第29話 オレ達は友達

一階に打ち付けると、ドガァァァァァン!と音が鳴り響く。地面はまるでクレーターのように大きく凹んでおり、魔王ルナーアは血を更に口からふきだし目も虚ろになっていた。


オレの拳は彼女の心臓を射貫いており、魔王ルナーアの体の中にオレの拳が入り込んでいる。すると、彼女の体は徐々に黒き塵と化していき空へと消え始めていた。 


「オレの勝ち、みたいだな」

「……そう…じゃな」


消え入る声で魔王ルナーアは言う。その顔は満足しているかのような、そんな笑みが浮かべられていた。その顔には、美しさが溢れていた。彼女の体から腕を抜くとオレは口を開く。


「どうだ?小童にやられた気持ちは」

「……小童、のう……本当かどうだかの……」


意外と鋭い。

そこでオレは正体を明かすことにした。


「実はな、オレは前世から転生した人なんだよ。だから、実年齢はもうとっくに大人なんだよ」


そう言うと、納得したのか、はたまた呆れたのかため息を一つ吐く。


「そう言えば……前の魔王は……勇者から言伝を預かっていたの…」

「言伝?」

「………次に…来るべし勇者は………世を越えて……現れる……そしてその者は……圧倒的だ……」


その言伝を言い終えると、そう言うと一拍置いて改めて口を開く。


「次なる魔王として……わらわが選ばれたときは……信じておらんかった……しかし、言うとおりじゃの……わらわの圧倒的敗北……お主の圧倒的勝利じゃ」

「……魔王の割には随分と潔いんだな」

「……なに、素直に負けを認めて何が悪い」

「悪いだなんて言わねえよ」


魔族という存在がオレにとってはあきらめの悪い悪足掻きばっかのあきらめの悪い奴だと思っていた。まあ恐らく偏見なのだろうけど。

魔王のコイツを見てたらそう思ってしまう。


「最後に何か言いたいことはあるか?」

「………ならば一つお主達に言葉を残そう……」


そう言うと顔を少し真面目な面に。


「………魔族の中に………頭の可笑しい小童がおる……そやつは皮肉にも……魔法の技術が異常に高……い………わしが男を嫌う理由はそやつでめある……」


彼女曰く、その小童とやらはかなり狂った奴らしく殺戮を趣味としている、性格も明らかに可笑しいのだという。

だがしかし、魔法術に関しては魔王である彼女と同じほど……もしくはそれ以上だという。飛んだ衛兵がいましたねぇ。


「じゃから………気を付けるのじゃな……」

「…………ああ、分かった」


そう言うと、少し笑みを浮かべそしてゆっくりと二つの瞼を閉じた。その時、既に彼女の体は半分以上が既に塵となっており顔も半分近く消えていた。


彼女がエヴァナスタを連れ去った事を許すつもりはない。けれど、彼女をオレは嫌いにもなれなかった。そんな曖昧な感情を残し、オレは外に出る。

エヴァナスタ、無事かな?


いつの間にか、しまっていた大きなドアを片手で開く。すると、少し距離の離れた場所にエヴァナスタが座っていた。せっかく似合っている制服は何故かボロボロになっており、顔も汚れていた。しかし、それでも汚いとは思わなかった。


夜が開けたのが、後ろから朝日が照らす。そんな中、オレはエヴァナスタに近付いていく。


「なんでそんなにボロボロなんだよ。あっちいたときは全然綺麗だったろ」

「……階段で転んだのよ」


どうやら完璧な感じのある彼女でも、転んだりはするらしい。まあ、完璧過ぎる奴がいてもキモいとしか思わないけど。


「ま、ともかく無事で良かったよ」


安心を吐くようにそう言うと、彼女はモゴモゴと口を動かしながら喋る。


「な、なんで……私を助けに来たのよ…」

「なんでって、さっき言ったとおり友達だからだ」

「……なんでそう言えるのよ」

「……なんでだろうな」


エヴァナスタの一戦により始まった付きまとわれ生活習慣。正直、最初は鬱陶しいとしか思っていなかった。しかしいつの間にか、彼女がずっと隣でオレに付きまとって、オレが突っ込むとなんらかの理由をつけてオレに反論して。

そんなふうにいつも一緒にいることが、オレの中では、ただ楽しかった。

そう思ったのだ。


「……ただ、お前と過ごした日常が楽しかった。それだけだ。他に理由はいらねえよ」


照れ臭く、頬が紅潮していることが自分でも分かった。


「んで、お前はどうなんだ?オレ達は友達か?そうじゃないなら友達になってほしいんだが」


いつだかに訊いたこの質問。その時は、全力で否定された。今はどう思っているのか。彼女はまたも口をモゴモゴと動かしながら、しばらくして口を開く。


「友達って、ことでいいわ……」


よっしゃぁ!

