そういえば

 物心ついた頃から、私は活発な女の子だった。男の子と遊んだりするぐらい、わんぱく娘だった。人気者だと言っても過言ではなかった。そんな私からいつも離れなかったミキちゃん。


「ずっと私のそばにいて、ミキちゃんは楽しいの?」

「うん、楽しいよ」


ミキちゃんは、人気者の私の金魚のフンだと、私の人気を僻んでいる子たちから、陰でコソコソ噂されていた。ミキちゃんとは、たまたま住んでいる家が隣で同い年という事もあり、気付いたら一緒にいた。私はいつもミキちゃんに同じことを聞いた。ミキちゃんと離れたいわけでもなかったし、でも特別仲が良いっていうわけでもなくて。でも、私のせいでミキちゃんが陰で噂されているのは、なんだか申し訳なかった。だけど、その生活はいつまでも続かなかった。幼稚園から高校までは、ミキちゃんはいつも私のいるグループに所属していた。私はある日の帰り道、ミキちゃんと進路の話をした。すると驚く返事が返ってきた。


「ミキちゃん、どこの大学に行くの?」

「私、大学には行かないの」

「えっ」


私はそこから言葉が出てこなかった。大学に行くのが当然な時代みたいになっていたし、何よりもミキちゃんが私についてこないということに驚きを隠せなかった。


「じゃあまた明日ね」


ミキちゃんは何事も無かったかのように、いつも通り私に挨拶をして家に帰った。そうか、ミキちゃんは私からやっと卒業する決意ができたんだな。驚きを隠せなかったけれど、これでもうミキちゃんが陰口を叩かれる事はなくなる。そういう安心感があった。


 高校を卒業して、私とミキちゃんは離れ離れになった。彼女は家を出て一人暮らしをすることにしたらしいが、どこに住むかも何をするかも聞かないまま私たちは別れた。家が隣だったせいで、連絡先を知っているつもりだったけれど、連絡先を交換するのも忘れてしまった。私はというと、大学に入学した。するととんでもないことが起こった。今まで活発な女の子だったはずの私に、友達ができなかったのだ。今まで何もしなくても人が集まってきた私は、自分から声を掛けるという術を知らなかったのだ。私はショックだった。一年は頑張って通ったが、その後不登校になって家でゲームばかりするようになった。そういえば、ミキちゃんには友達できたのかな。私はある日ふと思った。


 ミキちゃんの連絡先は聞き忘れてしまったから、ミキちゃんの家に行ったことはなかったが、気が向いたら聞きに行こうと思いながら、その日は眠りについた。数日後、久しぶりに外に出た。外と言っても隣の家に行くだけだが。




ピーンポーン


ベルを鳴らす。


「どちら様でしょうか?」

「小さい頃からミキちゃんと友達だった、となりの家の者ですが」

「ミキちゃん?誰ですか?うちに子供はいませんけど」

「何言ってるんですか!ミキちゃんとは何年も一緒にいたんです!」

「あなた頭がおかしいんじゃないですか?失礼します」


ブチッ


話を切られてしまった。




ミキちゃんの家族と、うちの家族は交流がなかったし、運動会や音楽会にも、ミキちゃんの家族が来ることはなかった。だから話すのは今回が初めてだった。それなのに、なんだあの態度は。親子喧嘩でもしたんだろう。そう思って、家に帰った。ミキちゃん懐かしいな。そう思って、卒業アルバムを探すことにした。久しぶりに顔が見たくなったのだ。タンスの中の箱から卒業アルバムはすぐに見つかった。ミキちゃんは、いつも私のそばにいたから、すぐに見つかるはず。




 いくら探してもミキちゃんは卒業アルバムに居なかった。名前さえも見つけることができなかった。そう、ミキちゃんは実在しなかった。




 ミキちゃんは、私の守り神だったらしい。でも、私がミキちゃんと仲良くしようとしなかったから、ミキちゃんは私を見捨てたようだ。ミキちゃんがいたから、私はこれまで人気者だったのだ。


「人気者?笑わせないで」


どこかから声が聞こえた気がした。あぁ、そうか。陰口を叩かれていたのは、ミキちゃんではなくて、私だったんだ。


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