捜索隊
今俺は人生でも数えるほどしかしたことがない、後のことを全く考えない全力疾走をしている。
マリー首をつれさったマリー胴体を追いかけてだ。
なぜか急がなければならない気がしたから。
別に本人の体に本人の首が戻ったから無理して追いかけなくてもと思った。
しかし、胸騒ぎが治らないのだ。
マリー胴体がどうというわけではないと思うが。
離れたくないと思ったのだ。
なんだろう、この言葉でいいあらわすのが難しい感じは、
寂しい、名残惜しい、
嫉妬のような、
拾った子猫がある日いきなりいなくなったような、そんな感覚。
そうこう考えている間にも、アドレナリン全開に、リミッターがガッチガチに外れていくのがわかる。
筋肉の筋がプチプチ変な音を立て始めてるし、余計なことを考えるとすぐに止まってしまい、以後一歩も前に進めなくなりそうだ。
恐怖に追いかけられているように感じて、それに打ち勝つごとに勢いがついていく気がした。
マリー、なぜいきなり逃げたんだ?
数日とはいえ一緒にいたのだから彼女の性格はある程度わかる。
マリーは多少変なところはあるが、いきなり人を吹っ飛ばしたり、何もいわずに出て行ったりする子ではなかった。
それにマリー自身、自分の胴体は操作できないと言っていた。
なら、あれはマリー胴体の暴走、
なんらかの理由で自分の首を求めた?
それも芸をして金を稼いでいた。
使用用途も不明だし、それだけしてこれほど稼いだのに、それをあっさり置いて逃走した。
胴体の行動の意図がイマイチわからない。
考えても答えにたどり着けなそうなので本人をさっさと捕まえて聞きだすことにする。
「…………」
しかしおかしい。
焼き鳥屋の屋台のお姉さん、エルサさんが教えてくれた道を全力で走っている。
マリー胴体がどれくらいの速度で移動しているのかはわからないが、この速度でこれだけ走って背中も見えないのは、
道を間違えたか、さらに早くマリー胴体が移動しているかの二択なわけだが、
後者は考えられないかなと思う。
なぜならマリーは貴族だった。
それも重度の箱入り、
なら、普通運動に関しては「きゃーボール怖〜い〜」
とか、「速く走れな〜い」
とか言って50メートル10秒台とか平気でやってそうだからだ。
なら道が違うのか?
だが目撃者がいて、信頼できる情報である以上それも変な話だなと思う。
どうやって探す?
この街は近隣でもかなり大きい方だ。
それを何の手掛かりもなくどこをいるとも知らない人一人を探すのは無理がある。
さっきみたいな騒ぎもないし、出会って数日なので彼女のいきそうなところも知らない。
手がかりも計画も、何もない。
途方に暮れ……
「……なんだこれ?」
そこら中に白い液体が散乱し始めた。
本能的に触るのはなしだと感じる、どろっとした気色の悪い液体。
だがやたらその存在感を主張するキラキラしたもののせいでどうしても視界に入ってしまう。
それはこの道を進むごとに増えたり減ったりしている。
まるで上からバケツで水を撒きながら何かが移動してるみたいだ。
「上……」
上!?
ピョーンピョーンと、屋根伝いにまるでジャングルの木を移動する猿の如く飛び回る人影が見えた。
それも物凄い速度で。
あのドレスは間違いない、マリーだ。
「……まじか」
そう思いながらもなんとか追いつき、
「待て‼︎」
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