街へ
「さて、今日は久しぶりの休みだ。街が平和な証拠」
伸びをして今日の予定を頭の中で立てる。
仕事、つまりは処刑がないと言うことは、悪人がいないということだ。
だから街が平和な証拠。
「何一人で楽しいこと考えてるのよ!?」
首だけのマリーがいらだたしげに問うてくる。
現在、
朝食を済ませた俺は、たまには気楽に街へ遊びに行こうと考え、街へ行く用意をしようとしているところだったが。
顔に出ていたのか、マリーにバレてしまう。
「いや、今日は休みだから久しぶりに街を散策でもしようと思ってな、買うものを考えていた」
嘘をつく必要もないし、普通に答える。
「私も連れて行きなさい‼︎暇なのよ‼︎」
いやいやいやいや、
「無茶言わないでくれ、その……生首持って街中歩いたら俺の身が危ない」
すごい目で見られるのは間違いないし、
普通に捕まる、
そうでなくても職業上目立ちたくないし、街へ行く時も極力目立たないように気をつけているのに、生首は致命的過ぎる。
「でも今日の休み、私のおかげでしょ?」
フフン‼︎
と、なぜか得意げに言うマリー。
「……何でそうなる?」
いくらなんでもバレバレの嘘すぎる。
「だって、私を処刑したから今日の休みがあるんじゃないの?」
お母様、お父様、ああどこへ行ってしまったのぉ〜。
と、わざとらしく大袈裟に言うマリー。
「……よし、街へ行こう、一緒になっ」
「やったァ‼︎」
それは洒落にならん冗談……なら良かったのに、
これがまだ年端もいかぬ子供を処刑した罰というのか?
と疑いたくなるような、現実だ。
マリーの家族も、使用人たちも、全員俺が処刑した。
それが終わったのがちょうど昨日。
流石にこう毎日毎日人が処刑されるのをみると悪人たちも嫌になったみたいで、ここ数日の犯罪はゼロだ。
おかげと言っていいのやら、確かに今日の休みがあるのはマリーのおかげであるといえよう。
断れるわけがない。
「マッチ、マッチ‼︎」
体があったら飛び跳ねて喜んでいそうなテンションで喜ぶマリー。
「私の体も跳ね回ってるわ‼︎」
は、衝撃の一言を放った。
「……わかるのか?」
思わず問うてしまう。
「ええ、なんとなくわかるの。結構遠くにいるけど、今確かに飛び回ってるわ‼︎」
えっ?何それ怖い。
今、この世界のどこかで首なしの胴体が嬉しそうにスキップしているらしい。
……何それ怖い。
「つまりあれか?体の感覚があるって、動かせるのか?」
幽体離脱的な?あれは違うか、
もし離れた体を自由に動かせるなら、ここへ連れてくることもできるのではと考えた。
連れてきてもくっつくかどうかは分からない。
ドレイクもくっつけようとしたが、胴体を捕まえようとすると慌てて逃げ出すので、捕まえられないので諦めた。
「いや、流石に動かすのは無理、なんか、暑いとか寒いとか、なんとなく身体が感じてることが伝わってくるだけ」
しかし、どうやらできないらしい。
「なるほどな」
しかし、
マリーの身体もやはり、ドレイクのようにどこかを徘徊しているようだ。
くっつくくっつかないは別にしても、近いうちに探しにいかねばとは思っていた。
流石に無いと思うが、街でも探すつもりだ。
なら、かすかにでも気配を感じ取れるマリーの首はもって(連れて)いくのは得策かもしれない。
ただ問題は、
「どうやって持っていくかだよな」
素手持ち歩くのは論外として、鞄に入れるのも不安だ。
もし落としたり、ぶつけたら、
視界もない鞄の中でノーガードの首には大きなダメージになりかねない。
服の中に忍ばせられる大きさでもないし、
「どうしたものか……」
生首を目立たないように持ち歩くのはなかなか難しい。
「ならアレとかどうよ?私の首を落とした時にあなたが頭にしていた袋」
「頭陀袋か……アリかもしれないな」
確かに、目のとこに穴もあったみたいだし?あれなら中までは気にされない。
「名案だよ、マリー」
手があったら取りたいくらいのマリーの閃きに感謝する。
「でしょ?」
フフン‼︎
と、自慢げに胸を張……りはできないので、鼻だけ鳴らしている。
「いま胸がないとか言ったでしょ!?」
なぜか思考が読まれ……
「いやしらないよ!?胴体がないから必然的に張る胸もないとは言ったけど?」
必死に誤解を解こうとする。
「そうよ‼︎コンプレックスだったのよ‼︎同い年くらいの子らと比べても明らかになかったし‼︎」
どうやら変に地雷を踏んでしまったらしい。
話も通じずしくしくと泣き始める。
「お母様がボインだから余裕なふりしてたけど、全然大きくなりそうな気がしないもんお母様の乳もぎ取るぞ‼︎」
かなり不安定なマリー。
相当気にしていたようだ。
「何度とってつけてやろうと思ったことか……」
冗談なのかわからないくらい本気っぽくサイコな発言をするマリー。
その目は焦点が合わず、かなり動揺しているのが窺える。
「そうよ‼︎お母様の体は残ってないのかしら?あれば一回ひっつけてみましょうよ」
無邪気な瞳で、
そんなことしたらこっちが軽いトラウマになりそうなことを平然と言う、怖い。
「下半身はちょっと太ってたから、胸から上だけでいいわ、下は私の方がいい」
「いや、上だけとかしただけとか無理だからな、いくらなんでも人の体を解体してくっつけるとか異常すぎるぞ?」
そんなマリーをなんとかしようと諭してみる。
「でもうちに来る曲芸師はやってたわよ?ん?私いまなら曲芸師やれるかしら?」
だが何を言ってるの?みたいにこっちがおかしいみたいに言われてしまう。
やはり常識がないお嬢様というところか、
話が通じない。
「やめてくれ、そんなことしたら街中大騒ぎだ。だいたいあれは曲芸だからな、タネも仕掛けもあるからな」
天然もののバラける芸をみたら曲芸師でも失神するだろう。
「そうなの?ならタネも仕掛けもなくこんなとしてる私すごい?」
目をキラキラさせないでくれ、
「コケッコッコォォォォォォォォォォー‼︎」
「そうよね?私"達"すごいわよね?」
なぜかドレイクまで反応してるし……
言ってることわかるのか?
ドレイクの方もマリーの言葉に反応している。
「なんとなく」
やはり首だけで生きている(?)ものには変な力があるのだろうか?
疑問は増すばかりだ。
そんな訳で、
俺はマリーを頭陀袋に詰めて街へ繰り出すことになった。
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