Yes-No

22:50 新横浜駅


僕 結構飲んだからお酒はもういいや

真 じゃあコーヒーでも飲みましょうか

僕 そうしたいね

真 こっちの方にお店がありますよ

僕 まかせるよ


彼女の知っているお店へ向かったのだが


真 あれ?もう閉店みたいですね・・・

真 どうしましょうか?

僕 駅前で閉店と言う事は、他の店もあやしいけど

僕 少し歩けばカフェがあるのは知ってるけど、行ってみる

真 いきましょう


歩道橋を渡り移動する彼女と僕

指を絡ませる事もなく、腕を組むでもなく

僕の知ってるカフェに着く


僕 やっぱりやってないね

真 ですよねぇ?

僕 あてはないけど少し歩いてみる?

真 はい


大通りから、徐々に静かな方向へ歩を進める彼女と僕

新横浜は有名なホテル街

沈黙に耐えきれない僕


僕 しかし、こんな場所を二人で歩いて、誰かに見られたら言い訳できないね?

真 なんでですか?

僕 新横浜のこの辺りは有名なホテル街だからね

真 そうなんですね


①ホテル街へ向かって歩いても動じない

②菊名ではなく、新横浜を選択

③今夜は遅くなっても大丈夫な理由を明かす


いくらブランクがある僕でもわかる

彼女がド天然でその気がなかったとしても、カン違いした僕に非はない

どんどんマズイ方向へ歩を進める彼女と僕


そして繁華街の切れ目にあるバーを見つけた


僕 お酒しか無いかもだけど、この店で飲もうか?

真 ここは入った事ないけど、名前だけは知ってます

真 入りましょ


奥のボックス席に対面で座る

やはりコーヒーはメニューになかった


店 ご注文は?

僕 ジンライムを

真 ファジーネーブルをお願いします

店 かしこまりました


僕 よくファジーなんとかを頼んでるけど好きなの?

真 私はファジーなんですよ


ファージー=あいまい・・・だったよな?

そしてとりとめのない会話を楽しみ

いつもの感じの心地よい時を過ごした


対面の彼女を見て僕は思う


可愛いなぁ

綺麗だなぁ

美人だなぁ

いい女だなぁ


好きだなぁ


そう、やはり僕は彼女が好きだ

昨日からかなりの時間を共にしてるが

全然飽きない

持て余さない

どころか想いがどんどん加速していく


彼女が席を外した時、時計の針は頂上を指そうとしていた

僕も彼女も終電をなくそうとしていたのかもしれない


店を出て

僕と彼女は指を絡ませ、無言で歩を進めた

向かった先は


新横浜駅


彼女から発せられていたサインに気づかぬふりをして

いや、彼女は馬鹿ではない

気づかないふりは、見透かされていただろう

それでも僕は踏みとどまった


僕自身の保身?

或いは昨日の反省からだろうか?


それ以上に彼女を悲しい境遇に突き落とせない

だから踏みとどまった


もし彼女が自由な立場なら?

僕は欲望に溺れただろう


彼女を改札で見届けた


僕 じゃあ

真 おやすみなさい


僕は彼女に背を向け、手を振って帰路へついた

曲がり角にさしかかり、下を見るふりをして後ろを盗み見ると

僕を見送る彼女


僕は踵を返し

彼女の元へ全力で走って

抱きしめて・・・



なんて事ができるわけもなく

僕は振り返らずに少し速足でその場を去り、電車に乗った



携帯が震える


妻:ずいぶん遅いけど吐いたりしてないよね?

僕:大丈夫。今地下鉄だからあと30分くらいで帰る

妻:気をつけてね

僕:うん


彼女からのラインでは無かった

妻とのラインを切り上げ、彼女へ連絡した


僕:上りは最終でしたが、下りはまだ余裕でした

僕:おやすみなさい

真:昨日に引き続きありがとうございます

真:おやすみなさい


昨夜ブレーキを踏んだのは彼女

今夜ブレーキを踏んだのは僕


今夜チャンスを逃した

でもこれから逢わなくなる事はないと思えた


彼女が大阪に戻るまで、彼女と僕は何度も逢う

そしてまた、どちらかがアクセルを踏み込む事もあるだろう

もし同時に踏む事があれば・・・


今はただ、彼女と過ごせる時間を大切に

大切にしよう


失いそうになったからだろうか

想いがどんどん強くなっているのを否定できなかった




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