第139話 みこさんとあまみさん
とある休日の朝。
部屋でのんびりしているとインターホンの音がする。
宅配便だろうかと思っていると、お母さんの私を呼ぶ声がした。
「なずなちゃん、お客さんよ」
「私に?」
いったい誰だろうか。
約束はしてないけど。
茜ちゃんとかひまわりちゃんなら名前を言うだろうし。
不思議に思いながら玄関にむかうと、そこに立っていた人物を見て驚愕した。
「おはようございます」
「……えっと、家の場所教えましたっけ?」
「ふふふ」
なぜ笑う……。
お客さんはなんと、あの巫女さんだった。
私服だったので雰囲気はちょっと違ったけど、間違いはない。
「えっと、なにか御用でしょうか」
「ちょっと行きたいところがありまして、一緒にどうかなと」
「おでかけですか。まあいいですよ」
家の場所についてはちょっと怖いが、巫女さん自身は悪い人ではない。
そのはずだ。
なによりかわいいので、一緒におでかけは楽しそうだと思える。
「では参りましょう」
というわけで私たちふたりは、清々しい朝の光の中に消えていった。
……この人、なんで今私のおしりを触ったのか。
巫女さんに連れられてやってきたのは、なんと我らが甘味処『小倉庵』だった。
数多くのイベントを起こしてきたこの場所にこの人と来るとなると、これはちょっと無事では済まないかもしれない。
覚悟を決めて中に入った。
「いらっしゃいませ~。あ、なずなちゃんだ。今日もまた別の女の子……」
お店に入り、あまみさんと目が合うなり、いつものようにからかいの言葉が。
しかし今回はそれが途中で止まった。
あまみさんの視線は巫女さんの方をむいて固まっている。
そしてニコッと笑う、今日の同伴者の巫女さん。
かわええ……。
「あちらの席へどうぞ~」
何事もなかったかのように私たちを席へ案内するあまみさん。
しかし何か様子がおかしい。
私たちは一番奥の窓側の席に通されると、あまみさんはささっと注文を聞いて去っていく。
私たちが頼んだのはお汁粉だった。
まあお汁粉ご飯同盟だからね。
この巫女さんを見ているとお汁粉の気分になった。
なんとなくだけど。
そういえばこの巫女さんの名前、まだ聞いてなかったなぁ。
なんて思っていると、ものすごい早さで、注文したお汁粉が別の店員さんによって運ばれてきた。
大丈夫ですかこれ。
他の人が注文してたやつをこっちに回してませんか?
そしてさらにそこに、なぜか私服姿になったあまみさんがやってきて、私の隣に座った。
何が起きているのだろうか。
「……で、なんでふたりが一緒にいるの?」
「運命です」
あまみさんの質問に笑顔で答える巫女さん。
運命だったのか……。
知らなんだ……。
というか、このふたり、お知り合い?
もしかして、恋人同士だったり?
私ってもしかしてお邪魔虫……、というかふたりの間に入り込んだ害虫とか?
ひぃ~、お許しを~!
「あの、ふたりはもしかしてお知り合いですか?」
恐る恐る聞いてみると、あまみさんはちょっと嫌そうな顔をしながら答えてくれた。
「私のいとこだよ」
「いとこ?」
え、そうなの?
なんか私のまわりって、なんかつながる人多いよね。
というかどんな偶然なんだって思う。
だって初めて会ったのって旅先だよ?
「みこちゃんって住んでるのこの辺じゃないでしょ? なんでなずなちゃんといるの」
「偶然二回出会ったんです。これはもう運命です。あと実はこっちに引っ越してきました」
「嘘でしょ!? いろいろ嘘でしょ!?」
あまみさんも大混乱しているようだった。
以前からけっこう交流があったみたいだよね。
「そういえばあまみさんも巫女ちゃんって呼んでるんですね」
「え? 名前で呼ぶの変かな? いとこだし」
「名前?」
「みこちゃん」
「え?」
巫女?
みこ?
「巫女さんだからみこ?」
「ううん。この子の名前だよ。橘みこ。……もしかして名前知らなかったの?」
「えへへ……。巫女さんだったから、ずっと巫女さんって心の中で呼んでました。あとはお姉さんって」
「そ、そうなんだ」
巫女さんの名前がみこさん。
どんな偶然なのか。
それとも名前がみこさんだから巫女さんに興味を持ったのか。
そもそも本物の巫女さんなのかよくわからないけれど。
「まあ、知り合っちゃったものは仕方ないよね」
「ふふふ、あきらめてください、あまみ姉さん」
「何を」
「私の相手をして疲れることです」
「自覚あったんかい!」
おお、さっそくツッコミが。
長年の知り合いでもこれだと確かに疲れるのではないだろうか。
でもいいなぁ。
なんだかんだ仲良しなんだろうなぁ。
そういう関係があるって幸せなことだと思うから。
ふたりのことを微笑ましく思って見ていると、ふと隣のあまみさんの顔が何かに驚いたような表情になり固まった。
どうしたんだろうと思っていると、あまみさんが小さな声で「外見て」と伝えてくる。
それを聞いて、反射的に窓の外に目をやると。
そこには窓に両手をついて、死んだような目でこちらをじっと見ているひまわりちゃんがいた。
……ホラー?
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