第197話 運動はすべてを解決する……らしい
海沿いの道を歩く。
なんとなく海が見たくなったから。
たまにあるよね、そういうこと。
ただ今日は珍しく、ひとりだと寂しく思ったので人を連れてきた。
ひまわりちゃんだ。
一応他の子も声をかけたんだけど、偶然にもみんな用事があったみたいでひまわりちゃんだけになった。
まあ、ふたり旅もいいものですよ。
「ひまわりちゃん、海きれいだね」
「そうですね~」
海をみたいという、あまり興味がないかもしれないことに付き合わせてしまっている。
でも海と青空って元気もらえるじゃない?
夏になれば水遊びもできるってものだけど、私は見てるだけでも好きなんだ。
海とともに生きる少女、それが私。
海を見ながら走ったり自転車に乗ったりするのは気持ちいいもんね。
「なずなさん、何かありました?」
「え? どうして?」
「いや、突然海を見たいなんて……。なんか心を病んだ人がやりそうだなって」
「失礼な。私は何でもないよ?」
海を見るのが好きな人なんてたくさんいると思う。
その人たちがみんな心を病んでるなんて、そんなわけない。
「ひまわりちゃん、夏になったら水着見せてね?」
「何ですか突然。別にいいですけど」
いいんだ。
さすがひまわりちゃんだ。
ぎゅ~っとしておこう。
「ひゃわ~! なんですか~?」
「いや~、かわいいなぁって思って」
「かわいいのはなずなさんの方ですよ」
「何言ってるの、私なんてただのゴミだよ」
「自己肯定感どこへやったんですか!?」
そんなもの、私にあったことなどないのではないだろうか。
……あれ、やっぱり病んでる?
「も~、とりあえずどこかへ遊びに行きましょう!」
「お~、いいね~」
「どこか行きたいところありますか?」
「家かな」
「出かけてない!?」
あう~、お家に帰りたいよ~。
なんでこんなに元気ないのだろうか。
自分でもわからない。
「なずなさん! こういう時は運動が大事なんですよ!」
「運動?」
「運動をすれば気持ちも明るくなるんです!」
「そんな、筋肉はすべてを解決するみたいな話……」
「前になずなさんも言ってましたけどね」
「今はそんな気分じゃないよ~」
「やっぱり沈んでるじゃないですか!」
「ず~ん」
「とりあえず走りますよ!」
「え~、遊ぶんじゃないの~?」
そしてなぜか私たちは走ることになった。
「30分は走ると良いそうです」
「それはどこ情報なの?」
「動画で見ました」
「……」
うん。
なんかそういう系の動画チャンネルあるよね。
小学生が見てるものなんだ……。
見るだけじゃなくて、ちゃんと行動に移すなんてひまわりちゃん偉い。
それにしても体が重い。
これしきのことで私がへばるわけがないのだけど。
やはり何か異常があるのかもしれない。
「大丈夫ですか? なずなさん」
「ぶひ~! もう走れないよ~」
「どこかの豚さんみたいなこと言わないでください!」
「ぶひぃ~……」
とりあえず走るか。
そうやって頑張って走っていると、だんだん体がいつもの軽さを取り戻してきた。
不思議なもので、疲れて重くなるのではなく、何かがスッキリと消えていく感覚。
どこまでも、どこまでも走っていける気がする。
ひゃっほ~!!
「今の私は風のように軽い」
「なずなさん!? どうしたんですか突然!」
「あはははは」
「壊れた!?」
そのまま私たちは30分ほど走り続け、たまたま見かけた神社の中で休憩することにした。
適当に走ってしまったから戻るのも大変だ。
ひまわりちゃんには悪いことしたなぁ。
「ふぅ、すっきり」
「そ、それは良かったです」
「ありがとね、ひまわりちゃん」
「いえ、私にとってなずなさんの幸せがすべてですから」
……なかなかに重い愛だ。
嬉しいけど。
「そこにスーパーが見えるし、スポーツドリンクでも買ってくるよ」
「お願いします~」
体絶好調の私は、さっとスーパーへ行って飲み物を調達。
すぐに戻ってくると、ひまわりちゃんのそばに誰かがいた。
巫女服を着てる。
ま、まさか……。
いや、あの人ならありえる。
駆けつけてみると、やっぱりそうだった。
「なんでこんなところにいるんですか、みこさん」
「ふふふ、こんにちはなずなさん。ちょっとした用事ですよ」
「そうでしたか」
こんなところまでなんの用事なんだろう。
いや、もしかしたらここではなく私たちに用事という可能性もある。
どこにでも現れるからなぁ、この方。
みこさんはニコニコとしながら私のそばに近づいてくる。
しかし、次の瞬間には驚いた表情へと変わった。
そして恐ろしい一言を放つ。
「なっ、私の呪いが解かれている!?」
「……今なんと?」
呪いとか意味の分からない単語が聞こえたんだけど。
「運動はすべてを解決する」
「誤魔化さないでください」
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