1-12.12話「悲しみのロスシティ」

 「キャラが掴みづらい」とインタビューで嘆いていたダルフに、ついに主役回が巡ってきた。だが、山本優がそう簡単に主役回を作る訳がなかった。今後の伏線も地味に仕込んである。シナリオを参考に見ていこう。


12話 「悲しみのロスシティ」 1979年12月23日


 脚本     :山本優

 演出     :古川順康

 作画監督   :村中博美


あらすじ


 食糧難の中、ダルフが食料庫から缶詰を盗んだと聞いてダイゴはカンカン。集まる隊員たちを物陰から見つめるメガネ姿の隊員、アレン・ダレンがいる。

 ピーチィーはダルフが故郷のロスシティに母親ときょうだいたちを残していることを知っており、何か事情があったのではないかとかばう。だがダイゴが相部屋に戻った時には部屋はもぬけの殻。クリントが物陰から見つけてきたダルフの家族写真だけが残されていた。ダルフがメカコンを除隊して空港に向かったことをアレンから聞いたダイゴは、ゴーディアンで追いかけようとサントーレに向かう。それを影から見てほくそ笑む隊員が一人。

 その頃、毒魔殿ではメカコンに潜ませたスパイの報告を受けたバラスたちが、毒魔黙示録183ページを開き、ロスシティにメカコンの武器を作る石綿工場があることを突き止めていた。バラスはハリネズミ型メカ・ハリコーンを出撃させるようバルバダスに命ずる。

 一方、ロスシティに到着したダルフはメカコンの工場に資料を渡す。クビになったというのはバリーたちに頼まれた極秘任務のための嘘だったのだ。一年半ぶりに家族と再会したダルフは皆に編み物のお土産を渡し、夕食の席を囲んでいた。そこにマドクターが襲ってきたのだ。

 ダイゴがサントーレでロスシティの場所を探しているところに、マドクターメカの反応が現れた。その行く手にはロスシティの文字が。慌てて出撃したダイゴだが、到着したロスシティは既に火の海。バルバダスはハリコーンをゴーディアンに差し向ける。ハリコーンと戦うゴーディアンは、ガービンの両耳を取り外して合体させ、槍状の武器「マイティボー(仮)」(シナリオより)にしてハリコーンに突き刺し撃退する。だが、ダルフを見つけることは出来なかった。

 ヴィクトールタウンに戻ったダイゴは他の隊員たちと共に、バリーが極秘任務でダルフをロスシティに向かわせたことを告白される。耐えきれずくずおれたアレンが、缶詰を盗んだのは自分だと白状する。ダルフは彼をかばっていたのだ。そこに、ジープに乗ったダルフが戻ってきた。生き延びていたことに喜ぶダイゴたちだが、ダルフは母のセーターの切れ端を見せ、一家全滅したことを伝える。マドクターへの怒りを新たにするダルフとダイゴだった。


解 説


 今回はメカコンの兵站部分に焦点を当てた話。食糧事情は厳しいが、この世界には飛行機や化学工場などの維持をできる程度のインフラは残っていることが分かる。

 原題は「哀しみのロス・シティ」。シナリオでは冒頭、ダルフが他の隊員たちに痛めつけられているところにダイゴが割って入る。ピーチィーの語るダルフの事情はかなり細かく、バリーにお金を借りていることなども知っている。その上で自分からお金を渡すのは嫌味だからとダイゴに頼み、相部屋でのシーンへとつながる。

 メカコンのコック長はこの後も食堂のシーンで何度か出番がある。

 本編ではダルフの乗った飛行機の離陸する真下にホバーで突進するダイゴだが、シナリオではそんな無茶なことはしていない。ゴーディアン世界でジャンボジェット機が登場するのは初めて。

 毒魔黙示録、シナリオでは183ページ23項。今回も毒魔大帝統が「太陽のすかし」とアドリブで入れている。もしかするとこのせいで尺が足りなくて細かい項目は毎回省かれているのかも。

 シナリオではバルバダス出撃でAパート終了。ダルフ帰郷からBパート。

 ダルフの家族構成はシナリオによると母マーサー(45)姉サーニャ(23)妹クーニャ(16)弟ビゴ(10)妹チーニャ(3)。本編ではビゴはヒコ、チーニャだと思われるジーニーはヒコより背が高く13歳くらいに描かれている。

 真犯人のメガネ隊員アレンの声は福士秀樹と思われる。アレンがなぜ缶詰を盗んだかは説明がないが、シナリオでは他の隊で食料をヤミ商人に流す事件があったとピーチィーが語っている。アレンはこの後もモブ隊員として何度か映るが、汚名返上の機会は訪れなかった。個人的にはもっと活躍させて欲しかった。

 編み物を家族にあげるダルフのシーンはシナリオにはなく、絵コンテ以降の追加と思われる。ラスト、本編では母にあげたセーターの切れ端を見せるダルフだが、シナリオでは自宅の木の小枝を持ち、「おらの家で残ったのはこの小枝一本だけ」と語る。ダルフのキャラ立てのためにも変更して正解だったと思う。それにしても、ダルフが部屋に残していった家族写真が形見となってしまうとは切ない。

 今回の作画はゴーディアン初参加の村中博美が一人原画で気を吐いている。ハリコーンのトゲミサイル等、細かい所にも手を抜いていない。

 「マイティボー(仮)」だが、耳をつけて武器にするという登場シーンはシナリオにはない。後に「マイティライボー」と正式名称が付く。

 今回、ほのぼのなシーンのBGMと深刻なシーンのBGMの落差が激しいのが悲惨さを強調している。

 なお、スパイと思われるメカコン隊員の伏線が回収されるのはしばらく先である。

 次回予告、本編を知っていると見せ場を流しすぎな気がする。もちろん使い回しよりは大歓迎。


 今回の名言

「家にはお金はなくたって倖せはひとにわけてあげたいほどよ」(サーニャ)


こぼれ話


 この記事執筆の参考にしている銀河出版「スーパーロボットマテリアル3」では、ハリコーンがアリコーンと誤記されている。


 『ジ・アニメ』Vol.3(1980年2月号)では、山本優に今後の展開を聞く特集記事が掲載されている。収録時期は1クール終了頃。タツノコのムックやロボットアニメ図鑑で後に掲載されることになるゴーディアン三体の重なった内部透視図や、三体の躍動するカラーカットもある。

 ゴーディアンのストーリーには謎が多いというインタビュアーに山本優は、「視聴者に、謎や疑問に持って貰い謎解きの面白さを楽しんで貰う」のが狙いだと答えている。これはメイン視聴者の幼児向けではなく、アニメファン向けの楽しみということだろう。また、「20話をひとつのくぎりとして、ほぼ物語の全貌が明らかになります」と予告している。

 謎を解くヒントとなるのが本編でも登場する「太陽のすかし」「プロジェクトX」というキーワード。「(ヴィクトールタウンの)秘密を隠してある場所がサントーレ、それを解く鍵が"太陽のすかし"と"プロジェクトX"なわけです。"プロジェクトX"は、ある時間経過が必要なもので、父のコンピューターはその時間を計算しているとだけ、お教えしときましょう」と語っているが、その後のストーリーを考えるとこの内容は少し変更されていると私は考える。

 なお、マドクターはなぜヴィクトールタウンを一気に攻撃しないのかという質問には、「一気に攻めて破壊してしまったら元も子もなくなってしまう。まず、その(プロジェクトXの)秘密を確かめることが、現在のマドクターの狙いなのです」と答えている。

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