第168話 社畜人生ゲーム
私たちは今、愛花ちゃんが持ってきた謎の社畜人生ゲームをプレイ中。
百合ゲーみたいなパッケージとは裏腹に、社会の闇を教えてくれるような暗黒の鬱ゲーだった。
柑奈ちゃんがルーレットを回す。
4マス進んでイベントが始まる。
内容は、朝更衣室に行くと先輩がいて、出勤かと思ったら今から一度家に帰るとのことらしい。
何時間働いているんだこの人……。
そして次はゲームの持ち主である愛花ちゃんの番。
まあ、運要素しかないわけで、愛花ちゃんが有利にはならないけどね。
愛花ちゃんの止まったマスでのイベントはただの自転車パンクだった。
ほう、そんなこともあるのか。
というか、別にイベントが発生しても何もない気がするけどね。
どうやらマスでイベントが決まっているというよりは、各プレイヤーごとのシナリオが進んで行く感じのようだ。
もしかしたら最初に止まったマスはかなり重要なのではないだろうか。
その後もなかなかひどいイベントが続く。
『やさしかった先輩、上司をぶん殴って退職』
『入社3週間で外注のコストカットの仕事、たまたまうまくいきコストカッターと呼ばれるようになる』
『今月の残業時間は60時間(タイムカード上)』
『今日は休日出勤。もちろんタイムカードは押しません♪』
『ストレスでやけ食い。でも体重は減る一方』
『寝坊して遅刻!? って夢か……。そういえば家に帰ってないや』
『ついに先輩が全員いなくなり、早くも私はチームリーダーに』
やばい、まともなイベントがない。
これが社会に出るということなのか。
少しは幸せなイベントが起きたりとかないの?
『貴重な休みに転職活動。うまくいかず死にたい』
『仕事のし過ぎで恋人にフラれる。死にたい』
『タンスの角に足の小指をぶつける。死にたい』
『人生逆転のために全財産でFX。すべて溶かす。死にたい』
ついに死にたい願望が出てきたぞ……。
なんか違うの混ざってるけど……。
そんな感じでゲームは進んでいき、ついにマップの終盤までやってきた。
これ、順位とかあるのだろうか。
そして物語は衝撃の結末をむかえる。
『朝、会社が放火によって消失。君はもう頑張らなくていいんだよ。END』
え、終わった?
『いつも通りの朝。体が動かない。そして流れる涙。END』
え?
え?
終わり?
『もうゴールしてもいいよね? 吸い込まれるように電車へ飛び込む。そして異世界転生。新たな人生が始まる。GOODEND』
これGOODENDなの?
異世界転生しちゃったけど?
ゲームを終えた者たちは、なんともいえない表情をしながらコントローラ―を置いていく。
まあ、そうなるよね。
ゴールすらせずに謎のエンディングむかえてるしね。
そして最後のプレイヤーである愛花ちゃんの番だ。
『今日はクリスマス・イブ。突然現れるあの時辞めた先輩。「君をむかえにきたよ。私が幸せにしてみせる」HAPPYEND』
おお~、ハッピーエンドだ!
そんなの存在してたんだね。
やはりこのゲームの所有者。
うまく立ちまわっていたのだろうか。
途中を見る感じではそうは見えなかったけど。
しかもこれ、ちゃんと百合ゲーだ。
でもこのエンディングを見るためにこの内容なら私は遠慮したい。
ということでゲームは終了。
「えっと、これは愛花ちゃんの勝ちってこと?」
よくわからないけど、ボードゲームなのに順位は発表されない。
他に比べるものがないので、普通に考えたらハッピーエンドをむかえた愛花ちゃんが1位なのかな?
「これ、そういうゲームじゃないです」
「そうなんだ……」
じゃあなぜこのゲームで勝負を……。
「ひとりで遊ぶのがつらいから、みんなにも協力してもらいました」
「なるほど……」
そういうことだったのか。
しかし、この鬱ゲーをプレイしてまで見たい物語ではなかったなぁ。
やっぱり私は最初から甘々ラブラブなゲームが好き。
「それで、結局誰が勝ちになるの?」
茜ちゃんがごもっともなことを口にした。
今から他のゲームで決着をつける?
いや、けっこうさっきのゲームが長引いてるからあまり時間に余裕はない。
「これは引き分けってことで」
柑奈ちゃんがちょっとぐったりしながらそう言った。
もう勝ち負けよりものんびりして心を癒したいのだろう。
気持ちはよくわかる。
「それじゃあ、全員でデートってことにしましょう!」
ありさちゃんが、あんなゲームの後だというのに元気よく言った。
全員でデートだと……。
これはまさかの……、ハーレムエンドですか!?
「私は別にいいよ~?」
「あはは……。じゃあデートっていうか、みんなでおでかけだね」
茜ちゃんがそう言って、今日のところはおしまいになった。
まあ、とりあえずまとまった感じかな?
ということで私は、ぼっちでロックなアニメを見て心を癒すことにするよ。
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