第2話

  


   二 奇跡


 


 二〇〇〇年


 福岡県久山町


 高橋陸(一六歳)父親、義男と母親、小百合に一人息子の為か過保護に育てられダメ息子に成長。


 何をやっても長続きせず、高校に入っても、部活にも入らず帰宅部。


 取り敢えず高校だけは親からのお願いで仕方なく行っていた。


 陸の高校は野球やスポーツで名門校だが誰でも入れる大明学園だった。


 しかし、陸は学校の運動会や体育の授業で適当にやっていたが身体能力が凄まじく周りのサッカーや野球などの特待生組を寄せ付けない位の存在だった。


 部活の誘いはあったが全てお断り!


 学校が終われば親から、おねだりして買ってもらった四〇〇ccのバイクを乗り回す日々だった。


 唯一の陸の理解者はバイクで一人旅のツーリングで出会った、加藤明美(一七歳)陸より一つ年上のボーイッシュな彼女。


 七五〇ccで陸より大きい排気量のバイクを乗っている。


 大型自動二輪の免許からバイク代まで自分でバイトし稼いでいる。


 学校とバイトの忙しい時間を過ごしても友達に会ったり、陸と会ったりと充実した、学生生活を満喫していた。


 陸は明美から毎回、人生の説教ばかりされウンザリだが、しかし明美ならどんな、馬鹿な事でも話せる。


 決まって、その後は説教が待っているが…


 明美は隣の街の高校に通っていて友達も多くリーダー的な存在だ。


 陸とは全く性格が違うが陸の気持ち、淋しさを明美は、なんとなく感じていた。


 陸は彼女とバイクだけがあればいい。 


 友達なんて必要ない!が陸の口癖だ。   


 両親は陸の育て方を間違えていたと思いつつも友達のいない陸を心配し過保護が辞められない。


 だから明美の存在に両親は助けられていた。


 義男は物心ついた時から父親が戦争で他界した為、親の姿や愛情が解らないでいた。


 そして、ある日、警察から電話があった。


 


「高橋陸君の御両親ですか? バイクで転倒して大倉病院に運ばれてます。


 現在、意識も無く危ない状態です。」


 慌てて義男と小百合はタクシーを呼び大倉病院に向かった。


 明美はICUの前に立っていた。


「すみません…私、陸君と一緒にいました。」


 小百合は、「あなたが付いていながら…」


 と目をそらした。


 陸はICUに入ったまま意識が戻らず、医師からは、


 「どうにか命の危機は脱しましたが、意識が戻る可能性は、解りません…。」 と言われた。


 三人は無言のまま時間が過ぎ、沈黙が続いた。


 すると、小百合が明美に、


「何で明美さんは陸が好きなの?…いい加減でやる気もないし、親の私達でも理解不能なのに…」


「確かに陸は、チャランポランだけど、誰の悪口も言わない素直な所が好きなんです。 すみません…」


「私ね、ずっと共働きで、五年前に亡くなった、おばあちゃんに陸の事を任せてね、おばあちゃんには大変、助けられたわ…私達は陸が欲しい物があれば、何でも、


 お金で解決してた気がする。」


 三人はずっと陸の意識が戻る事を信じて待ち続けた。


 陸は集中治療室で病状を監視しながら一週間が過ぎ、


 そして、一一月二日…


 小百合は窓の外を覗き、秋の寂しさで看病疲れでを感じていた。


 その時、窓の外で、激しい強風が吹きあれ小鳥が一斉に飛びたった。


 窓ガラスも揺れ爆風を感じる感覚で、陸の体が揺れ始めた。


 陸の横に座っていた明美が慌ててナースコールを呼んで、小百合が陸の手を強く握った。


 陸は小百合に応えるように、弱い力だったが握り返して来た。


 強風は止み窓から赤い光が陸に差し込んだ。


 陸の目が徐々に開いて周りを、ゆっくりと見回した。


「陸、お母さんだよ。お父さんも明美さんも居るよ!」


 義男と小百合は喜びを抑えきれず、陸を抱きしめた。


 担当医の鬼塚先生がやって来て、脈を測り、


「陸君、意識が戻りましたよ。もう、大丈夫です。」


 と信じられない感じで喜びを伝えた。


 明美も溢れ出る涙を拭きながら奇跡を喜びあった。


 


 

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