6話:これから
「フぅ~、満足した~。咽はちょっと乾くけど、腹一杯肉にあり付けたからな、満足だ。…たぶん今までで一番肉を喰った気がするな、うん」
先程までファンと共に食事にあり付いていた俺は今、同じく満腹になってオネムの状態の暖かいファンに背を預けながら座り、右手の中にある2つの物を弄っていた。
それは掌サイズの六角形の赤い宝石。宝石の中は淡い光がありまるで心臓の様に光が鼓動している。
ファンによればこれは魔心石と呼ばれるもので、魔物と呼ばれるモノには必ずあるものだそうだ。魔物にとってこの魔心石は最も重要な器官で、人で言う所の心臓に位置しているらしい。
魔物はその生命活動が停止しても、この魔心石がある限りは直ぐには消滅せず器は残るそうだ。
死してもこの魔心石に魔力を補填する事で再び生命活動を行う事が出来るのだ。
あらかた喰らい終えたトラモドキの心臓部にあったこの魔心石を取り出した途端、トラモドキは残っていた喰い掛けの部分を含めて消滅した。
それを見届け魔心石を手にすると俺はまだ動けそうにないので満腹になり眠そうなファンに(物凄く嫌そうな目を向けて来たな~)先程倒したアリを大型にした魔物の魔心石を取りに行かせた。
ファンに魔心石を取り出された瞬間、アリモドキも消滅した。
「まっ、とにかく。この魔心石とやらを奪っちまえば魔物は簡単に殺せるってわかったからな。ある場所も大体生物の心臓に位置している場所にあるようだし、これからは殺り易そうだ」
「グーzzz」
「たくっ…呑気に寝てやがるなコイツは」
グーグーの寝息を立てながら眠っているファンに呑気なもんだと笑みを向ける。
フカフカで暖かい体を撫でるとファンも気持ち良さそうな顔を浮かべる。
+
「…どうするかなぁ…」
俺はなかなか寝付けなかったので今後について考えていた。
当面の間はこの洞窟を拠点にしつつ、一つ一つこの先の問題点を考えていた。
危険面に関しては、一先ずはファンがいる限りは危機的状況に陥ることはないだろう。
俺の”
取り敢えずの当面の問題としては、水の確保だろうか。
喰うモノがあっても咽の潤いにはならないからな。
人間の大半は水分で構成されているので、水がないと体調を崩しやすくなるからな。
水に関してはとりあえず明日にでもファンと一緒にこの辺を探索しながら捜すとしよう。
あと、水を入れられる何かも必要だな。
竹みたいなのがあったらいいのになぁ。……異世界ぽくないか?
また周辺の探索を行う際に俺のSkillで眷属になりそうな魔獣と食用になる美味そうな獲物を探す事だな。
思い出すのはトラモドキを最初口に入れた時は生肉による生臭さからの嫌悪感があったが、呑み込むともう物凄く美味い、美味である!と感じで夢中で呑み込むようになっていた。次第に生による嫌悪もなくなったな。胃も丈夫になり拒絶感や嘔吐感もなく、歯も頑丈になった気がする。
始めは肉を噛み切るのに苦労したが、途中からすらっと噛み喰らうに至ってた。フライドチキンをこうすっと肉を剥がす感じだな。
徐に歯を触ってみると若干奥歯の一部が犬歯みたいに尖っていた。
(なんだか、ますます獣ぽくなっちまってるな、俺ってば…)
自身の名でもあるケモノに近付いた状態に溜息を付きながら苦笑する。
眷属確保と食糧や水分の確保のあとは、俺自身のステータスと能力強化、次にこの世界について等の知識を得ることだな。
能力強化はまあ後にして、この世界の知識に関しては問題がある。
知識を得る為には、得るに相応しい場所にて、この世界の人間から知識を得る必要がある。異世界人である俺には当然この世界の事はわからない。
だけど俺はこの国のクソ王のせいでこの国の管轄している街に入ることも出来ない。
まあ能力を持っていなかったあの時と違い、今は
この事を告げればあのクソ王も俺に対しての対応を考え直すかもしれない。
けど……俺は、どうしても許せない。
ただ能力を持っていなかっただけと言う理由で、勝手にこの世界に誘拐同然の状態で呼んだくせに俺は放逐されたのだ。
俺に対する対応を考え直したとしても放逐された事実は簡単には許せない。
誠心誠意の気持ちで土下座でもして来たら考えてもいい。
まあ、あのクソ王だ。そんな事するとは到底思えないか。
あと、あの時俺を見捨てたクラスの連中も………
……
――
…
どうでも良いか…
理不尽の元凶について考えていたのだが、なんだかどうでもよくなった。
始め感じていた怒りと言う熱が無価値と冷めていく。
この国のクソ共もクラスのゴミ共も、どうでもよい。俺に関わりにならなければどうでも良い。
俺は……俺は自由に生きる。
その俺の邪魔をするならどんな相手だろうが殺す。
ただそれだけでいい。
”邪魔者は殺す”、単純な理由だ。
「グルゥ~?」
今後のこの国の連中やクラスの連中に対するスタンスを決めた俺に、いつの間にか目を覚ましていたファンが心配そうに『どうかしたの~?』と俺に声を掛けてくる。
俺は気にしなくていいと「何でもないよ」と優しく声を掛けながら撫でる。
温かいなホント…
……そうだな。
コイツが…ファンがいてくれるだけでいい。
ほかなんてどうでも良い、気にしないでいい。
そう思いながら俺は右手でファンを撫で癒されつつ、左手でポケットのスマホを取り出す。
取り出す際に左腕に目を向ける。
左の上腕には、あの時、トラモドキに噛み付かれた部分に穴があった。
能力に覚醒?した際にトラモドキの血を舐めた際に穴の部分に肉が付いて塞がる状態だった。
