第37話 英雄


 リュカを帝城に残し、俺はラミティノ国、ラパスの街へやって来た。


 既にゾランが調査を済ませていて、物質等の支援を施している。流石できる男だ。仕事が早い。


 建物は俺が回復魔法で元通りにしたから、魔物に襲われた形跡は見受けられねぇ。けど、きっといつもはもっと人通りも多くて活気があるんだろうな。今日はやっぱり行き交う人々は少なく、露店や店も空いてない所が多かった。


 そんな様子を見ながら、ゆっくり歩いてヴィオッティ邸まで行く。途中、何人かに「助けて頂いて、ありがとうございました!」と頭を下げられる。その度に胸が苦しくなって、申し訳ねぇ気持ちになる。


 俺がリュカを探し出せずにいたからこうなった。だからこれはリュカのせいじゃなくて、俺のせいなんだ。

 そう思いながら辺りをしっかり見て歩き、その様子を脳裏に焼き付ける。自分の力不足が招いた結果を、俺は知っておかなきゃなんねぇからな。

 

 そうやって暫く歩いてヴィオッティ邸にたどり着いた。さっそく領主、レイモンド・ヴィオッティ伯爵と面談する。



「エリアス殿!出向いて下さり、ありがとうございます!こちらから伺わなくてはいけないところでしたのに……!」


「いや……俺の方こそリュカを保護して貰えた事に感謝しているからな。」


「しかし、それで近くに来て頂いてたので、被害はかなり少なく済んだんです!こちらこそ感謝致しております!」


「そう、か……」


「それに、亡くなった者達が蘇ったとの報告も多数受けております。そんな事ができるなんて、貴方は本当に神のようなお方だ……!」


「あ、いや、それは……」


「まさに英雄と呼ぶに相応しい!この度は本当に、ありがとうございましたっ!!」


「そんな大層に言わないでくれ……!俺は当然の事をしただけで……!」


「その謙虚な姿勢にも感服致します……!なんと出来たお方なんだ!」


「いや、本当に、もう良いからっ!あ、それと!……今回の事で親を亡くした子供とかはいんのか?」


「……はい……数人確認出来ています。」


「その子達はどうするんだ?ここには孤児院とか、保護してくれる場所はあるのか?」


「孤児院はありますが、実は定員がいっぱいでして……そこで働いているシスターや職員が子供達を守ろうとして被害に合いまして、現在人手が足らなくなっている状態なんです。」


「そうか……」


「他の街から人員を確保しようとしていますが、どこも手一杯のようでして……」


「それなら、俺が預かる事も出来るが、どうする?」


「え?」


「俺は孤児院を運営していてな。そこで受け入れる事は可能だ。この街を離れるのに抵抗はあるかも知んねぇけど、誰にも面倒見て貰えねぇ子供がいたら俺が引き受ける。」


「なんと……!そんな慈善事業もされていらっしゃるのですか!」


「慈善事業とか、そんなんじゃねぇけど……」


「素晴らしいっ!そんな方がオルギアン帝国のSランク冒険者で、しかもリーダーをされていらっしゃるなんてっ!」


「あ、その、だから、そんな大袈裟に……」


「まさに聖人君子のような方です!そんな貴方様に謝儀として、こちらをご用意致しました!」


「えっ……?」


 

 従者のようにそばに立っていた一人の女性がニッコリ微笑んで、一歩前へと踏み出した。



「現在、被害者に支援金を与える等をしておりまして金を動かすことはできない為、我が娘を……!献上致しますっ!」


「ええーーーーーーーーっっっ!!」


「エリアス様……ナタリア・ヴィオッティと申します。どうぞ末永く、よろしくお願い申し上げます……」


「いやいやいやいや、可笑しいだろ、こんなのっ!!」


「我が娘は、どこに出しても恥ずかしく無いように、淑女としての教育を徹底して育て上げましたので、エリアスさんのお邪魔になることは無いかと……!」


「いやいやいや、マジでいらねぇから!そんなのっ!!」


「……いらない……?そんなの……?」


「あ、いや、その、貴女の事をそんなの・・・・とか言った訳じゃなくて……!その、礼とか、そういうのは必要ないって事なんだっ!」


「国王にも勿論許可を頂いております!国王はオルギアン帝国とも厚い親交が築けると、大変快く思って下さっております!」


「国とかそういうのは、関係ねぇから!」


「我が娘では不足ですか?ではもう一人下に娘がおります。その者も一緒に……」


「いや、だから!大丈夫だって!マジで!俺は貴族でも何でもねぇんだって!それに!……俺には心に決めている人がいるから……!」


「爵位等関係ありません!私は二番目でも何でも構いません!ですので是非貴方のおそばに……!」


「実は昨日、エリアス殿がこちらに来られた時にお見掛けしたようでして、その際に娘が一目惚れをしてしまいましてね。エリアス殿程の人物であれば爵位等関係もありませんし、これで謝儀となるならと……」


「もう本当に大丈夫だから!俺は一人の女性しか愛せねぇし、今はリュカの事しか考えられねぇから!」


「なんと見上げた方なんだ……!」


「あぁ……そんなところも……」



 俺がどう言っても終息しそうにねぇくらいに、何故か親子で盛り上がってしまっている……マジでこんなことは勘弁してくれ……!


