1-72.72話「決戦ゾーン9999」

 ついにアノー号の長くて短い旅も終わりを迎える。

 『ジ・アニメ』vol.16(1981年3月号)によると、原題は「決戦・ゾーン9999-前-」となっており、山本優脚本によくある2話で前後編だったと思われる。それでは見ていこう。


72話「決戦ゾーン9999」 1981年2月15日


 脚本     :山本優

 演出     :渡部英雄

 作画監督   :松井栄


あらすじ


 航行中のアノー号が謎の放射線をキャッチした。スクリーンで見ると前方に黒い渦が広がっている。しかもそこから電波通信が発せられている。ダルフが翻訳機に掛けるとモニターの波形が人の形を取り、「イーレム通信、こちらアーカーシャ」と名乗って途絶えた。分析結果により黒い渦はブラックホールで、通信はその向こうから発せられてるようだと分かる。

 そこにアダムⅢが現れた。「直ちにイーレム通信の発信源を突き止めよ」と言うが様子がおかしい。今にも消えそうなのだ。ともかくバリーは指示通りファーストコンタクトを取るために船を進める。

 そのころ、ドクマ円盤もブラックホール近くに来ていた。前方のアステロイドベルトを進んでいると、突然毒魔殿そっくりの物体を発見する。毒魔大帝統が言うには彼らはドクマ星人の同胞で、我々を呼び寄せたのも彼らだという。

 突如、大帝統を取り巻く全ての反応計器が「9999」を示した。それは三つの恒星に囲まれたブラックホール地帯を指している。そして毒魔殿そっくりの戦艦から通信があった。ドクマ星系第三分類隊隊長のトロピーヌと名乗り、ドクマ円盤と合流したいというのだ。ドクマ円盤は戦艦の中に入っていった。

 戦艦内部に入ったエリアスたちは驚いた。かつての毒魔殿と同じ空間があったのだ。さらに出迎えたトロピーヌは髪型が違うがエリアスと顔立ちがうり二つだった。二人は先祖が同じで理想の混血のタイプとして作られたと言うトロピーヌ。彼女はクローン人間だった。

 トロピーヌは第一分類隊隊長である毒魔大帝統を丁重に出迎える。彼女らはプレアデス散開星団の惑星カナンに移住した第三分隊の子孫で、ビッグカタストロフから逃れようとしていたイクストローム星人の血を引くカナン人の移民船を追ってきたのだ。しかし、カナン人はイーレム通信をキャッチし、レベル4でブラックホールに飛び込んだため耐えきれず爆発した。ドクマ戦艦の疑似イクストロンではブラックホールに突入できず、ここにとどまっていたのだ。

 ブラックホールは別の宇宙への入口に違いないと見たトロピーヌは、レベル5の速度が出せるアノー号なら突破できると推測する。大帝統は、力を合わせてアノー号を奪うよう命ずる。

 レベル3で航行中のアノー号では、ポールがクローンスリープ装置の異変に気づいていた。呼びかけに応じて現れたアダムⅢは、生命維持装置が限界に来ていることを告げる。動揺する乗組員を「私亡き後も希望の火を保ち、頑張ってもらいたい」と励ますアダムⅢ。そして、クローンスリープ装置を人体に使うことを硬く禁止した。

 「不老不死は人間の愚かな夢。人は死を恐れるなかれ。与えられた命を終え、新しい命が生まれる。それが宇宙のリズム。決して逆らうな」

 次に会う時が最後になるだろうと予告して、アダムⅢは消えた。いつも冷静なバリーやサオリも、今度ばかりは動揺の色を隠せない。

 毒魔殿戦艦では、アステロイドベルト裏に全軍を配置し、アノー号捕獲の準備を整えていた。ドクマ円盤内で指揮を執るよう命じられるエリアスとトロピーヌ。当然サクシダーも続こうとするが、トロピーヌに「ならぬ」と切り捨てられる。カナンではサクシダーのような第4種タイプはとうに間引きされているというのだ。投獄を命じられたサクシダーは必死にエリアスや毒魔大帝統に命乞いをするが、大帝統は止めようとするエリアスを「トロピーヌに従え。ドクマ星人の限りなき発展のためだ、やむを得ん」と遮る。歯噛みするエリアス。

 投獄されたサクシダーを出迎えたのは、髪の毛がある以外はうり二つの男だった。サクシダーと共通の先祖からのクローン人間で、カナンではトロピーヌを始め、ドクマ星人の血を引く者はほとんどがクローンだという。トロピーヌはクローンスリープ装置を我が物顔で使い、人の命など何とも思っていない。牢の片隅には、クローン人の骨が積まれていた。ここから二度と生きて出られた者はいないという。サクシダーは自分に絶望の運命が待っていることをひしひしと感じていた。