今の俺の左腕は完全に完治している。うっすら穴があったであろう痕があるのみだ。
トラモドキを食したことで俺の能力によって治癒したのだ。
これには少し驚いたな。
ムキュモキュと肉を頬張ってると左の傷の部分がまるで煙が上がると傷部分が塞がり完治したのだから。
魔獣がいる限り俺は致命傷でない傷なら治癒されて死に至る事もないと嬉しく思うのと、魔獣を喰わないと駄目な点が”獣”みたいになってるなあと苦笑するのだった。
スマホを取り出すと電源を入れる。
画面からステータスのアプリを開く。
開いたステータスを見て思わず「おお!」と驚けに声を漏らした。
そんな俺にファンは不思議そうな目を向けてくる。うん、愛くるしいやつだ。
=====
Name:
Atk:90
Dfs:80
Spd:90
Mp:70
【Ability】
♢
【Skill】
♢魔獣契約・Level:Ⅰ(自身に触れた【魔獣】に該当する魔物を3体まで自分の眷属化させることが出来る。…現在1体と契約中。)
♢魔獣調教・Level:Ⅰ(契約した眷属の魔獣の能力を一時的に上昇させることが出来る。Levelが上昇するほど効果が上がる。)
♢魔獣の血・Level:EX(魔獣限定で、魔獣の血肉を食らう事で体力回復、傷の治癒、身体機能向上を得ることが出来る。)
♢強酸・Level:Ⅰ(胃が丈夫になる。【魔獣】限定で、魔物の肉を食しても異変を起こさない。)
♢観察眼・Level:Ⅱ(相手の動きを観察し相手の動きを読み取ることが容易になる。)
♢魔獣風爪・Level:Ⅰ(爪に”風”を付加させることで爪の部分に風の刃を形成できる。)
♢擬人化・Level:EX(どんな効果は試して見てね♪)
=====
まずステータスの戦闘能力の部分だが、
あのトラモドキを喰った事でステータスが上がったと見るのが妥当だろう。ただMPが上昇していないのはどうしてなのだろうか?
……喰らった魔獣の種類によって変わるってこと、なのだろうか。
どう見てもファンやトラモドキは魔法とはあまり関係ない魔物だと思うしな。
と言う事は魔法を使えそうな魔獣を狩ると良いってことなんだろうか…
でもなぁ…魔法なんて使える有能な魔獣は手元に置いておく方がいいと思うし。
ううっ、悩ましい。
眷属の数に制限があるし、同じ魔獣に遭遇したら片方は眷属にして片方は食して俺の力の糧にすればいいかと考えた。
次にSkillだな。
まあ、いくつか増えてたな。
興味をそそる新Skillがあったが、まずは今まであったSkillだな。
Levelが上がったわけではないようなので変わらずだ。
次に新しいSkillだ。
興味があるのは一番最後なんだが、上から確認していこうか。
まず”強酸”だ。うん、胃が丈夫になるらしい。これは既に実感してるから分かり易いな。ただ、魔獣限定で魔物の肉を食せて異変が起きないとあるな。
つまり、魔獣以外の魔物を喰うと何かしらのバッドステータスを受ける可能性があるようだ。
……リスクがあるし試すにしても捕食用の魔獣を得てからだな。
次は”観察眼”。
これもトラモドキと戦った際に相手の体の動きに繋がるものを把握し先を予測する事が出来ていた。
うん。これもLevelがまだⅡ…上限がいくつか不明だけどⅡだしまだまだ鍛えることが出来るな。
俺としては未来予測の域まで行けたらいいなと思っている。
そして攻撃用のSkillと思われる”魔獣風爪”だ。
これは手の爪に”風”を集めて鋭い風の刃を作るという感じだと思う。
ファンや恐らくトラモドキが所持しているSkillと同列だと思う。
と言うかこんなSkillがあるのに使わなかったトラモドキは馬鹿だと思う。
丸腰の人間と侮ったとかだろうか。
「馬鹿な奴」と呟きながら試しに左手に風の爪を作るイメージをしてみた。だが、周囲の風が少し手に集まる程度しか起きなかった。
要練習だな。
そして俺が一番興味をそそる”擬人化”だな。
新しく得たSkillではこのSkillだけがEXの位なのだ。しかも『効果は試して見て♪』とか出てるし……まあ、物は試しだな。
”
他人に成りすますとかならわかるけど、俺の能力は基本【魔獣】に関わるものが殆どだ。
だからこのSkillは【魔獣】を人の姿に変えるものだと推察した。
そう推察した俺はファンに話しかける。
「ファン、悪いけど俺の新しいSkillの実験に付き合ってくれ」
「ぐる…ぐるるぅ」
俺の『実験』と言う言葉に不安そうな声を漏らすファン。
「なに、ファンにとって痛いことはないと思う。これから行うのはお前を人の姿に変化させることが出来そうなSkillを使うから」
「ぐるる?」
「ああ、人にだ。恐らくだが、このSkillで魔獣を人間に擬人化させることが出来るはずなんだ。だから試させてくれるか?いや、試させろ!」
「ぐるる!」
実験と称したのがファンに不安をもたらしていた様だが、俺が教えた内容、『人間になれるかも』に興味を得たようでなんだか目を輝かせて見つめてくる。
なんだか『はやく、はやく!』とワクワクしているようだ。
では、許可も得たことだし試してみますか………
………
……試して俺は目を見張らしながら思わずと言った感じに声を出していた…
「――お前…が、ファン…なのか?…」
俺の目の前にはファンの表皮と同じ黄色の長いふわっとした髪をした幼さのある瞳をした裸の美少女がいた。
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