後日録―スゥーリの花の分析
これは松平空也による、スゥーリの花に関する備忘録である。
スゥーリの花は、ハーベスト大陸外に存在する、火の国の原生種である。
白く可憐な花びらをしており、見た目はスイレンに近い。花を咲かせ、種子を作る。茎で維管束が散在しており、単子葉に似た形状をしているため、単子葉類と分類する。根っこはひげ根状。
(茎を観測すると、道管には黄色い成分が浸透しており、それを採集して観察したところ、硫黄のような成分だと判明。にわかに信じられないが、どうやら硫黄を選んで吸収する構造があるらしい)
花粉の形状から察するに、これらは陸生でありながら水流を媒介にして受粉を行う、いわゆる水媒花であるということが判明した。
試しに水槽に花を沈め、受粉を行えたことから、恐らくは間違いない。
だが、植物としては欠陥だろう。
(陸生植物である以上、花が水に触れる機会がない)
恐らく、極めて限定的な環境でしか生息できない花である。
生息地の人間に話を聞くと、頻繁に洪水が起きる立地でしか生えないらしい。
真紅協力の元、人工栽培に成功している。
花弁に関して研究を重ねると、やはりというべきか、毒性を有していた。
これらを抽出。さまざまな試薬と検証を重ねると、花弁の芯には混酸が含有されていると結論付けざるを得ない。
自生する花が自衛するために毒を持つことはよく知らせるが、混酸を持つ植物というのは聞いた例がない。この世界では、存在するのか要調査が必要である。
この混酸の性質は、以前、取り寄せた聖油にひどく酷似している。
聖油は、恐らく硫酸と硝酸を化合したものであると推測できるが、それをこの花は自生しているだけで生成してしまうのである。
これらから抽出し、処理して布にしみ込ませたものは、完全なニトロセルロースである。無煙爆薬として利用はできる上に、これを加工すれば完全なニトログリセリンまで生成することが可能である。
使用法次第では、凄まじい爆薬と化す。要注意すべき素材だ。
その一方で、中心の花粉からはアオカビの一種を採集することができた。
厳密にはアオカビではなさそうだが、花粉から遠心分離で切り離し、培養したところ、通常のアオカビよりも強い抗生物質が作れることが判明した。
(真紅曰く、アレロケミカル――アロモンが強いとか)
これらを培養し、新ペニシリンとすることで、さらに強い抗生物質を生成できるのではないかと推測する。
これらの研究成果を上げる一方、栽培方法によってスゥーリの花は花弁の色を変えることが分かった。
水分の多い土壌に生えるが、それだけでは白い花弁にはならない。どちらかというと、青っぽい色合いになってしまう。
この土に硫黄を混ぜることで初めて、透き通るような白に変わる。
それでも、火の国で採集されたものとは色の透明度が違う。
他の成分での組合せで色が変わるのではないか、と研究を重ねている。
この結果から副次的に判明したことだが、恐らく火の国の土壌は火山帯である、という推測が成り立つ。古来より鉱山に生える花は特殊なものも多く、そこでしか生えない草花もあるほどだ。
だが、話に聞くと、このスゥーリの花は元々、水の国に自生していたものであるらしい……名前から聞くと、火山とは無縁そうだが。
地質学的に非常に興味をそそる研究である。
今後も、スゥーリの花を通じて、さまざまな研究を続けていきたい。
※松平空也は、地球から転移してきた『異世界人』です。
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