 なんとか治めて貰うようにして、孤児の事だけ分かればまた連絡して貰うように言って、さっさとその場を後にする。


 礼なんて言われたりされたりする立場じゃねぇ。俺が償っていかなきゃなんねぇのに……


 そんな心境のまま次は国王に会いに、王都ヘリナヴァルへ空間移動で行く。取り次いで貰って、すぐに国王に会う事ができた。


 ここでもガウルテリオ国王にすっげぇ感謝されて、お礼の品だと金や宝石や土地なんかを渡そうとしてくる。それを全て断ると、なんでかまた「姫をどうぞ」とか言って差し出そうとする。なんだ?この国は?!人身御供にでもする風習でもあんのか?!


 それも体よく断ると、謙虚で素晴らしい人物だと、また持ち上げられる。誉められんのは嫌いじゃねぇけど、今回に関しては素直に受け取れねぇ。ここでも何とかこの場を切り抜けようとしたが、そこはやっぱり国王だ。このままでは帰せんとか言われてしまった。マジで困る……!



「何もいらないと言われても、それではこの国が英雄に対して礼の一つも出来ない国だと思われてしまう。それは出来ないのだ。」


「って言われてもなぁ……」


「ではこれでどうか!国宝である秘刀『幻夢境刀』!こちらを納めて頂こう!」



 従者が二人、大事そうに美しい装飾のされた刀剣を持ってきて俺に差し出す。



「国宝って……!そんな大層な物を貰う訳には……!」


「いや!これは必ずしも貰って頂く!……と言うより、使いこなして欲しいと言う願いもあるのだ。」


「え?どう言う事だ?」


「国宝とされ、厳重に保管はしておったのだが、実は未だかつてその刀剣を鞘から抜く事すら出来ぬのだ。美しい装飾がなされ、見目麗しい物であるが為、展示用として作られた物だと申すものも多いのだが、これはそうではない。」


「……すげぇ『気』を感じるな……ただの刀剣じゃねぇ……」


「お分かりか!そうなのだ!昔この地を救ったとされる英雄が持っていたと言われておったのだが、実はこの刀剣があるからこそ英雄となれたのではないか、との言い伝えもあるのだ。勿論我が国のSランク冒険者や凄腕の剣士にも持たせてみたのだが、誰一人として鞘からも抜けなかったのだ。未だその刀身を拝める事も出来ず……!」



 従者から刀剣を受け取り、鞘から取り出そうとする。


 ん?普通に取り出せるけど……?


 鞘から抜いて、刀身を眺める。すっげぇ綺麗な刃だな。けど、その刀身から滲み出るような『気』と言うのか、なんかそういうのが感じられる。これは……


 ふと静まりかえった辺りを見渡すと、皆が驚いた顔をして俺を見ている。刀剣を鞘に戻すと、周りから何故か喝采を浴びる。



「え?!え、なんだ?!なんでだ?!」


「流石はエリアス殿……!そうも簡単に鞘から抜き出せるとは……!やはり貴殿こそが持つに相応しい人物なのだ!」


「えっ!いや、これは……っ!……けど……これは迂闊には触らねぇ方がいい物だな。刀剣を抜いた瞬間、頭の中、乗っ取ろうとされたぜ?まぁ、乗っ取られる前に、俺がこの刀剣の『気』を乗っ取ってやったけどな。」


「素晴らしい……!それでこそ英雄なり!」



 周りにいた皆から拍手喝采が起こる。なんだ?これ?俺はどうすりゃ良いんだ?


 それから何故かその場で宴会が始まった。瞬く間に料理や酒が用意されていき、いつのまにか『幻夢境刀』と呼ばれる刀剣は俺の物とされた。


 そのままなし崩し的に宴会へと持ち込まれていって、各貴族から挨拶やらお礼やら縁談やらがひっきりなしに俺の前を飛び交っている。


 それから何故か俺は女性群に囲まれている。皆綺麗なドレス着て上品っぽいんだけど、感情を読み取ってみると、それはもう野望の塊みてぇな感じだったり、成り上がりたいって思ってたり、親に強制的に言われて仕方なくだったり、もう容姿と思考が違いすぎて怖くなってくる……!


 ディルクは「貴族や皇族の女性はまるで魔物のようだ」と言っていたが、やっとそれが分かった。こんなんじゃ誰の事も良いなんて思えねぇよ!あ、勿論アシュリーとリュカは別だけどな!


 早く帰るってリュカに約束したのに、この状況ではなかなか帰れねぇな……


 リュカ、寂しがってねぇかな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る