きみょうな僕の病気のはなし

@toipptakosan11

きみょうな僕の病気のはなし

僕は生まれつき、きみょうな病気を持っている。


ある日の朝、

「起きなさーい、遅刻するわよ」

1階から母の声が聞こえた。僕は、何に遅れるのかと思い

「何に遅れるのー?」

と母に聞き返した。


すると、母は不思議な顔で

「学校に決まってるじゃない」

と僕に言った。


そっか。僕は今年の春から小学校に通っているのだった。


つい忘れていた。


また、とある日のお昼。


僕は知らない子供に運動場で遊ぼうと言われた。全くの知らない子だというのに、

彼は、なりふり構わず僕を連れて運動場に引っ張ってくれた。


さすがの僕も大変だと思い、彼に

「遊ぶ前に、君の名前を教えてくれない?」

と言った。


彼は不思議そうな顔をして「僕だよ、ゆうただよ」と言った。


そうだった。ゆうたは、入学して1番最初にできた友達だった。


つい忘れていた。


時は飛んで、高校生なったある日の放課後。


僕は、授業も終わったから早々に帰ろうとして駐輪場へ向かった。

そこで自分の自転車の鍵を抜いているところ、急に後ろから

「何帰ろうとしてんだよ、今日はお前が部室の掃除当番だろ?」

と強めな言葉で言われた。


何のことやらと振り向くと丸刈りで白のユニフォームを着た野球部がいた。


しかし、僕は野球部に入った覚えはない。

すると、向こうからジャージを着た子が走ってきた。

彼女は少し怒りながら「今日は君が部室掃除とドリンクを作る日でしょ!!」と言われた。


あ、僕は野球が大好きで野球部のマネージャーになったんだった。


つい忘れていた。


また時は飛んで、24歳のある日の朝。


時刻は朝の11時。起きたはいいが、何やら頭が少し痛い。全く昨日のことが思い出せない。


とりあえず、コップ一杯の水を飲んだ。すると、スマホから着信がなった。


見てみると、9時から何件も着信とLINEがきていた。


身に覚えのないその連絡先に出てみると、さらに頭を痛くするような声で

「何時だと思ってるの!!プレゼン始まるわよ!!」

と言われた。

頭が痛いこともあり、まだぼーっとしている僕は、電話の相手に

「そもそも君は誰なんだ?」

と聞いた。


すると「頭おかしいんじゃないの?どうなっても知らないからね。とりあえず会社に来て!!」と言われた。


。。。 会社?


疑問に思った僕はもう一度彼女に

「会社?一体君は何のことを言ってるの?」

と聞いた。


すると呆れた声で

「株式会社ソノサキ 営業部 新規事業部リーダーの 林 大地 さんですよね!!」

と言われた。


あー、そうだった。。。

僕の名前は

「林 大地」

「株式会社ソノサキ 営業部 新規事業部のリーダー」だった。


つい忘れていた。


時は飛んで、29歳の夏のある日の朝。


僕はとある結婚式場でTシャツに短パンで椅子の上で寝ていた。


起きた時はびっくりした。なんで僕は結婚式場なんかで寝ているんだ?

こんなところで寝ていたら怒られる。

とりあえず会場を出なきゃと思い、受付の前を通り出口を目指した。


すると受付の前を通る僕に

受付人がにこやかに「おめでとうございます」と言ってきた。


???


結婚式場の受付人は見ず知らずの人にでも「おめでとう」と言うのか。

なんて心が暖かい人たちなんだと思った。


そんなことは置いておき、「ちなみに今日は誰の結婚式なんですか?」と聞いた。


すると、冗談はよしてくださいと言わんばかりの笑顔で


「林 大地 様 と林 優香 様 ですよ。」


あ、そうだった。今日は僕たちの結婚式だった。


つい忘れていた。


また時は飛んで、57歳の夏のある日。


また私は、結婚式の会場内で寝ていた。


いかん、いかん。早足で会場を出た。


受付の人に「すみません、疲れて寝ていましたわ。」と

一声かけて出て行こうとした時、

「娘さんの結婚式ですもんね。3時間も早く来るなんて張り切っちゃいましたね。」と言われた。


娘???


あー、そうだった。今日は私の最も大切な娘の結婚式だった。


つい忘れていた。


そして今日。


私の目の前で多くの人が私の顔を見て声をかけてくれている。


どうやら私の顔に何かがついているのかもしれない。


私はかぼそい声で「顔に何かついとるか?」と聞いた。


すると、子供を3人連れた女性は

「みんなおじいちゃんに会いにきたんだよ」と言った。


そうじゃった。間も無く、私は寿命で死ぬんじゃった。


つい忘れていた。


人生で多くのことを忘れたが、

それらを思い出すたびに、それは私にとって掛け替えのない宝物だと気づくんだ。


忘れることもまた、幸せを感じさせるものなのかもしれない。


時として、何かを忘れるあなたが

時として、何かを思い出すあなたに幸せを届けますように。


きみょうな僕の病気のはなし


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