侵入準備
出発して数分がたち、心配していた呪いの影響なども感じないので、そろそろ人の剣を抜いてみたくなった。
だが、さっきからぼくが行動を起こそうとすると、タイミングよく先導しているフルーツが振り向いてくる。
こいつ、最近本当に勘が鋭くなってきた。
ぼくが強引に封印を解こうとすると、その場で飛び掛かってきそうな雰囲気も漂わせている。
魔法使い、その中でもフルーツはたとえ攻撃をしかけても、あと五センチぐらいの距離に近づいても、そこから避けられてしまうほどに身体能力に差がある。
そんな奴でも、接近戦が得意なわけではないと言う。
「……なんですか?」
フルーツが胡散臭そうに問いかけてくる。
こいつは人間に近く作られているらしいが、どんな用途を想定されているだろうか。
護衛と言うのだから戦闘用か? 道具を作れるから職人用か? 情緒が豊かだから介護用か?
「どれも想像の域を出ないな」
「何を言っているんですか? それよりも、もうすぐです」
フルーツは立ち止まると、ある一点を指さす。
それは、五メートルを超えるほどの大岩だったが……。
一つ、あまりにもおかしいところがある。それは、大岩がブレているところだった。
「なんか、電池切れ直前の電気製品みたいだ」
不規則なリズムで大岩が消えたり、現れたり。
「所詮は異種族の作ったゲートですからね、魔力が安定していないのでしょう」
人間じゃないと安定した出入り口を作れないのか?
「それにしても、よくもまあ的確にこんな場所を知っているな。ゲートなんて敵に知られたら命取りだろうに」
人間だろうが、化け物だろうがそれは変わらないのでないか。
そこを抑えられたら、どれだけ不利になるか。
出て直ぐに攻撃されたり、自分の住処に帰れなくなったり。
「理事長がちゃんと、協力をする契約をしている種族ですし、ゲートに入るまでは学院側のテリトリーですからね。それでもこの先の情報はほとんどありませんが」
理事長の協力と言うのが、味方同士の殺し合いを前提としているのが楽しい。
まあ、ぼくはその内側には入れてもらえないのだが。
「さあ、行きましょうか」
「ああ、わかったよ。でもこの先は危ないから人の剣を抜いていい?」
「絶対にダメです」
ぼくらは大岩を破壊すると、現れた道を進んでいった。
★
「しかし驚いたな、ぼくはてっきり結界と同じで大岩をすり抜けて中に入ると思ったのに」
「いえ、あの大岩はゲートの入り口に蓋をするように人間側が設置したもので、破壊しなければ誰も通ることは出来ません。そして、何度破壊しても一定時間で再生されるようになっているのです」
「便利な話だ」
大岩を破壊し、ゲートを通り抜けた先に現れたのは、今までと同じ荒野。
そして、遥か先には天まで届きそうな塔があった。
「あの塔はなんだ?」
「あの塔こそが天狼族の住処ですよ、その中には当然、相当な数の狼とその長がいるでしょう」
「へー、それでどうするんだ? 戦いに来たわけじゃないし」
ぼくは戦いになんて役に立たないが、情報集めとは一体どうすればいいんだ?
人の剣で長を殺せってわけじゃないだろうし。……やってみたいところだが。
「とりあえず姿を隠して、狼たちを観察してみましょうか」
「でもぼくはともかく、お前は魔力でバレるだろう?」
「それどころか、嗅覚でも聴覚でもバレますね。相手は狼ですから」
「じゃあ?」
「こんな時こそ、変身魔術ですよ」
フルーツが手を振ると、ぼくたち二人は狼の姿に変わる。
「そういえば、そんなものがあったなあ」
あの時はカラスになったっけ。今度は最初から普通にしゃべれる。
ぼくは真っ白な毛並みの、大型犬ぐらいのサイズ。
そして、フルーツが真っ暗な毛並みのぼくよりも二回りぐらい大きなサイズだ。
「今回はフルーツの方が大きい体ですね、護衛としてはこうあるべきです」
「……、まあいいけどさ。これってぼくらが人間だってバレないの? ほら、魔力が人間だとか?」
「変身魔術は匂いや気配までしっかりと変えてくれますし。人間と異種族では違いが大きすぎるのでまずバレてしまいますが、異種族同士では姿を変えれば問題ないぐらいの差しかありません。例えば天狼族とゴーレム種だとしても、一見して見破られるほどの差はありませんよ」
そういえば、どいつもこいつも一目見た瞬間からフルーツが人間ではなく、ホムンクルスだってわかってたな。
「でも、ぼくは?」
そう、ぼくは人間だ。
「マスターはそもそも正体不明な存在です。人間なのかそれ以外なのか、外見以外では判別できないのです」
なら外見を変えれば何に変えても問題はないと言うことか?
……どういう意味だ。
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