ジャッジ
「そんなに退屈なら、私たちに付き合ってくださいよ」
ルシルの家でのんびりしているぼくに向かって、そんな暴言を言われてしまった。
この女は人のことをなんだと思っているのだろう。
この脳みそと言うものが欠如した師匠は、ぼくが日頃どんな日々を送っているのか知らないのだろうか?
★
今日も今日とて、増えてしまったものを減らすために訓練場に向かったルシルをほったらかしにして、ぼくはキイチに会いに行った。
ルシルが一片たりとも理解しない、ぼくの日頃の努力を見せびらかしに行ったのだ。
「うっそ、だろ? おまえ、どれだけ魔法を覚えているんだよ!」
キイチの魂の叫びを心地よく聞きながら、ぼくは思い返す。
今までいろいろとあった、よくわからない色々な事件を筆頭に。
時間が空けば、ルシルや他の師匠共から魔法を覚える日々。余裕が出来ればヴィーやエキトに引っ張られる。
あの同居人共は人を暇人のように言うが、実際には自由になる時間なんてほとんどない。
そんな時間があるのなら、全て睡眠に充てていたのだから。
「すげえ、一年生なら一つ。卒業間際でも四つも覚えていれば超優秀なんだぞ」
そもそもの話、魔法には覚えることが出来る限界があるので、生涯で一つの魔法しか覚えていない魔法使いなんて珍しくもないらしい。
しかも超一流の魔法使いで、だ。
「それも、既に三十個? 世界中見渡してもそんな魔法使いは一人もいないぞ!」
オリジナル魔法ならともかく、受け継いだ魔法をそれだけ覚えている魔法使いは存在しない。
この間とある魔法雑誌を読んだところ、公式に発表されている世界で最も多くの魔法を覚えている魔法使いで九つだった。
魔術がある以上、そこまで多くの魔法が必要でないというのが大きい理由だが、一流の魔法使いでも五つほど覚えると、容量オーバーで即死するらしい。
それは魔法との相性なんて、まったく関係のない話だ。
「はははは、これが日頃の努力だ」
「でも気をつけろよ、これが世間に知られたら実験材料にされるぞ。なにしろ歴史上でも前例がないのだから」
……え?
★
よく考えれば、どれだけ危険でもルシルや学院長に守らせればいい。
そんな結論に至ったぼくの心境は、凪のように穏やかだった。
「あれ?」
そんな平和は一瞬にして終わりを告げる、瞬きをしている間に目の前の景色が一変したからだ。
「よく来たね、無限くん」
そこは見知った学院長室。
面子は学院長を筆頭に、ルシルとシホ。それとフルーツ。
「こらムゲン君、よくも私を見捨てましたね」
「そんな当たり前のことはどうでもいい、なんでぼくはこんなところにいるんだ?」
「それはもちろん、私が呼んだんですよ」
ルシルが自慢げにそう言った、まあその手段を詳しく聞く意味はない。魔法が使えないぼくには逆らえないのでどうしようもないし。
「何の用だ?」
「クーデターの詳細がわかったのさ」
何かを飲みながら、のんびりと学院長が答える。
「数日中に始まるよ、覚悟しておくように」
「ああ、わかった」
ぼくは、それだけで学院長室から出て行こうとするが、シホに止められた。
「詳細を聞いてから行くように、今回の敵は数万規模だと予測される。人間だけでなく、異種族共を含めての数だがな」
この学院の全ての人間を合わせても千人程度なのに、随分な数だな。
「だが、そんな有象無象は物の数じゃない。警戒するべきは『ジャッジ』の奴らだ」
「ジャッジ」
「そういう組織があるんだ。七人で構成されているグループなんだが、そいつらは全員学院長を殺せる」
……へえ、それは凄い。
ぼくはちらりと学院長に視線を向けると、本当に嬉しそうに笑っている。
「そういうことさ、私では絶対に勝てないから君たちが頑張ることになる」
その言葉に、ルシルたちが殴りたいと感じているようだ。
「そうだぞ、お前たちが頑張れよ」
よくわからないながらも、ぼくも応援しておく。
「こらこら、何を他人事みたいに。今回は無限君が一番頑張るんだよ」
「は?」
こいつは一体、何を言っているのだろう。
「このわたしが説明しよう、世界最強の魔法使いである学院長には正当な手段では誰も勝てない。ジャッジ共の魔法は知れ渡っていてな、詳細は違っても自らが決めたルールを強制的に守らせるものだ」
自分が決めた範囲の全てのものに、自分が決めたルールを強制させる。
そのルールとは勝利条件と敗北条件がきっちりと定められているらしく、術者が勝てばぼくらは皆殺し。
ぼくたちが勝てば、術者は抵抗もなしに死ぬ。
単純に言えばそんなものなのだと。
「メリットとデメリットは比例していなけばならないらしいが、それでもルール自体は自由に決められるらしい。……学院長だけは絶対に勝てないルールにするのは間違いないな」
「そもそも、ジャッジは学院長対策に雇われたらしいですからね」
つまり、今回の戦いでは学院長がまるっきり役立たずになると言うわけか。
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