第7話 契約書と免責事項

消えたテレビモニターの前に立った加藤さんは簡単に笑顔で説明を始めた。


「川上さん先ほどのモニターのアメリカ人はジェームスと言う軍の相談役についている男なんです。彼は上昇志向の強い男で攻撃するための理由が欲しいんです」

「理由ですか」

「ええ、理由です。会話に失敗し捕獲に失敗し攻撃をするその時までに犠牲者が出ていれば攻撃する理由としては十分です」

「まさかその犠牲者って・・・」

真っ青な顔をして声を荒げて尋ねた 。


「そうあなたです。でも悪い話ばかりではないんです。得られる金銭や名誉があるんです」

加藤さんは顔色ひとつ変えずに答えていた


「ちなみに金銭と言うといくらぐらいなんでしょうかね」

足元を見られている気がしたがやはり金額は重要だ


「川上さんには対策本部の下に作られる委員会と言う部会の責任者になっていただきたいと思ってます。肩書きは三つほど着く予定です一つにつき年収1000万ぐらいなると思います」


「え・・・てことは年3000万ですか?」

「額面なんで、そこから税金とか色々引かれますので手取りはもう少し少なくなると思いますけど、そんなものですかね。あと成否に関わらず勲章が授与される予定になっていますのでご安心下さい」

加藤さんは答えた後にさっと契約書を俺の目の前に提示した


「一応こちらが準備されている肩書で一件につき年収1000万円となり、勲章に関しては年350万円死亡後も遺族年金として支払われる予定となります」


肩書---

内閣府未確認生命体D対策本部 酪農関係ご意見番

同対策本部 餌付け作戦実行委員責任者

同対策本部 作戦成功時飼育関連責任者兼実行委員

勲章:大勲位菊花大綬章を受勲予定


「民間の方には参謀とかそういった肩書は使えないのでご意見番となりました。また、こちらの免責事項にありますように死亡時の責任は本人となりますのでご了承ください」

そう言って加藤さんは俺が契約書を読み終わるまで腕を組んで待っていた。


矢継ぎ早に説明される内容に俺はちょっと混乱していた。だが借金苦に自殺する未来よりはちょっとマシなように見えた 。


これは世間話だと加藤さんが付け加えて教えてくれた。アメリカにとって民間人犠牲者いれば攻撃しやすい事。日本にとって成功しても失敗しても損失は少ないこと。オーストラリアは積極的らしいと。とても都合のいい民間人が俺だったようだ。


失敗することを想定して契約書ができているため成功時の場合について細かく書かれていなかった。なので成功した場合ドラゴンの所有権は自分にあること。自分とドラゴンの生活場所の確保については要望として入れてもらってサインをした。


「上に確認してまいりますので少々お待ちいただけますか」

そう言って加藤さんは足早に部屋を出て行った


がらんとした殺風景な会議室の中で俺はこれで良かったのかと自問しながら考えていた。しかし考えても結果はもう変わらないと気がついた時点で考えるのを放棄した。ボーっと契約書を眺めていると加藤さんが戻ってきた。


「川上さん、もう一度テレビ会議で柳沢さんが話をしたいということなので繋いでも問題ないでしょうか」

俺が了承するとテレビモニターの電源が入りそこには柳沢さんとジェームス、オーストラリア将官が立っていた。


「川上さん本日付をもって本作戦責任者としてあなたを任命します。明朝に能力の確認が終わった後、公式に発表させていただきます」

柳沢さんはそう言うと作戦名が書かれた紙を広げた。ジェームスもオーストラリア将官もにこやかにそれを眺めていた。


『ドラゴンと未来への会話作戦』


単なる餌付け作戦では公式上はNGとの事でヘンテコな作戦名になってしまっていた。明日の公式発表の時にテレビに囲まれないかと少し不安である


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