19話:では俺も始めよう

盗賊達との戦闘をファンとキキが開始して数分。

呆気ない程相手は瞬殺された。

戦闘と呼ぶのも烏滸がましいほど呆気なさである。


ファンが相手した連中は、頭やら腕とか体の部位を失う様に死んだ。

キキが相手にした連中は、キキの作った結界魔法による窒息で死んだ。

どちらも「エグイなぁ」とか少し死んだ奴らが憐れだなと思った。


さて、残ってる盗賊連中は俺が相手にする4人の男達。

その男達はファンとキキに対してあり得ないものでも見たようにかなり動揺しているようだ。

まあ仲間が目の前に呆気もなく無残な死を迎えたのと、相手がただの人間の少女でない事に。

ファンが戦った際、ファンは自分の腕を魔獣形態の時の腕に変化させていた。そしてその腕から振るわれる一撃は人間の体の部位を簡単に吹き飛ばせるほどの威力を持っていた。

キキは魔法を使う際に、どうやら普通は人間が魔法を使う際には詠唱が必要らしいけど、キキは必要とせず魔法を行使した。

これは魔物の心臓部である魔心石の力のようだ。基本魔物が魔法を使うのに無詠唱なのはこの為らしい。


ファンもキキも特殊な能力持ち、と残りの連中の反応から理解した。

そして二人がそうなのだ。そう考えたのか連中、俺に対してもただの人間ではないのか?と疑念を思い始めている目をむけていた。


しかし2人とも大したもんだ。

初めての人間の姿の戦闘ゆえに、多少は手こずったりするかな?とか思ったけど、そんなことはなかった。ただ相手側が弱すぎなだけというのもあるけども。

ファンは力加減が始めは出来ていなかったようだったけど、直ぐに修正し自分の力に順応していた。

キキは魔獣形態の時でもその魔法能力が有能だったが、こうして人として魔法を駆使した際の有能性を発揮して見せた。


本当に良い眷属を持ったと思う。

思わず口の端が笑みを浮かべる。

無論意識は決して相手から外さない。

と言うか相手である俺から意識をファン達に向けている奴らは愚かだと思う。

俺に即殺る気でいたら、その隙を付いて即刻連中は死んでいるだろう。

既にそれだけの戦力差があるのがわかっていた。

ならなぜそうしないのか?それは、せっかくの戦闘訓練の練習台にならないからだ。


商人の親子を襲撃した先程の盗賊連中は、ハッキリ言って歯応えがなく、ファンとキキの奇襲作戦もあり、あっさりと終わってしまった。


正直言って俺は、今の自分が強い存在であるとは考えていない。しかし相手を殺すのに躊躇はしない。たとえ知り合いが相手であっても心が揺らぐことなく殺す事ができる。

ただ、俺には足りないものがある。それは戦いにおける技術や戦術といった経験。特にまだまだ戦闘経験値が少ない。

少し前まで地球の日本では、武器を持って戦う戦争とは縁がない平和な国。俺はそのただの学生で戦場に立ち相手を殺すなんて経験は全くと言ってない。

無論今の俺は相手が敵であればどんな相手でも殺す意思がある。

躊躇う事もなく、そうだな、ただの作業な物の様な感じで仕留める事が出来る。

と言っても、今は相手を躊躇わず殺す意思があっても、その技術が不足していると思っている。


だからこそこうして戦闘の経験を得るのにうってつけなこうした機会は大切にしないといけない。

たとえ相手が雑魚の様な奴らであっても、相手からの殺意や相手の持つ武器や魔法、そこからくる戦い方を学べればいいと考えている。

まあ今回も他3名よりは動揺を隠して、俺に何とか意識を向けているリーダー格の男以外は、為にはならないと思うが。


さて、ファンとキキの戦闘が終わったし、いい加減こちらも始めよう。

2人に後れを取ってばかりでは、2人の主としての威厳もないからな。


改めてギュッと先の盗賊連中から無傷で奪っていたそのナイフを握る。

得物は大きめのサバイバルナイフの様な形状だ。

今回俺は武器を使うつもりだ。

今までは自分の爪に風の刃を形成する能力”風爪”を纏い直接この手で仕留めていた。

しかし今回は違う。

今回は自分も武器を所持しての戦いを経験することで、対武器の感覚と対処を知るのによいと考えたのだ。


先の盗賊連中から多少はナイフに該当する短刀の扱い方は学んでいる。もっとも正直お粗末なもんだと呆れたりもしたけど。連中はただ獲物を振り回しているだけ。言い換えれば武器に使われていただけと言えた。


「さて、それじゃあこちらもいい加減始めようか。アンタら何だかファン達に動揺しているとこ悪い、とか全然思ってないけど、いい加減、俺にもちゃんと意識を向けてくれないか?」


そう挑発するように声を目の前の隙だらけのバカ4人の愚か者に伝えた。


「な、なんだと!?」


するとやっと俺に注目してくれた。

先の言葉に怒り顔で殺気を放ってくる。


「がんばれーマスター!」


ふとファンの応援の声が聞こえてきた。

俺はその応援に「おう。任せろ」と答える。

そう答えた途端連中からさらに殺気が増した気がする。


「ほらキキもマスターに応援しないと!」

「えっと、応援とは、その、どうしたらいいのでしょうか?ファン殿」

「ん?そうだなぁ…ごにょごにょ」

「えっ!?私には、その…」

「大丈夫だよ!マスターは喜んでくれるはずだから!」

「そう、でしょうか………では、フ、フレーフレー、主♪」


恥ずかしそうに応援してくれるキキ。

満足そうなファン。


うん。なんだかやる気が一気に……冷静な感じになった気がする。

恥ずかしいの此方もだっての。

ただ相手からは、


「このガキッ!馬鹿にしやがって!」

「舐めてんのかこの野郎!」

「リーダーやっちゃいましょうぜ!」

「良いぜお前ら。どうやらあっちの化け物みたいな女は手を出さねえみたいだからな。遠慮なく弄ってやれ!」


4人ともそれぞれの武器を構える。

良い殺気を放ってくれている。


2人の応援の効果はしっかりあったみたいだ。


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