第191話 どら焼きのある放課後の同好会
今日も同好会の部室へと顔を出す。
彩香ちゃんとともに教室を出てそのままふたりでむかった。
今日は渋いお茶の気分。
何をしに来てるんだって話だけどね。
「緑茶がいいよね」
「淹れてあげるわ」
「いいの? ありがと~」
彩香ちゃんはやさしいなぁ。
お茶を淹れてもらっている間に、棚をあさって小さな羊羹を発見する。
なんでもあるんだよね~。
彩香ちゃんからお茶を受け取り、羊羹を用意して席に着く。
一口飲んで、口の中に広がっていく苦い味。
「う~ん、美味」
「そう」
「彩香ちゃんの淹れてくれたものは、いつもよりおいしい」
「気のせいよ」
「気持ちが大切なんだよきっと」
「そう? それなら白河さんが用意してくれた羊羹も、いつもよりおいしいわ」
「それこそ気のせいだよ。だって何もしてないから」
お茶と違ってお皿に乗せただけだからね。
ふたりしてまったりしていると、そこに茜ちゃんがやってくる。
「やっほ~」
「やっほ~」
「今日は緑茶なんだね~」
私たちは大体コーヒーだからね。
後はココアとか。
「はいどうぞ」
「ありがと~」
彩香ちゃんが用意していたお茶を茜ちゃんの前に出す。
私も羊羹を添える。
ずずずっとお茶をすすり、羊羹をいただく。
グラウンドには夢にむかって汗を流すクラスメイトたちがいるというのに。
私たちはその間に何をしているんだろう。
突然そんな思考に飲まれそうになったけど、でも今が幸せなのでまあいっかと思い直した。
「そういえば彩香ちゃん、この前愛花ちゃんとお出かけしたんでしょ?」
「そうなのよ。愛花ちゃんはやぱり天使だったわ」
「柑奈ちゃんとひまわりちゃんも天使だったよ」
やはり妹たちは天使なのである。
お互いエンジョイできていたようでなにより。
「なずなもなかなか珍しい格好してたんだよね~」
「あはは、ちょっとね~」
……。
なぜ知っている。
まさかあの場にいたのだろうか。
いや、いたら私なら気付くに違いない。
でも最近の茜ちゃんは隠密スキルが上がっているからわからないかも。
「柑奈ちゃんからこんな素敵な写真が送られてきたんだよね」
「きゃ~!?」
そうか、柑奈ちゃんか。
よ~し、帰ったらお仕置きだ~。
「茜ちゃんもこういう服着ようね」
「え、嫌だけど」
「まあまあ、とりあえず着てみようね」
「怖いよなずな」
ふふふ、自分だけ何も失わずにいられると思わないでね?
「そういえば浜ノ宮さん、来てないね」
茜ちゃんが話をそらすようにそんなことを言った。
確かにいつもならとっくに来てるタイミングだ。
もしかして今日は用事で来ないのだろうか。
それなら連絡くらい来ていそうだけど。
「遅くなりました~」
「あ、珊瑚ちゃん」
ちょうどそんなタイミングで珊瑚ちゃんが部室へと入ってきた。
その手には何か紙袋が握られている。
「それは?」
「ちょうどここに来る途中で、なぜかみこさんと出会いまして」
「本当になぜ」
あの人、本当にどこにでも出てくるなぁ。
それなら私にも会いに来て欲しいものだ。
「それでお菓子を頂きました」
「なんか怖いんだけど」
とはいえ、お菓子は嬉しい。
みこさんのくれる和菓子はどれも特別おいしいからね。
今度会ったらお礼を言っておかないと。
「羊羹食べちゃってるけど、こっちも頂こうか」
「そうしましょう」
私たちはお茶を淹れ直し、みこさんのお菓子を開ける。
紙袋の中はどら焼きだった。
最高です!
それにこのどら焼きは。
「これは関西ナンバーワンと呼ばれる6つのどら焼きのうちの1つだ!」
「なんか日本語おかしいけど、すごくいい物なのね」
割とよく聞くフレーズにツッコむ彩香ちゃん。
まあそれはいいとして、とても良い物だとは思うので再度みこさんに感謝する。
そしてそんな素敵などら焼きを私たちは一口頂く。
「こ、これは!?」
生地に蜂蜜が入っているのではないだろうか。
多分そうだろう。
そして餡の中には栗の姿が。
栗どらだ~!
美味です。
甘いどら焼きと渋い緑茶を交互に味わう。
ただの放課後が思いがけず特別な時間となった。
……何をしてるんだろう私たち。
「あ、そういえばなずなさんにはもうひとつ預かったものがありますよ」
珊瑚ちゃんが小さな箱を私の前に置いた。
こちらも和菓子だろうか。
そして何か紙がはさまっている。
「手紙かな」
幸せ気分だった私は、何の警戒もなくその手紙を手に取って開いた。
『今、あなたの後ろにいるの』
「怖っ!!」
そして後ろを振りむくと、そこには笑顔のみこさんの姿があったのだった。
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