第171話 いつもと違う海、おかしな少女

 この前のとある事件解決後。

 ちょっと疲れてしまった私は、いつもはこないようなところで海を眺めていた。


 むこうの方でクレーンを使って積みこまれていくコンテナをボーっと見ていると、ちょっとだけ心が癒されていく。

 ……相当疲れているようだ。


「大変でしたね」

「ええ、まあ」


 私の隣で同じように海を眺めるみこさん。

 ……なぜいる。


「まあ、長い人生ですから、これから何度も同じようなこと起きますよ。気にしないことです」

「嫌なこと言わないでくださいよ……」


 あんなこと何度も起こったら心が壊れるよ。

 はあ、こんな時は海を眺めて、それからかわいい女の子と戯れるに限る。


「おや、移動ですか?」

「そうですね。女子小学生がいそうなところに行こうかと」

「さすがなずなさん。素敵ですね」


 よせやい、照れるぜ。


「一緒に行きます?」

「ええ、お供させていただきます」


 さすがみこさん、ノリがいい。

 一緒にいると元気が出てくるね。

 というわけで、私たちはこのまま海沿いのお散歩道を移動し、近くにある公園へとむかった。


 最近整備されたのか、とても綺麗で気持ちのいい公園だ。

 ほんのりとお花の香りもする幸せな場所。


 そんな場所で、さっきの私みたいにぼーっと海を眺める小さな少女を見つけた。

 小学校低学年あたりか。

 幼き黒髪ロングにワンピース姿。


 好きだ。

 ふっふっふ。

 ターゲットは君に決めた!


 私はなぜか気付かれないようにこっそりとひっそりと女の子に近づいていく。

 見る人によっては不審者に見えるかもしれないな。


「……なずなさんはいったい何をするおつもりで?」

「あの女の子に声をかけようと思って」


「やめておいた方が良いのではありませんか? 勘違いされてしまっては大変ですよ?」

「え~」


 でも確かにここは家から遠いし、めぐりさんや珊瑚ちゃんの力が及ばない可能性がある。

 あるというか、それが当たり前だ。


 黙ってここに来ているのに、もし珊瑚ちゃんが助けてくれたらそれこそ逆に怖い。

 もしかしたら衛星で監視されている可能性すらある。

 くっ、ここはおとなしく退くか。


「じ~」

「わっ、びっくりした」


 いつの間にか隣にいて、私を見上げる少女。

 それはさっき私がターゲットにした少女だった。

 まさかむこうから接触してくるとは……。


「じ~」

「えっと、どうかした?」


 そんなに見つめられると照れるなぁ。


「あそぼ~」

「え?」


 なんとむこうからお誘いだと?

 これなら本人同意の上でイチャイチャできるというものではないか!


「何して遊ぶの?」

「えっとね~」


 女の子はあごに人差し指をおいて考える仕草をする。

 ふふふ、かわいいなぁ。


 鬼ごっことかかくれんぼかな?

 それともゲームだったり?


「スカートめくり!」

「そっか、スカー……。え?」


 なんですって?

 スカートめくり?


 とてもこの目の前にいる幼き少女の口から出た台詞とは思えない。

 だがしかし、事実なのだ。


 これなら本人同意の上でスカートをめくることができる。

 なんということでしょう。

 素晴らしい。


 だが、そんなことをすれば私は社会的に死ぬだろう。

 いくら私が女子高生とはいえ、そんなことが許されるわけがない。

 試されている、試されているぞ私!


「スカートめくりか~。やめとこうね~」

「え~」


 不満そうな少女。

 なんだこの子、将来有望か。


「他にやりたいことはないの?」

「えっとね~」


 またあの仕草をする少女。

 かわいい。


「野球拳! じゃんけんで脱ぐやつ!」

「やる! ……わけにはいかないんだな~、これが」


 あっぶね~。

 社会的に死ぬところだったわ!


 落ち着くんだ私。

 心の声が大和撫子にあるまじきひどいものになっている。


 ふぅ~。

 おほほほほ。

 私は大和撫子。


「かくれんぼとかじゃダメ?」

「え~? そんなのガキのする遊びだよ~」


 いや、おめえガキだろうが!

 なんて、小さいころに何かのアニメで聞いたようなツッコミをしてしまった。


 落ち着こう、私は大和撫子。

 世界の混沌を統べる者(意味不明)


「とりあえず海でも眺めてようか」

「うん」


 私は少女と遊ぶのを諦め、おとなしく海を眺めることにした。

 ベンチに並んで座ってぼーっとする。

 まあ、悪くない時間だ。


「じ~」


 しかし、何か視線を感じる。

 見れば少女は海ではなくこちらを見ていらっしゃる。

 何か用なのだろうか。


「どうかしたの?」

「おっきいね」


「おっきい? 海のこと?」

「これ!」


 そう言って少女は、突然私の胸を両手でつかんだ。


「キャアアアアア!!」


 私は悲鳴をあげながらベンチから退避した。

 くっ、私のしたことが油断したよ。


「ううっ、もうお嫁にいけない……」


 わざとらしく泣き崩れる私。

 その隣にそっと寄り添うみこさん。

 ……すみません、ちょっといること忘れてました。


「大丈夫ですよ、お嫁にいけないならもらえば良いのです」

「……」


 なるほど、それもそうか。

 さすがみこさん。

 私の未来を明るく照らしてくださる。


「とりあえずこれでも食べて元気出してください」

「ありがとうございます」


 そう言って手渡されたのは、いつもの栗饅頭ではなく桜餅。

 さらに持ち運びのハードルが上がっている気がするが、どこから出てきたのだろうか。


 まあ、いただきます。

 ……。


 うん、おいしい。

 もちもちだ。

 ……。


 あれれ~?

 目が回ってきたぞ~?

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