第71話 嫉妬。



 今日も俺は仮マネージャーとしてコウさんの仕事についていくわけだが、本日の俺は荷物持ち役となっている。というのも今日は2月14日バレンタインデーということでコウさんが関係者に配るためにチョコを相当量買っていたからだ。


「本当はこんなのソウくんに持たせたくないんだけど。チョコなんて本当は好きな人だけに上げられればそれで十分なのに」


 とコウさんは言っていたが俺は荷物を持つのも仕事だからとなんとかコウさんを言いくるめていた。




 事務所に着けば配り、撮影現場に着けばまた配りと今日はあちこちで配りまくる。おまけに今日行く必要のない場所にまで行きまた配ると。こうしてみると女性って大変だなあと俺は思いながらも必要のある場所に着けば、配るチョコをコウさんに渡しその光景をただ横で眺めていたのだった。




 そんなことをしていると次第に俺の心に現れるものがあった。


 それは嫉妬。


 好きな人が義理にしてもチョコを他の人に渡すところを見るのってあんまり良いものじゃないなあと。分かってはいたことなんだけどね。俺も相当コウさんに染まってるんだなあと思ってしまう。そんな事を考えながら俺はみっともないのにと嫌な気持ちを押し込めながらコウさんについていった。




 しばらくして俺が様子のおかしいことに気付いたのか


「ちょっと休もうか」


 とコウさんは撮影場内にある休憩所を指差した。


「早く配ったほうが良いんじゃないの? 」


 俺がそう言うと


「それよりもソウくんのほうが大事だから休憩していこう」


 コウさんは俺を心配しながらそう言ってくれた。しかし見てわかるくらいそんなに俺はおかしかっただろうかと少し考えながらも


「わかったよ。休んでいこうか」


 と同意して休憩することにした。ふたり向き合って座ると


「ソウくんなんかあった? 」


 やっぱりコウさんは俺がおかしいことに気付いていたようでそう聞いてきた。


「はぁコウさんにはお見通しなんだな。いやね、コウさんが他の男にチョコを渡しているのを見ると義理と分かっててもやっぱり嫉妬しちゃってね」


 と俺は頭をかきながらそっぽを向いてコウさんにそう告げた。すると


「ほ……ほんとに? うっ。ソウくんには悪いけど嬉しいな」


 言葉がつまりながらもコウさんはそんな事を言ってきた。


「え? 嬉しいの? 俺が困ってるのが? 」


 と俺はちょっと困惑しながらそう尋ねた。だってコウさんが俺の困ったところを見て喜ぶなんて今までなかったから。


「え? 困ってるのが嬉しいんじゃないよ。ソウくんが嫌なことに喜ぶわけないじゃない。そうじゃなくてソウくんが私に嫉妬してくれたことが嬉しくって。だって初めてじゃない? そんなに表に現れるくらい嫉妬してくれたのって。それだけ私のことを好きなんだってわかることが出来て嬉しいなって」


 コウさんはニコニコしながら俺にそう告げた。うぅぅ確かに嫉妬したことはあってもここまで嫉妬したのは初めてかもしれない。表に現れるくらいなんて恥ずかしいなと。


「た……たしかにね。でも表に出ないだけで嫉妬することはあったよ。今日はずっと見ていないといけないから……嫉妬する機会が多すぎるんだよ」


 と俺はコウさんになんとか言い訳を考えて伝えていた。そんな俺を見て思ったのだろうコウさんは


「ソウくんはね。嫉妬する考えが甘いのよ。元彼女のことを話に出したりするし。どれだけ私が嫉妬したと思ってるの? 今日はしっかり私に嫉妬してもらおうかな? 」


 とコウさんに嫉妬に関して逆に言い返されてしまった。その言葉を聞いて俺は確かに考えが足らずコウさんに甘えていたなあと思ってしまった。


「コウさん、ごめんね。確かに考えが足らなかったね。本当にごめん」


 俺がそう謝るとコウさんはちょっと言い過ぎたと思ったのか


「ソウくんそんなに謝らないで。ごめん。言い過ぎたね。ただ、ソウくんが嫉妬するように私も嫉妬しているの。分かっててね」


 コウさんはそう言って優しく俺に笑いかけてくれたのだった。


 

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