心の中で全力で叫んだ。

遂に異世界の学園同級生で友達第一号だ!

と、無性に喜んでいるとエヴァナスタからまさかの一言が。


「……と、言いたいけれどダメよ」

「……えっ?」


えええええええええええ!!!?

なんでだよぉ!?


「な……なんでだよ?」


今の空気はそう言う感じのものだったろ…


「……きっと、いつか私を裏切るのよ。あなたも……」


どこか、苦しそうなエヴァナスタ。そんな彼女にオレは言う。


「それは、お前の正体が関係するのか?」

「!?」


驚くようにオレに顔を向ける彼女。

というか、これがオレがずっと訊きたかったこと。エヴァナスタは、ということだ。魔族に連れ去られたのはもしかしたら、それも理由なのではと考えていたのだ。


「まあ、大体予想はついてたよ。人族じゃないのかもなって。そんな怖がんなくていいから、言ってみろ」


そう言うと、彼女は顔を俯かせる。言いたくないのなら別にいいんだけど。どうせ人族じゃないっていうならどうせあの種族だろうし……。

すると、覚悟を決め彼女は言った。


「私は……魔族と人間のハーフなの!」

「………やっぱりじゃないけど、そうなんだな」


オレがそう言った後、しばし流れる沈黙の時間。


「…………えっ?それで終わり?」

「えっ、逆に言うことあるか?」


たかが、魔族のハーフだったということで彼女に罵詈雑言で糾弾するつもりはない。


「あなた、驚かないの?」

「いや流石に驚きはしたけど、だからってお前の事を色々言うつもりはない。友達という意識も変わりない」


そんなんで、簡単に裏切ったり悪口いったり虐めたり、そんなことする奴はただの論外だ。

その人の事を分かってこその本当の友達なのだ。築いていくなら、偽物ではなく本物の友達の関係がいいのだ。


前世でもそうだった。

元ヤンの友達や、親のDVのせいで体がひどくボロボロの友達やら、様々な人と友達になった。それはそんな彼らの気持ちをちゃんと受け止める事が出来ていたからだと、自惚れだがそう思う。


「ま、そんなわけで、オレ達は友達だ。いいな?」


だから、これからもオレはそうやって生きていくことを決めていたのだ。

エヴァナスタは顔をゆっくりと上げる。その顔には目尻に涙が浮かんでいる、だかしかし笑顔の輝く、そんな表情だった。


「………しょうがないわね…なってあげても……いいわ…よ?」

「なんで、偉そうな上に疑問系なんだよ」


まあ、そういうことは嫌いじゃないが。


「よろしくね、アークヴァンロード」

「ああ、よろしく」


オレは彼女に手を差し出した。一度それを見て3秒ほどしたあと、彼女は微笑んで握り返してくれた。


「というかさ、そのアークヴァンロードってフルで言わないで普通にアークって呼んでくれね?」

「え、な、ななんでよよ!」

「いやだから、言いにくいだろ?」

「………わかったわよ。これからアークって呼ぶわ」

「それでよし。因みにオレもお前の名前、普通に呼びたい」

「え、な、どういうこと?」

「エヴァナスタって少し長いだろ。だからオレのアークみたいに何か言い方ないのか?」

「……じゃあ……エヴァでいいわ」

「お、それいいな。じゃあそう呼ばせて貰うぜ。てなわけで、帰るぞエヴァ」

「あっ、ちょっ、待ちなさいよ……ア、アーク!」


エヴァがオレの事をそう呼んでくれたとき、言葉にならないほど嬉しかった。

ひとまず、こうして事は無事に終わったのだった。

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