 航行中のアノー号を突如衝撃が襲った。巨大なエネルギーの渦の中にいるようだ。ダルフの報告では反応座標が全て9999を示しているという。レベル3で急速反転したアノー号は危険地帯を離れたが、その先にはブラックホールが広がっている。

 バリーはブリッジにメイン乗組員を集め、「孤独との戦いよりは、我々はむしろ冒険を選ぼうと思う」と宣言する。ブラックホールに突入しようというのだ。「俺たちにはまだゴーディアンがある」とダイゴも乗り気だ。

 バックはピーチィとアニタを連れて偵察に出ると提案し、バリーも認める。ダイゴもクリントを連れて飛び出した。ゴーディアンにクリントが乗っかり出撃する。

 出撃したダイゴたちは、謎の信号をキャッチした。護衛ゾーンから離れてしまうが、気になったダイゴたちは確かめに向かう。突然ダイゴたちがレーダーから消えたアノー号は大慌て。後を追おうとするチェスターに、バリーは「5分待ってから」と制する。

 アステロイドの中でダイゴたちが見つけたのは、毒魔殿戦艦だった。待ち伏せていたクラフト円盤が襲ってくる。バックたちはアノー号に通信しようとするが繋がらない。ダイゴはピーチィとアニタにアノー号へ戻るよう命ずる。その時、戦艦から突如砲台がせり出し、砲撃した。光がアニタ機に命中する。光に包まれて消滅するアニタ。ダイゴは思わず叫んだ。

「アニターっ!」


解 説


 今回はカナン人の移民船がイーレム通信に導かれてブラックホールに突入するシーンから始まる。「カナン」は旧約聖書でイスラエル人に示された「約束の地」の名前である。

 トロピーヌの登場は唐突なようだが、71話でドクマ星人の名前が出ているので、残党が宇宙で活動しているという前振りだったと見て良いだろう。トロピーヌの声は吉田理保子だと思われる。

 そしてサクシダーの転落。新生編に入ってから株は下がる一方だったがまさかこんなことになろうとは。盟友だったエリアスの反応もトロピーヌとの良い対比になっている。

 サクシダーが牢獄で出会う同タイプクローン人の声は緒方賢一だろうか。北村弘一が一人二役しているのかと思ったが、声が被っているところがあるので無理がある。

 アダムⅢの台詞は、地球でジェロニモ17世に命と希望をつないだロゼたちに通じるものがある。しかしアノー号、圧倒的に男子が多そうだから心配だ。

 アノー号円盤、出撃した時は3機だったのにいつの間にか4機に。バックがキャノピーの遠景ではメカコン隊員服姿という分かりにくいミスも。

 今回初めてピーチィとアニタのパイロットスーツ姿が描かれるが、ピーチィーはピンク、アニタは青。色は男女別というわけではないのか、女子部隊の隊長だから色が違うのか。

 護衛役が全員アノー号を離れるのはうかつすぎる。連絡役を残すべきだったのでは。

 多くの視聴者にショックを与えたアニタの死。60話での山本優の描き方を見る限り、アニタは結局アウトサイダーを脱しきれなかったと見ていいのだろうか。

 次回予告は使い回しシーンが多く、不安が別の意味で高まる。だが泣いても笑っても次が最終回である。


 こぼれ話


 タイトル「ゾーン9999」の「9999」はどこから来たのか。企画書(序章2参照)によると、ゴーディアンの時代設定は「地球生成44億9999年」となっており、この「9999」が元ネタではないだろうか。

 唐突な感がある今回の展開だが、30話「プロジェクトXの秘密」で紹介した通り、山本優は『ジ・アニメ』Vol.6(1980年5月号) で『「個人」から「地域社会」へ、そして「広域世界」へ、さらに「宇宙」へ、最後に「X」まで』と語っている。これは成長によってダイゴの立ち位置が変わっていくことを現していると思われる。インタビューではこの時点で32話のシナリオまで出来ていたことが分かるので、延長がなくても最後はアノー号で宇宙へ行き、今回の話をする予定だったのかもしれない。

 「個人」しか考えられなかったダイゴがメカコンとして戦う中でヴィクトールタウンを守ることに目覚め、サントーレ隊として周辺タウンとの協力体制を築き、プロジェクトX遂行のために世界の人々を守って戦い、アノー号と共に新天地を求め宇宙へ飛び出し、ついに行き着く先はどこなのか。

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