まあ、そうだけどさ……」
流石に、この仕事は荷が重いのだが。
オレは落胆しつつも、しょうがないかと受け入れようとしていた。
「改めて、異論はねえな?」
メレナは言い改める。
すると、一つ手が上がった。それはオレの席よりもいくつか下の席に座る男、ワルワ・カナリアその人である。
彼は強いて言わずとも、このクラスでは最も信頼が強いと言っていい。理由は二つ、性格と外見がイケメンだからである。
彼は金髪を短く切り、サッパリとした髪型に整った顔。イケメンと言わざるをえない。また、誰かをいつも助けようと努力し、また優しいそのイケメンさ。要するに彼はクラスカーストトップである男なのだ。
「お言葉ですが、彼はクラスでは未だ信頼が薄く、リーダーの素質がありません。よって適任ではないかと」
少しだけ言葉に刺を感じるが、クラス委員になることを防げるのならそれで良し。
メレナはうーんと考え込むと、急すぎる提案をする。
「じゃあ、お前がするか?」
「えっ?」
拍子抜けな声をワルワが言うと、切り替えるように首を振り言う。
「先生のお望みならば」
彼は顔をキリッとした顔にしてそう言った。すると、メレナも笑みを見せた。よし、どうやらクラス委員にならずに済みそうだな。
「そうか、じゃあいいわ」
「えっ!?」
「なんでやねん!!」
ここでメレナのまさかの発言に思わずオレは立ち上がって叫んでしまった。立ち上がったオレにクラス中から目線が集まる。オレはゴホンゴホンと咳をしてから座り、その後にワルワも同じように咳をして口を開く。
「それはどうしてですか?」
「お望みじゃねえからだ。俺がコイツら二人にした理由は実力だ。首席と次席だからな」
「し、しかしそれで務まるとは思えません」
「だから言ってんだろ?してみたいって。務まんねーなら俺の権限でクラス委員やめさせるさ」
……………いやそれもかなりおかしいと思うんだけど。
大体そんなお試しみたいなものでクラス委員っていう大事な役目をやらせるなよ。
めちゃくちゃだよ。
「それとも、なんだ?お前がやりてえのか?」
「……やりたい、というわけでもありませんが、あのアークヴァンロードよりは俺の方が適任かと」
やっぱり、何処か言葉にもの凄い刺を感じるのだけれど。
メレナはワルワを興味深そうに見つめると、口を開いた。
「まあ、決めてやらなくもねーけど。何か方法がねえとなー」
「………ならば、俺とアークヴァンロードを戦わせてはくれませんか?」
………………はっ?
※ ※ ※
雲一つない空、その下のリデスタル学園の校庭には二人の生徒が対峙していた。クラスカーストトップ、ワルワ・カナリア、そしてクズ王子ことオレ、アークヴァンロード・ジュリネオンである。
正直、言ったところオレは巻き込まれたとしか言いようがない。そ・も・そ・も!オレはクラス委員をやりたいだなんて思っていない。勝手にメレナがオレにやらせるって決めて、それに対してワルワが反対して、んでかくかくしかじかでこうなってしまった、即ちオレは只巻き込まれただけなのだ。
結局、オレはワルワと校庭へと向かい戦いをいざ始めようと云うところだった。正直オレは萎えているので、つい欠をしてしまう。すると、向こうにいるワルワが怒声を上げる。
「おい!欠なんかしてやる気あるのか!」
「だからねえんだよ。一言もオレはやりたいだなんて言ってねえ」
「ちっ!余裕こきやがって!」
聞いちゃいねえ。
会話すら出来ないのならもう受け入れる他ない。やる気はないがまあ、どうせ負けてやれば良いだけの話なのだ。
あ、そう言えば。
「なあ、先生。何かしらのハンデとかつけた方がいいですか?」
「ん?じゃあ、二つだな。片手しか使うな。それも利き手じゃない方。もう一つはその場から動くな」
片手しか使うなは兎も角、その場から動くなって流石にやばない?まあ、負けられるのならそれで良いんだけど。
「ちっ、余裕なのか…」
ワルワがオレをギリッと睨みつける。いや、その目線はオレじゃなくてメレナに向けてくれませんかね。ワルワは木箱から木剣を取りだしてオレに向ける。
「俺は絶対、お前には負けない。クズに負けるわけにはいかない!」
「………なあ、なんかさっきからずっとお前の言葉に刺を感じるんだけどなんなの?」
「お前は本当にムカツクんだよ。でも一番怒っているのは────」
そこから想像もしなかった一言が。
「俺の
「へっ?」
婚約者ってまさか、エヴァのこと!?
えっ、アイツ婚約者いたの!?
えぇぇぇうっそぉぉぉ!?
「エヴァナスタは、俺の婚約者だった。けれど、家が反対してダメになったんだ。でもリデスタル学園に入ったとき、仲良く出来ると思ったのに……なのに!お前が邪魔するから!」
アイツの話からだとどうやら二人は相思相愛だったらしい。それにオレが邪魔をしてきたが故、気に食わないと。まあ、確かにちゃんとした友達がエヴァだからなぁ。
「だから、オレがこの勝負に勝ったら!エヴァナスタを嫁に貰う!」
なんか、この戦いの趣旨が変わってる気がする………………。
しかし、かなり面倒臭い事になっているぞこれは。渋滞しすぎてそろそろ疲れたんだけど。
「んじゃ、始めるか」
因みにクラスの皆は外から見守っているらしい。近くにいるのは後はメレナだけだ。
「お前、武器はいらないのか?」
「一応、これもハンデな」
「っ!どこまでもなめやがって……」
まあでも、正直に言うなら。
さっきの話は少し怪しいと思っている。確かにあり得る話ではあるが、アイツは少しだけ変わった奴だ。何か、違う話な気がする。だから、しょうがないがクラス委員になることは甘んじて受け止め、一回エヴァの嫁にすることを防ぐことを決めた。
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