第190話 ショッピングモールと妖精さん

 休日。

 お馴染みのショッピングモールを目的もなくぶらぶらする私。

 何か素敵な出会いがあったりしないだろうか。


 そんな期待を胸に歩いているが、誰にも出会わない。

 うむむ、今日はいつもと違うなぁ。

 いつもなら探してなくても出会うのに。


 とりあえず本屋にでも行って面白そうな本を見つけようかな。

 そして良いものを見つけたら後から電子書籍で買うスタイル。


 家電量販店で実物見てからネットで買うのと同じだ。

 お店からすると嫌なやつだよね。

 でもやめな~い。


 さてさて、私の大好きな経済関係の本でも探すか~(嘘)

 あ、この本の帯の人、どこかで見たことあるなぁ。


 きっと動画投稿サイトのトップページにでもよくいる人だろう。

 私が見たことある有名人なんてそれくらいしかいない。


 なんとなく気まぐれにその本を取ろうと手を伸ばす。

 そこで偶然、別の人の手が重なった。


「あ、すみません」

「いえ、こちらこそ」


 相手の方を見てみると、同い年くらいのおとなしそうな女の子だった。

 いかにも本が大好きですって感じの子でとてもそそられる。


 ……じゃなかった、かわいいと思いました。


「あ、これどうぞ」


 私はもう一度取ろうとしていた本に手を伸ばし、その少女に手渡した。


「え、いいんですか? 最後の1冊みたいですけど……」

「はい。私は電子書籍派なので買うわけじゃないですし。それに自分でもなんで手を伸ばしたのかわからないんです」


「そうなんですか?」

「はい。でも、もしかしたら」


「?」

「あなたとお知り合いになるための、神様のお導きかもしれませんね」


「ふぇ!?」


 私が決め台詞のように言うと、女の子はめちゃくちゃ驚いた表情を見せる。

 我ながらよく何も考えずにこんな言葉が出てくるものである。

 自分でもびっくりだよ。


「どうですか? 良ければお茶でも……」

「ごめんなさ~い!!」


 女の子は私に本を握らせると、逃げるように去っていった。

 なぜだ。


 いや待て。

 自分の言葉を思い出せ。


 もしかしたら宗教の勧誘だと思われた可能性があるぞ。

 失敗した~。


 仕方ない、今日はもう帰ってマンガでも読むか~。

 私は本屋さんを出て、ショッピングモールの出入口へとむかって歩く。


 その時、どこからか甘い香りがして誘われるように方向転換。

 私がむかった先には花の妖精さんがいた。


「柑奈ちゃん!」

「え、姉さん?」


 妖精さんの正体は、我が愛しの妹柑奈ちゃんだった。


「ひとり?」

「ううん、ひまわりちゃんも一緒」


「そっか」

「愛花ちゃんも誘ったけど、今日はお姉さんとお出かけだって」


「ほほう」


 それは邪魔しちゃ悪いね~。


「そういえばひまわりちゃんはどこに?」

「ここで~す」

「うん?」


 どこからかひまわりちゃんの声がする。

 しかし姿は見えない。


「この中だよ」


 どうやら服を試着しているようだ。

 いつの間にか服屋さんにいたのか私。


「ひまわりちゃん、入っていい?」

「ダメに決まってるじゃないですか!?」

「ちぇ~」


 残念である。

 しばらくすると、試着室のカーテンが開く。


「どうですか?」

「天使……」


 なんかいろいろヒラヒラしていて、なんだか天使の羽根まで見える。

 私の幻覚ではあるんだけど。


「柑奈ちゃんは着ないの?」


 半分私の願望混じりに聞いてみる。


「着ないよ。そんな恥ずかしい服、私には似合わないから」

「恥ずかしい服!?」


 柑奈ちゃんの何気ない一言に、ひまわりちゃんはショックを受けていた。

 まあ、確かにこんなにフリルだらけだとちょっと恥ずかしく思う子もいるよね。


「似合うと思うんだけどなぁ」

「私はいいの。姉さんだってあんまり服に興味ないでしょ」


「あるある! これも着て欲しいし、あれも着て欲しいし」

「姉さんが着る方だよ」


「……あんまり興味ないね」

「でしょ?」


 興味0ではないにしても、私はやはり見る方がいい。

 自分を飾ったところで私は得しないし。


「姉さんはぶかぶかのシャツにパンツ1枚だもんね」

「そこまでひどいのはたまにだよ」


 私だって一応その姿はダメだって思ってるからね。


「まあ、ぶかぶかのパーカー1着あれば生きていけるとは思ってる」

「ダメすぎだよ……。そういうのは私とふたりきりの時しかしちゃダメだからね」

「え~」


 楽なのになぁ。


「大和撫子、目指すんじゃなかったの?」

「うっ、確かに」


 それを言われるとつらい。

 パーカー・パン1の大和撫子などおるわけがないでおじゃる。


「というわけで、これにチャレンジ」

「くっ、試しに着てみるか……」


 私は柑奈ちゃんから手渡された、到底私が着そうにない服を抱えて試着室に入る。

 うまく乗せられた気がしないこともない。


 着替えながら鏡を見る。

 ……似合わねぇ。


 ちょっと言葉遣いが悪くなるほどに似合ってない。

 それは普段このような服を着ないからだろうか。


 大体制服かパーカーな私にこんな妖精みたいな服って……。

 いや、これでも今ひまわりちゃんが試着している服に比べたら大分マシ。


 とりあえず見てもらうか……。

 カーテンオープン!


「ど、どうかな?」


 見せた瞬間、ふたりはすごい顔をして固まった。

 やっぱりダメか。

 こんな清楚系ロングスカートな服装、私らしくない。


「うぅ……なんか恥ずかしくなってきた」


 私が羞恥心でもじもじしていると、固まっていたひまわりちゃんがつぶやく。


「……姫」


 そしてそのまま倒れていった。


「ひまわりちゃ~ん!?」

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