本当の無限の魔力



「どうぞ、入ってください」


 案内されたのは学院長室だった。


 当然と言えば当然だが、ぼくはてっきり学院長の住んでいるところに案内されると思ったのに、仕事場とは予想が外れた。


「的外れと言うわけではないよ。私はここに住んでいるからね」


 ぼくの疑問に対して、学院長は笑いながら答えた。


「私の部屋はちゃんと用意されてはいるけど、一々自室に帰るなんて面倒だろう? 奥に特別な空間を作っているんだ」


「へえ」


 魔法と言うものは本当に便利だ。何故、ぼくには使えないのだろう。


 ……これが第一の疑問だな。


 学院長は、自分の椅子に座ると、ぼくにもソファーに座るように促した。


 学院長の机と、ぼくの座っているソファーには多少の距離があるが、あんまり近くに来られても迷惑なので丁度いい。


 正直に言ってしまうと、他人が傍にいることにどうしても慣れないのだ。


 ……昔から。


「飲み物は必要かな?」


「今はいいや、喉は乾いていない。それより、質問に答えてほしい。なんでぼくには魔法が使えないんだ?」


 関係ないが、今更になって学院長に敬語を使っていないことに気づいた。


 まあ、いいや。どうせ敬意なんて持ってないし。


「ふむ」


「確かにぼくは魔法を覚えている。その証拠は学生証にもはっきり書かれているしね。でもどうしても魔法が使えない。おかしいでしょ、魔力はたくさんあるんだろう?」


 あれから、何回か覚えた魔法を使えないかと実験してみたけど、間違いなくルシルの魔法を覚えているのに、どうしても魔法が使えないのだ。


「無限君は知らないだろうから、基本的な魔法使いなら誰でも知っているような話をするけど、魔法使いには重要視される才能が二つあってね。魔法を覚える才能と、魔法を扱う才能だ」


「その二つは違うの?」


「全然違うよ。魔法を覚える才能とは、要するに魔力量のことだ。無限君が誰よりも持っているものだね」


 そっちの才能には、溢れているらしい。


「でも、魔法を扱う才能はどんな風なものかってことは明らかになってない。魔法の種類や、感性によるものなど、色々な理由が研究されているけど、今のところ共通点は明らかになってない」


「つまり、なんでぼくが魔法を使えないのかわからないってこと?」


 なんて役立たずだ。


「いや、今のはあくまでも一般的な意見だし、その人に何が足りていないのかって理屈は、ちゃんと一人ひとりに焦点を当てれば解明できるよ。無限君が魔法を使えない理由も私には見当がついている」


「だったら早く教えてくれ」


「簡単に言えば魔力量が多すぎるからだね。どんな魔法にだって適切な魔力の消費量があるんだ。君の場合は十の魔力で発動する魔法に、何万もの魔力を込めているんだ。それじゃあ、絶対に魔法は発動しない」


 魔力が多すぎる?


 なら使う魔力の量を減らせば、ぼくにも魔法が使えるのだろうか?


「理屈ではそうだね。でも絶対に無限君には使う魔力の量を減らすことなんてできない」


 学院長はそう断言した。


「魔法に魔力をどれだけ使うかって感覚は、結局のところ魔法を使うことによって、自分の魔力がどれだけ減っているかってことで塩梅を確かめるんだ。でも無限君はどれだけ魔法を使う実験をしても疲れるどころか、自分に変化があるとすら思えなかったんだろう? 言っておくけど、君が魔法を試すたびにちゃんと魔力を減っているんだよ?」


「あのさ、今まで棚上げにしてたけど、結局ぼくの魔力量ってどのぐらいなの?」


 機械が壊れるので学院卒業レベル以上だということしか判明していないのだ。


「無限だよ。キリなんてない」


「いや、だからそれは魔力が多すぎて天井が見えないって……」


「いや、あれは言い訳と言うか、他の人には教えることが出来ないからそう口にしただけだよ。出来ればルーシー先生にもまだ知られたくなかったからね。ほら、あの人はどんな無茶をしだすかわからないし」


 ……。


「あのさあ、どんなもの、どんなことでも無限なんてものは証明できないでしょ?天井が見えないからって無限だと思うのは短絡的だと思うんだけど」


「違うよ、そんな理由じゃない。私もうっかりしていたんだ。……君が神崎無限である以上、魔力が無限なのは当然の理屈だったんだよ」


 よくわからないが、学院長ははっきりとそう言った。


「だから、どういう意味?」


「あー、それはまだ教えられないかな。でもこれは間違いない。それと、このことを誰かに教えちゃだめだよ。たとえルーシー先生でもね」


 深く聞きたかったが、口調や、表情から絶対に答えてはくれないという意思がにじみ出ているので、あっさりとやめることにした。

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