第9話 ドラゴンとの対面
「ちょっと聞いてるの?」
いえ全く聞いてませんすみませんでした。近いんですよ。もっと離れてもらえないすかね。心の中でそう呟きながら、近すぎる彼女との距離ドギマギしていた。輸送機の音が煩いとはいえパーソナルスペースが欲しいものだ。
「あーすみません輸送機の音で聞き取れないみたいです。インタビューは後でやりましょう」
不満そうな彼女をよそに俺はそう言って座席に座った。
しかし彼女は意地悪そうに俺の隣に座ってニンマリと笑っていた。
「ダメよ。全然仕事にならないじゃない。着くまで暇なんだから答えてもらうわ」
こうしてオーストラリア到着まで彼女に付きまとわれるのであった・・・
ダーウィン空軍基地についたとはいえ空港に併設している基地である。
明日の朝には米軍及びオーストラリア軍が探索を行いその座標に伴い進軍する予定である。明日までは基地内で宿泊する事になった。
インタビューやら輸送とかで思った以上に疲れていたのかスーッと深い寝息とともにぐっすりと寝入ってしまった。
よく朝、寝坊したというわけではないのだが、既に探索というかドラゴンの居場所の特定はオーストラリア空軍により終わっていた。教えられた GPS の座標へ借りたSUVに荷物を載せて向かった。およそ50-100m以内の半径に入ると俺は料理を始めた。ドラゴン捕獲作戦といっても特段難しいものはある訳ではない。数日間ドラゴンの前で無関心を装いながら食事をするだけである。ドラゴンに興味が持たれるまで待つしかない。無闇やたらとパーソナルスペースに近づくと警戒されてしまうので、それは避けないといけない。ジェーンも俺に同行したがったが、ドラゴンに警戒されると困るので俺一人で実行する事にした。しっかりとCNN放送向けのカメラは持たされた。肉食獣のドラゴンの前で食事をする事は、失敗しなければ何も問題はないだろう。しかし、もし目論見が外れてしまえば末路は悲惨なものになる事は目に見えていた。
半日も経過すると奴は俺に近づいてきた。その時作っていた料理は醤油味の野菜炒めと牛のステーキだった。深遠なる摂理にして世界の法則、それは肉の重さが消えたらすぐに手を引っ込める。そうしなければ自分の右腕はどうなっているかわからない。
改めてよく見るとやはりドラゴンは大きい。3階建ての建物程度の大きさだろうか 。そして真っ黒い鱗は漆黒のクリスタルを思わせる深みがあった。奴の目は俺をしっかり見据えていたが、俺も慌てずしっかりと見つめ返す。近寄ってきて何もされなければ食事を与えて一生懸命に話しかける。後は俺のオーラを信じるだけだ。
「俺の名前は川上徹よろしく」
「おはようドラゴンいい朝だね」
「食事ができたよ。俺の右手は食べないでくれ」
「今日もいい天気だ。明日も晴れるといいな」
「君はどこから来たんだい」
こんなくだらないことを一生懸命話しかける。俺のオーラが効いたのかそれとも元々温厚な性格のドラゴンだったのかそこについてはわからないが3度目の食事を超えると『待て』の動作もできるようになってきた。
もたげた首の顎のあたりを撫でてあげると目をつむり嬉しそうな表情をしていた。ここまでの様子は固定したカメラで収め、ジェーンに渡しておいた。世界がどういった反応を示すのかは分からないが、それほど悲観したものではないだろう。しかしここにきて一つの問題点が浮き上がってきた。どうやってドラゴンを輸送するかということである。この体長のものを移送できる飛行機は世界に存在しないのではないだろうか。
最初はドラゴンの背中に乗って帰るという案も検討されたが断った。ドラゴンはかなりのスピードで飛ぶということと、ドラゴンの背中から日本へ誘導する手段を考えつかなかったし、飛ぶ訓練する時間も背中に取り付ける治具もない。最終的にはアメリカ軍の空母ニミッツに乗せられて帰ることになった。 ニミッツは就役から40年以上経過しているため退役が間近で2024年頃に乗り換えられる予定である。
帰る算段がついた段階で日本より悲しい知らせが届いた。青森県知事はドラゴンを受け入れることを拒否した ・・・
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