第20話 政府との取引
受勲についての日程やその内容などについて柳沢さん、加藤さんなどとカンファレンスルームで打ち合わせをしていた。事前調整というのは何事においても重要である。参加者は D 対策本部と官僚が数名参加している。ジェーンも従軍記者としての扱いなので参加だ。
「徹さん、以前にちょっとご説明していましたが、例の受勲について政府与党から正式に2週間後に行いたいと打診がありました」
加藤さんが通達の様な紙を渡して説明してくれた。その要旨をサッと目を通した。
「あれ加藤さん。場所って皇居でやるんですか?」
「他にやれそうな場所が見つけることができなかったのです。ドラゴンが滞在できるスペースのある場所となるとやはり限定されてきます。皇室でもお伺いを立てましたが許可を頂きましたので問題ありません」
柳沢さんんがモニター越しに説明してくれた。現在、柳沢さんは調整のため東京に残っている。
「ドラゴンと一緒に東京に飛行して来るといい。エスコートは空自が申し出ているので問題ない。明後日までに返事が欲しい」
最近柳沢さんは出世したようで、ちょっと話の仕方がやや不遜気味な気もするが俺も気を付けないといけない。
元々叙勲の話は志願した時からあった話なので問題ないので行こうと考えているが、こちらからも条件を提示してみる事にした。
「すみませんが、ドラゴンの散歩する為の飛行ルートをというのを確保したいので、こちらについて検討して頂けないでしょうか」
俺はバーター的に欲しいものを要求してみた。
「それについてはエスコートの際に空自に提案してみよう。他に質問が無ければ明後日に再度回答を聞くことにします」
柳沢さんのその言葉と合わせるように今回の会議は一旦終了した。 足早に出て行った加藤さんと残された俺とジェーン。ジェーンは今の会議を聞いてそっと俺にアドバイスをくれた。
「トオル。政府と取引する事はいいことだと思う。だけど、取られ過ぎたり振り回されたりしない様にアドバンテージは渡さずに持っておいた方がいいわ。せいぜい気を付けるのね」
ジェーンは俺にそう呟くと会議室を出て行った。
ジェーンは CNN でドラゴンチャンネルと言う看板番組を持っているので成功者と言っても過言ではない。 そんな彼女だがこうやってアドバイスをくれたり親身になってくれるのは非常にありがたい。と言うか最近の彼女の視線が気になる。俺の勘違いかもしれないが、彼女からの視線は好意的なものではないかと思ってしまう。彼女は外国人でもあるのでその辺が日本人とも違うかもしれない。 妻に先立たれてまだ1年こちらから積極的にという気持ちには未だ、なれていなかった。
いかんいかん、よそ事なんかを考えていては…。 そう思い直し渡された一枚の要約を見てみる。
最後の方に、こんな記載があった。
『ドラゴンの鱗で作られたナイフは重要文化財として国宝と指定する。また名称については天皇陛下より賜ることにする・・・文部科学省』
くしゃりと思わず書かれた紙を握りつぶしてしまった。やられたという思いが俺の中で怒りとして沸き上がってきた。 まあ確かにあのナイフは歴史上で初めて作られたナイフで且つ、学術的価値がものすごく高い。 重要文化財に指定されると国外への販売が難しくなる。そのため文化庁への販売かあるいは陛下への献上品として扱われる可能性が高い。そしてそれらを利用して国が性質を調査しまた公開することにより利益を得ることになるだろう。
俺はその夜秘密裏にドラコと東京へ行くこととナイフの事を話した。
「そんな短いナイフなどくれてやれば良い。たかが10㎝程なのじゃ。我の心臓には届かんよ」
自信たっぷりにドラコは答えていた。
「東京に行くのは問題ないのか」
「この国の首都とやらに行くのだろう。我を崇めるぶんには何の問題も無いのじゃ。どんな所なのか見てみたいのう」
すっかり毒気を抜かれた俺は、東京に行くことにした。ただし D 対策本部の仕事ももう終わったし、金額的にも収入の納税額の範囲内となり自分にとっては意味のないものになってきた。使えるものは使っていきたいが、 ジェーンの言っていたアドバンテージについて悩んでいた俺だった。
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