第三章
第31話 プロローグ
オレの学園生活はエヴァが友達になってからほんの少しだけ変わった。まず、変わったことその一。
「おはようございます!」
「おう、おはよう」
その一は挨拶してくれるようになったと言うことだ。今まではおはようございます、どころか陰口を叩かれる始末だったのだが、今や陰口は少しに減りそれどころか挨拶をしてくれる人が多くなった。
その二は…………ないな。
まず、とかのたまったが変わった事なんてこれくらいだ。後は精々クラスでのオレの印象が少し変わった程度か。
兎にも角にもほんの少しだけだがオレの学園生活は変わった。それはオレのちょっとした努力よりも、ある存在が傍にいてくれたからだろう。
と、噂をすれば。
「アーク」
ふと、後ろから声を掛けられる。実に聞き馴染みのある声だ。なんせこの一ヶ月ずっとオレの隣にいたからな。嫌でも覚える。
「なんだよ、エヴァ」
後ろを向くと、そこに立っているのは金髪のツインテールの少女、エヴァナスタ・エピソードだ。国の誇り高き騎士団、その副団長シューク・エピソードの長女。リデスタル学園の次席の少女だ。
そして、この間魔王に連れ去られた者だ。
しかし、何もされることもなく無事に助け出されたのだ。まあ、助けたのはオレなのだけれど。
彼女が連れ去られたのは魔族と人間のハーフだったから。彼女は自分の体が原因でこれまで苦難の生活を送ってきていた。
それが理由で彼女は友達になることを恐れていたが、オレは気にしないと友達になって貰った。
「なんだよじゃないわよ。朝の挨拶」
「ならおはようでいいだろ」
「私から挨拶するなんていやよ」
「なぜ故」
こんな風に今は軽口を叩き合うような仲だが、彼女にはあれから沢山助けて貰った。
例えば、オレとエヴァがよくいるようになってクラスの中でオレが洗脳したのではという冤罪を掛けられたことが一度あった。やはりクズ認定されていることもあり、あっという間に信じ込んでしまったのだがその時、エヴァが助けてくれたのだ。
「私は洗脳なんてされてないわ。私が自分で選んで隣にいるだけ。彼のことを勝手に陰で言うのなら相手になるわよ」
その威圧感からか、はたまた信頼性が高いからか。彼女のその一言によってオレの冤罪は晴らされたのだ。
他にも数え切れないほどに彼女には助けて貰っている。まあ、その代わりと言っては何だがオレは彼女の専属魔法教師みたいなモノになっている。
放課後に外に出て、魔法についてオレが教えるのという、まあ本当に教師的な感じでやってるのだが一つ彼女について分かったことがある。
彼女は異常なほどに呑み込むのが早い。魔法を教えたらその次に日にはもう殆ど完璧に使いこなせているようになっていたりするのが日常的な茶飯事だ。まあ、それでもその威力や質はオレには及ばんが。
エヴァと並んで教室に入る。オレとエヴァの席は隣同士なので、そのまま離れることもなく席に座るとオレの方に一人の少女がやってくる。
「おはようございます!アークヴァンロード様!エヴァナスタ様!」
「おう」
「おはよう」
この少女はリエット・エトセトル。オレがエヴァの次にこのクラスで友達になった人だ。彼女は少し天然な感じが溢れる無邪気な女の子というのか第一印象なのだが、その裏は超ゴリゴリの拳術使いでモンスターとかも素手で派手に殺っている。
「今日のダンジョン探索は三人組らしいですよ、勿論一緒に組みましょうね!」
「言われなくても分かってるよ」
「楽しみにしてるわね」
「はい!ではまた!」
彼女はいつもいつも、実に元気だ。それ故かいつも彼女の大きな元気に満ちている声が聞こえてくるのだ。更に立て続けにもう一人。
「おはようございます、お二方」
「「おはよう」」
めがねを掛けた短髪の少年、ボルトン・アルクイエ。彼はクラスでは目立たない方で、けれど魔法の実力は確かな者だ。彼と友達になれたのは、実は彼から近付いてきたことがきっかけで、彼が授業で分からないことがあったからと声をかけてきたのだ。
最初は話し掛けられことに驚いてしまったが、今となってはそれは日常茶飯事だ。彼は見た目のままを物語るように、礼儀よくまた、静かだ。
「相変わらずお二人は息ピッタリですね」
「変なところ突っ込むなよ」
「そ、そそうよ」
「あははは。朝から元気で何よりですよ。ではまた」
彼はどちらかというと、ほんの少しだけSである。だからか、オレとエヴァがいるときに毎回と言っていいほどに茶化すようにオレ達をからかってくる。オレは慣れてしまったが、エヴァは慣れてないらしく、こうやっていじられる度にあやふやになって語彙力が異常に衰える。
「アイツは相変わらずだな」
「ほんと、アイツはちょっとヤバいわ。それはもう……なんというか…ヤバいわ」
この通りである。
その外にも動揺が起こっていると彼女の語彙力は死ぬほど落ちてしまう。
まあ、そんなことはさておき。
オレは今、少しだけ学園生活が楽しくなった。クズとして生きていくことすら覚悟していたのだが、それも杞憂に終わりつつあり徐々に汚名返上の一歩を確実に歩んでいる。これからも、頑張って頑張ろう、そんなふうにオレが改めて決心したとき。
「よう、おはようお前ら!ホームルームはじめんぞ!」
新たに、事が始まろうとしていた。
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