「さよなら、屋上。」

都稀乃 泪

第1話 学校が休校になった①(ヒヨリ視点)

「ひより」


 母の驚きが入り交じった声がヒヨリの鼓膜を震わせた。


「今日、学校休みになったみたいよ」


 ヒヨリの口いっぱいに詰め込まれた炊き込みご飯が食道を堰き止めた。

 慌てて味噌汁を流し込み、務めて冷静を装って言った。


「そう」


 今日は特に台風が来る恐れがあるという訳でもない。何故学校が休みになったのか・・・・・・いや、関係の無いことだ。


「えー!俺は?俺は?」


「何も連絡来てないわね」


 弟のほんの少しの希望は呆気なく打ち砕かれた。

 食器を下げながら、まもなくやってくる大会のことにヒヨリは思いを馳せていた。


 今日は折角時間ができたのだから、台本の暗記を更に完璧にしておこう、と予定を立てたが、それは父の一言によってかき消された。


「学校が休みになったのだから、普段学校に行っている時間分勉強しなさい」


 新聞片手にコーヒーを啜る父はぶっきらぼうに言い放った。


「そうねえ・・・・・・」


 母に見張られるのはごめんだ。教科書やワークはカバンに入っている。


「えー!姉ちゃんだけずるい!」


 そんな弟の声を背中に受けながら、チャリの鍵を取って家を後にした。

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