第73話 卒業式。



 今日は卒業式。今年に入って学校へは登校日以外に来ては居ないけれどそれでも学生生活が終わると思うとなんとなく寂しい気がしてしまう。たとえそこまで良い思い出がなかったとしても。


 学校へはなぜかコウさんと一緒。なお、両親は後から来る予定だ。コウさんは「学生生活最後の日だし、私がソウくんと一緒に出来なかったソウくんとの通学やってみよ? 」と今俺の腕にひっつきながら一緒に向かっていた。まだまだ時間があるんだし家でゆっくりしておけばいいのにと思うけれど嬉しそうに俺の腕を組んで歩いているコウさんを見るとまあいいかと思ってしまった俺なのだった。




 学校に着けばコウさんはいつものようにコウさん預かり所……職員室に預けていた。仕方ないなあと少し呆れた顔をしていた先生方を見ながら「コウさんをよろしくおねがいします、今日で最後ですから」と心の中でお願いしつつ俺は教室へと向かっていった。




 さて、クラスに着いても卒業式まですることは特にない。別にクライメイトに対して惜しむものや伝える言葉もないわけで。でもそう考えると俺って寂しいがく生活だったんでは? とも思ってしまうけれど。


 けれど俺が席につくとひとり人がやって来た。


「おはよう、創くん。いろいろとあったけれど……今までありがとう」


 そう声をかけてきたのは高梨だった。


「ああ、おはよう。高梨は大学だったか? まあ卒業しても頑張ってくれ。そうそうひとつだけ。相手はひとりにしろよ」


 と俺が言うと少しむくれた顔をしながらも


「分かってるわよ。もう面倒事になりたくないしね。それにあなたよりもっと良い人見つけるわよ。なによ、最後にまで嫌味言ってきて」


 そう高梨は言い残して席へと戻っていった。




「朝から何してるんだか。おはよう。入江」


 高梨が去ると今度は隣の真崎が声をかけてきた。


「ああ、おはよう。真崎」


「まあ浮気騒動の後からは落ち着いたクラスになったからなあ。いや、入江のせいで噂だけは耐えなかったかな? 」


 真崎が言いたいのはコウさんとのことだろう。コウさんが学校に来るわ、俺がCMにでるわ、ふたり婚約するわと確かに話題に事欠かなかったんだろうなあと思った。けれど


「というかそんなに人の噂して楽しいものか? 俺にはわからんよ」


 と俺は素直に思ったことを真崎に告げた。


「うーん、本人にはわからないってところか? やっぱり芸能人の話は気になったりするもんじゃない? 」


 真崎がそう言うのもわかるにはわかるんだが


「まあ俺にとって坂梨 幸はひとりの女性だからなあ。芸能人とかそんなの関係ない普通の女性だってことかな」


 と俺は真崎にそう返答していた。それを聞いた真崎は


「熱いねえ、おふたりさんは。でもたしかにそうなのかもなあ。別に芸能人だからって好きになったり婚約までするんじゃないわけだし。ふむ、勉強になった」


 とそんなことをブツブツ言いながら一人の世界に入っていった。それを見た俺は最終日まで遠慮なく声をかけてきては悩みだす真崎はもしかすると変わり者なのかもしれないと今更ながら思ってしまったのだった。

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