紗和国竜神語り 麗しの公達に迫られても、帝になれません!
伊藤たつき/角川ビーンズ文庫
序章
切り立った
紗和国のほとんどの土地では土が
だが目の前ではそんな光景が
たたきつけるように流れ落ちる水音のせいで、耳が痛い
この滝は
姫は両手を岩について、滝に向かって頭を下げた。
「竜神様。どうか、雨を降らせてください。水がなければ作物は育ちません。喉の渇きと
人の身でこの滝に近づくのは、本来なら
紗和国は、数十年に一度は日照りに
その恐ろしい儀式は、過去ずっと
父は病弱で気弱なところがある。官吏達が進言という名目で言い
そんな父に自らこの滝へ行くと申し出たのは、幼い妹達と
必死で
『民の
声が直接頭に
「私は────命を捨てるつもりはありません」
目の前の大きな滝そのものが竜神のような気がして、身体が小刻みに
だが顔には不安を出さないよう、気を強く持った。
『……ほう。そんな事を言い出した姫は初めてだ。死を前にして震えて何も言えないか、みんなの為に死ぬという大義名分を背負って、
「死んでは民の為に何もできません。生きて、私にできる事をしたいのです」
『それでは雨乞いにはならないぞ。雨を降らせたいなら、犠牲を
竜神の声はどこか
「命を捧げるだけが犠牲ではないと思います。たとえば……竜神様は私の願いを
一世一代の
もちろん、うまくいくなんて思っていない。ここで死ぬ覚悟もできている。
しかし死ぬ前に、神を相手にあがいてみたかった。
しばらく、滝の水音だけが響いていた。
『……お前に私の願いが言い当てられるか? それができたら、考えてやってもいい』
「竜神様の願いは……………………………ではありませんか?」
答えがあっているかなんてわからない。だが、この機会を
「もしそうなら、願いを叶えるお手伝いができると思います。取り引きしませんか?」
なるべく自信ありげな声を出した。
この取り引きが正しいか
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