首なしドレイク

一度、鶏の首を落とさせられたことがある。


精肉屋じゃないんだぞと抗議したが、上に強制され、仕方なくやった。


上には逆らえないのが仕事のヤなところだ。



で、


なんでそんな話を今しかと言うと、


「コケェェェェェェーッ!コケコッコォォォォォォォォーッ!(◎_◎;)」


俺ではない。


「おはようドレイク」


こっちが俺、


今、俺は首だけになった鶏、ドレイクと朝の挨拶をしている。


ドレイクは今の話に出てきた鶏だ。


首を落としたはいいが、どう言う訳か、元気に生きているのだ。


すぐ死ぬだろと思って持って帰ってきたが、今日で1年と一ヶ月。

毎朝その鳴き声で起こしてくれる。


とりあえず水はやっているが、役に立っているかは不明。


ほんとどう言う原理だろう。


だが生きているからには無下には扱えない。


だからこうして向かいの席に置いている。


「コッコ」


バサバサ!(◎_◎;)!!


ちなみに首がなくなった胴体もうちにある。


胴体も生きている。


ただ、かなりアホになっているようで、絶え間なくバサバサと暴れ続けている。


自分で言うのもあれだが、物静かな俺にとって、この鶏は、かなりうるさい。


「……ああ、うるさいなぁ、朝から何なの?」


そしてもう一人。


「おはよう、マリー」


数日前からうちに来た女の子。

マリーだ。



来たのは首だけだが……


胴体は勝手に歩いてどこかへ行ってしまったらしい。




「おはよう……」


すごく不機嫌そうに朝の挨拶をするマリー。



マリーは、あの時、あの場で俺がこの手で処刑した貴族の女の子だ。


なるべく苦しまないように、最大限の努力をして大斧を振りかざした。


おかげで、彼女の首はスパンッと、綺麗に斬りとばすことができ、苦しむことなく即死させることができた。


はずだった。



今のマリーは、首だけだ。


どうやら、首だけドレイクのように、綺麗に切りすぎて、死ねなかったようだ。



「ねぇ!?エドモンド!?」


どこから声が出てるのか、無駄に大声で俺の名を呼ぶマリー。


「……なんだろう?」


大声には慣れていない俺。


返事をするだけでやっとだ。


「ケーキが食べたいわ‼︎」


どこからこんな声が出せるのやら、より一層声を張りあげるマリー。


「そんな高級品、俺みたいなんが用意できる訳ないだろ」


申し訳ないとは思うが、どうひっくり返っても、今の俺の稼ぎではケーキなんて高級品には手が出ない。


「なんでよ!?私はお腹が空いたわ‼︎」


もう一度言うが、マリーは首だけだ。

減る腹もないはずだし、食べ物を飲み込むことができるはずもない。


マリーはこのことを知っているはずだ。

なのにこの言いよう。


子供のわがままというやつだろう。


「減る腹もないだろ、お前はもう首だけなんだから」


こう言うやつには現実を突きつけて一度絶望でもさせるのがいい薬になる。


「…………わかってるわよ」


マリーも例外ではなく、考えこむように難しい表情になって俯く……ことはできないので目だけ下を向いている。


「……なら」

ボソッと、何やら喋り出すマリー。


「昨日のアレがいい」


マリーは、言いにくそうに口を動かす。


「昨日のアレって……コレか?」


俺は、今まさに自分が食べようとしていた物をマリーに見せる。



ソレを見たマリーの目が輝く。


「そう‼︎それよ‼︎早くソレを頂戴‼︎」


ハァハァと、息(?)荒く俺が手に持つ"干し肉"を指(?)指すマリー。


昨晩、今のように腹が減ってうるさくなりだしたマリーを黙らせるために、何か飲み込まなくても良くて、まずくなく、それなりに栄養になりそうなもの、しかも俺がすぐ用意できるもの、を考えた結果、干し肉をひたすら噛ませ、最後に吐き出させると言う手段を思いついたのだ。


結果大成功。

マリーはただ干し肉を数枚噛んで吐いてを繰り返しただけで満腹だと言ってくれた。

味もお気に召したようで、「噛めば噛むほど美味しくなる‼︎何コレ超いいじゃない!!」


と大満足いただけた。


貴族のプライドか、女の子的恥じらいか、吐き出すのをめちゃくちゃ嫌がったが、顎がだるくなったとかで開きっぱなしになった口に手を突っ込んで無理やり取り出してやった。

後でめちゃくちゃ怒られたが、聞かなかったことにした。


そして現在、また同じことを繰り返そうとしている。


おそらく、今のわがままも、最初からこの干し肉が出てくるのを待っていたのだろう。


「コッコッコッコッコォォォォォォーッ‼︎」


バサバサッ‼︎


餌の時間と理解したらしいドレイクが嬉しそうに鳴き声を上げる。



「うるさいわね‼︎この鶏ィ‼︎」


それを忌々しそうに睨みつけるマリー。


「まぁ、そう言ってやるな、鶏だぞ相手は」


マリーを制止しようとするが、どっちも止めるところがないのでどうしようもない。


だから唯一止められる場所。マリーの口に干し肉を、ドレイクには水を、放り込む。


胴体にも同じく。


「なんでこんなのと同じテーブルに乗せてるのよ鬱陶しい!」


クッチャクッチャと行儀悪く口に物を含んだまま喋るマリー。


俺のテーブルには今、ぎゃあぎゃあ喚く首が一つと、普通にうるさい鶏の首が一つ、

並んで置いている。

向かい合って俺、俺の前には朝食の干し肉と、スープ。安物のパサパサパンが一つだ。


そしてテーブルの周りを鶏の胴体が走り回っている。

かなりカオスな状態だ。


鶏が料理ならどんなに良かったかと思うが、朝は基本これで十分お腹いっぱいなので、贅沢は言わない。


とにかく、


この光景がコレからの毎朝のことになると思う。


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