神様の贈り物
紫 李鳥
第1話
女は、とある温泉駅で降りると、温泉街とは逆方向に行った。
車道から逸れた小道を下りると、死に場所を求めて、その道を
やがて、水の音が聞こえると、道に沿った小道を下りた。
渓流沿いを
風避けになる。この中で死に方を考えよう。そう思った女は、薄暗い洞穴に入った。
壁際の出っ張った岩に腰を下ろすと、ボストンバッグから杏酒のボトルを取り出し、封を切った。
『……残念ですが、末期の
不意に、医者の声が聞こえた女は顔を曇らせた。
……雪が降らないかな。どうせ死ぬなら雪に埋もれて死にたい。女はそう思いながら、ボトルをラッパ飲みした。
けど、雪の時期まで生きられないらしい。もう死期が分かっているんだ、それまでを生きていて何の意味があろう……。女はそう思いながら、ラッパ飲みを続けた。
ボトルの半分も飲むと、体の
これが
洞穴の外は
さて、もう少しの飲んで体をポカポカにしたら、ダウンジャケットを脱ぐか。……凍死準備のために。女がそんなことを考えていると、洞穴の奥から何か物音がした。
ガサガサッ
また、した。ビニール袋を触るような音だった。
……野鼠か? そう思った女はポシェットからケータイを出して開いた。
その明かりを奥に向けると、何やら白っぽい物が見えた。女は目を凝らした。それは、レジ袋だった。
渓流釣りに来た客の食べ残しに鼠とかゴキブリが
「オギャーオギャー」
赤ん坊の泣き声がした。
「エッ!」
女は振り向くと、開いたケータイの明かりを頼りに袋に歩み寄った。
袋の中にいたのは、白っぽい衣類に包まれた乳飲み子だった。――
「お願いします。私を雇ってください」
女の背中には、ダウンジャケットから顔を出した乳飲み子がいた。
「うむ……。うちは託児所がないもんでね。申し訳ない」
旅館の主は、言いづらそうに言葉を濁した。
……乳飲み子を抱えてじゃ、どこも雇ってくれないか。女はそう思いながら数軒の旅館を回ったが、
……どうすればいい? やはり死ぬしかないか。どこの誰かも分からないこの子を誰かの家の前に置いてから。捨て子のたらい回しをされて、可哀想な赤ちゃん。そんなことを思いながら、女が道を戻っている時だった。
「ネッ! そこのお母さん、ラーメン
道端の屋台から女の声がした。振り向くと、ねじり鉢巻をした中年女だった。
「……お金が」
「なーに、出世払いでいいよ」
中年女は、手を動かしながら無愛想に言った。
「オギャーオギャー」
「ほら、赤ちゃんも腹減ったってさ。いいから、座りな」
中年女は、半ば強制的だった。
女は長椅子に腰かけると、
「ヨチヨチ」
と背中の乳飲み子をあやした。
「はいっ、お待ちっ!」
中年女は、女の前に丼を置いた。
「……いただきます」
女は感謝の顔を中年女に向けた。
「ゆっくり食べてな。買い物行ってくるから、留守番頼むよ」
中年女はそう言ってねじり鉢巻を外した。
ラーメンを食べながら女は泣いていた。そして、鼻水を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます