第5話 パブリックコメントというもの
オーストラリアの首相M・リードの失敗発言は概ねオーストラリア国民には受け入れられた 。動画でのドラゴンを見ると無難だがこの選択はあり得ると国民に共感されている。また進路上の避難世帯も少なく人的損害もないことから支持率は上昇している。
それに対して日本政府が行った対応への国民の反応は様々だった。意見についての公募は問題ないとされたが九州上陸の可能性が大きな課題となっていた。日本政府はパプアニューギニアが限界線と見ており、できればオーストラリアにドラゴンを留めたいと考えていた 。日本国民はドラゴン容認派と危険論で分かれていた。
…その頃俺は JA※ 三戸支店より貸し剥がしを受けていた。
「JAさんが後から貸してくれるというので、妻の保険金で受けた分を返したじゃないですか。それを今になって貸せないというのは、おかしいのではないでしょうか」
「えぇ、お気持ちはわかりますが奥さんとご主人様の年収を合算ということで以前はお金をお貸ししてたんですが、現在はご主人様の年収のみとなりますのでお貸しするのは難しくなってます」
「じゃあどうして葬儀が終わってすぐに保険金で返すように進めたんでしょうか?あの時は貸せるって仰ってましたよね?」
握りこぶしを作って怒り出しそうな気持ちを抑え、震える声で俺は迫った
「あの時は現金という資産があったので貸せると説明しましたが、現在の資産状況ではお貸しするのは難しいです」
「では土地を担保に貸していただけないでしょうか」
「川上さん、この辺の農地は資産価値がほとんどないんです」
表情ひとつ変えずに答える JA の職員に話にならないと背を向け家路をトボトボと帰るのであった
農業酪農というのは博打的な要素が大きく1度の不作や働けない状況が発生するとあっという間に資金が枯渇する 。公的資金やJAなどの制度はあるものの借り始めると借金は莫大な金額になっていた。
その夜の俺は憂さ晴らしとして某匿名掲示板やネットで当たり散らしていた。また、どこか新たな制度で貸付を行っていないか確認していた。公的機関を探していると内閣府パブリックコメントというのを見つけた。そこは政府の政策について意見公募を行っていたので農地法や JA に対する怒りを思いの丈を一生懸命に文字にして綴った。
その日は悔しさのあまりお酒の量が多かったのかもしれない。 今になってみれば馬鹿なことをしたと思うが、走り出した暴走列車は止まることを知らない。
その時どうしてそんな考えに至ったのか浅はかな自分を責めたい気持ちは今もある。だが、ドラゴンを飼育してようつべや動画サイトで収入を得ようというのは、それほど悪い考えではない。命をかけるのを除けばだが…
俺はドラゴン対策公募のパブリックコメントにドラゴンがその頭の大きさから知能が高いこと、そして飼育できる可能性があること、俺ならできるとめちゃくちゃアピールした。最後にご丁寧に名前、住所、電話番号等を実名で登録していた。まどろむ記憶の中で俺はきれいさっぱり翌日にはこの事を失念していた。
その頃日本政府では対策本部を設置し公募及び有識者委員会により対策について検討会議を連日で開いていた。
「では総理、対策本部の名前を決定したいと思いますがドラゴン対策委員で問題ないでしょうか」
対策本部の部長になる予定の柳沢は総理に尋ねた
「いやいやドラゴンというのはないんじゃないだろうかね。やはりもうちょっと具体的な名称にしたほうがいいんじゃない。官房長官はどう思うかね」
「はい総理、未確認生命体対策本部ではいかがでしょうか」
「いえ官房長官、未確認生命体は非常に多数おりますので特定する情報が必要になるかと存じます」
ひげを生やした議員が答える
「では、公称ブラックドラゴン対策本部兼、公募について議論する委員会ではどうでしょう」ある閣僚は得意げにそう提案している。
「やはりあの生命体に対して公称名をつけるというのが重要ではないかね?官房長官」
総理はそんなことを尋ねていた。
いつまでも終わらない名称が決まるまで丸一日の時間が必要な日本の政治体質だった。
その夜に内閣官房長官付けで
公式名称:黒龍(ブラックドラゴン)
対策本部:内閣府未確認生命体D対策本部
この二つの名称をきめるのに要した時間にウンザリしているのは、ニュース媒体と在日米軍そして国連軍だった。発表した対策本部に選任された柳沢部長は目にクマを作っていた…
※JAとは現在の農協とは一切関係ありませんので、ご注意お願いします
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