一年生の頂上戦1
「ここは?」
おそらくはどこからの教室なのだろう、見覚えがあるような生徒たちが集まっている。
ここが敗残兵共の行き先なのだろう。
「ああ無限。君も来たね」
ぼくに声をかけてきたのは、先に死んでいたギースだった。
「ああ」
「様子は見てたよ。あのモニターでね」
教室の前の方に、モニターが設置してある。
訓練室の様子が見えるようで、その証拠にフルーツたちの姿が映っている。
その周辺で、教師が集まっている生徒たちに何らかの説明をしているようだ。
おそらくはなぜ負けたかという説教や、生き残っている奴らの戦いの解説でもしているのだろう。
「君とフルーツはセットではなく、別個の命とカウントされているからこそ、彼女だけあの場に残れたんだろうね。多分だけどルーシー先生はフルーツを使い魔ではなく、一生徒としてこの学校に呼んだのかな?」
どうだろう。ぼくは詳しいことは何も聞いていないが、ルシルならやりそうなことでもある。
「あいつはフルーツを人形でなく、人間として見ている節があるからな」
「優しいところがあるんだね。じゃあ、おれと一緒に観戦しようか?」
「ああ、そうしよう」
ぼくらは教室の後ろの方に二人で座る。
まだあの二人の戦闘は、始まっていないようだった。
☆
「さて、これで邪魔者はいなくなったな」
だが、戦闘が始まるのは直ぐだろう。
「よくも、あの人を殺しましたね」
フルーツが小さな声でつぶやく。
「仮初とはいえ、フルーツのマスターを殺しましたね?」
「殺したことも仮初だろう? 今頃はどこかでのんびりとしているさ」
緊張感が膨れがっているはずなのに、主席くんは余裕を崩さない。
「だがいくら見どころがある男とは言え、あれは魔法が使えない以上、ただの弱者だ。弱者が死ぬのは当たり前だろう?」
「……なんですって?」
フルーツの体には白色の魔力が、眩しいほどに輝いている。
「強ければ生き残り、弱ければその場で死ぬ。そのルールは訓練室でも実際の戦場でも変わらない真実だ。つまり……」
そして主席くんは笑顔を浮かべながら、決定的な言葉を口にした。
「貴様には、主人を見る目がなかったということだ」
その言葉が引き金だった。
フルーツは明らかに名剣であろう武器を出現させ、主席くんに全力で突っ込む。
「よく吠えた! ならば惨たらしく殺してあげますよ、三流貴族が!」
「ふん、たかが人形がほざくではないか!」
そして、戦いは始まった。
☆
だが、ぼくはその様子を見ながら違和感を感じていた。
「主席くんってあんな奴だっけ?」
戦闘で高揚しているとしても、あんなに誰かを挑発するような男だとは思っていなかったのだが。
「シナモンは紳士だからね。基本的にはそんなことしないよ」
一緒に見ていたはずなのに、ギースは苦笑しながらぼくの言葉を否定する。
「確かに、シナモンは少々強すぎる。一年生でまともに相手が出来る人間がいない程にね。おれやグリムでも駄目だし、上級生や教師たちはプライドが高すぎて一年なんて相手をしてくれない。ストレスをため込んでいただろうね」
まあ、授業をサボって自主練をするほどには不満に思っていたのだろうな。
「そんな時に現れたのがフルーツだよ。まだ少し及ばないけどおそらくは一年生の中でシナモンの次に強い。その期待は計り知れないだろうね」
「つまり、あの人形に本気を出させるためにぼくの悪口を言うことで?」
「ああ、君には関係ない話だけど、フルーツを怒らせるのに最適な言葉だろう?」
まあ、それは短い付き合いでもわかることだ。
「まあ君やシナモンが口にしていたように、これは訓練だ。単純にフルーツと本気で戦いたかったんだろうさ」
迷惑な話だ。
「せめてものお詫びに、戦いの解説はおれが受け持つことにするよ」
「じゃあ、よろしく」
これが一年生のトップ争いだと言うのなら、面白そうだ。
仮にも、自分の護衛はどれぐらいの強さなのかがこれでわかるだろう。
☆
始めの衝突は互角だった。
フルーツの剣と、主席くんの手刀は同じ程度の威力らしい。
だが、主席くんの纏わせていた魔力は、半分ぐらいの大きさになっている。
やはり、魔力を武器にするというのは大変なことなのだろう。
「やるなフルーツ。だが、貴様が光属性だとは思わなかったぞ? 俺と同じ火だと思っていた」
その言葉は、フルーツの剣から白い魔力が出ていることが根拠なのだろうか?
「フルーツはホムンクルスですよ?」
「……成程、思い込みは危険だと言うことだな!」
何かを理解したようなシナモンは、近距離戦を諦めて遠距離戦に移ることにしたらしい。
「燃やし尽くし、空に舞え、火の神ゴッドフレイム!」
主席くんの周囲に、圧倒的な火炎が広がった。
その炎は周りの木々を圧倒的な火力で燃やし尽くし、空に立ち上っていく。
だが、主席くんの目の前にいるフルーツは、全くの無傷でその場に立っている。
その手には剣がなく、代わりに水色のナイフが握られている。
「ほう、なんだそのナイフは?」
「あなたが火の属性なのはわかっていました。つまりこれは……」
「火を断ち切ると言うわけか?」
主席くんはその言葉を確かめるように、さっきと同じ規模の炎を三回連続でフルーツに撃った。
だが、フルーツがナイフを軽く払うだけでそれらは消滅していく。
「もうわかりましたか? フルーツには火など効きません!」
力強いフルーツの言葉。
だが、これで終わってしまうのはつまらないだろう。
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