第117話 我が街のオタロード
とある放課後。
私はバッティングセンターにいた。
乱れた精神を統一するため、無心でバットを振り続ける。
最近の私は少々浮ついていた。
ここら辺りで引き締めておかないと、いつかとんでもないことをしてお縄につくかもしれない。
それはさすがにまずいということで。
私は今こうやって心を落ち着けているのである。
いやもう本当にね、今週の学校はやばかった。
お風呂に行ったせいか、クラスメイトたちを見るたびに心の目で裸にしてしまい、心が乱れて大変だったのだ。
あやうく授業中に隣の席の智恵ちゃんに抱きつくところだった。
よく耐えたよ私。
それにしても、バットとボールが奏でる音を聞いていると心が落ち着く。
きっと多くの女子高生が共感してくれることだろう。
「ふぅ」
大分心も落ち着いたことだし、そろそろ帰ろうかな。
そう思い外へ出ようと振り返ると、そこに女の子がいて驚く。
「わっ」
「あ」
その女の子はなんとなんと愛花ちゃんだった。
「愛花ちゃん、どうしたの? なんでこんなところに」
「あの、その、お姉さんが入っていくのが見えたので」
「え、じゃあ最初からいたの?」
「はい」
「全然気付かなかったよ……」
それだけ私が放心状態だったのか、それとも驚くべき集中力だったのか。
まあどっちでもいいんだけど。
「あ、そういえば、わざわざ待ってたってことは私に何か用だった?」
「え? いえ、見かけたからついてきただけです」
「そうなの?」
なんだろう、なんか嬉しい。
用事もないのに会いに来てくれるって、こんな気持ちになるものなんだね。
嬉しすぎて思わず愛花ちゃんの頭に手を伸ばしなでなでしてしまった。
「そういえば柑奈ちゃんたちとは一緒じゃないの?」
「はい、今日はお姉ちゃんとお買い物に行く約束なので」
「へえ、そうだったんだ」
だから今日の彩香ちゃんはちょっと……、いや、かなり様子がおかしかったのか。
「あれ、じゃあこんなところでのんびりしてる場合じゃないんじゃない?」
「大丈夫です、お姉ちゃんはなんか遅れるらしいので」
「え~……」
何してるの彩香ちゃん。
約束しといて遅れるなんて。
らしくない、らしくないよ!
まあでも、みんなが頼りにする委員長だしなぁ。
急に頼みごとをされたら断れないんだろう。
そこがいいところでもあるんだけどね。
「じゃあ時間まで私と遊ぼうか」
「あ、もうすぐ時間なんです」
「そっか」
「あの、迷惑でなければお姉さんも一緒に来てもらえませんか」
「え、いいの? せっかくのお出かけなのに」
「はい、せっかくお姉さんと出会えたので」
かわいい……。
ここで精神統一をしていなかったら、今頃ふたりで泡まみれになっていたかもしれない。
さすがバットとボールで奏でるハーモニー。
癒し効果抜群である。
「じゃあ行こっか」
「はい」
そして私たちは彩香ちゃんと合流するため、お買い物をするお店へとむかう。
お馴染み、駅前のショッピングモールだ。
平日にここに来るとなんだか特別感がある。
休日って感じの場所だしね。
「お~い彩香ちゃ~ん」
「……なぜ白河さんがいるの」
「えへへ、お呼ばれしちゃった」
「まあいいけど」
そう言いながら彩香ちゃんは愛花ちゃんの手を握った。
なんだか自然な流れで、前よりもふたりの仲がよくなっている気がする。
もしかして私のおかげだったりするんじゃないだろうか。
だとしたら嬉しい限りだ。
ふたりの姿に頬を緩ませながら後を付いていくと、なぜか建物から外へ出ていった。
「あれ、ここでお買い物するんじゃないの?」
「違うわよ。あっちに行くの」
「あっち?」
とりあえず付いていくと、むかった先は近くにあるもう一つのショッピングモール。
こちらの方が小さいけど、実はオタクな私が好きなお店がいくつか入っている。
なのでこのふたつのショッピングモールは、休日にはしごするのが基本。
我が街のオタロードだ。
そしてふたりは当たり前のように私が通うアニメショップに吸い込まれていった。
ここか~い。
ふたりはふらっと店内を回った後、レジの方へむかい、予約券を店員さんに渡した。
どうやらゲームを予約していたらしい。
そうか、今日は木曜日か。
そういえば最近店舗で買ってないなぁ。
ダウンロード版ばっかりだ。
ふたりの様子を見ていると、店員さんが奥から大き目の箱やいろいろな何かを持ってきて確認していた。
なるほど、これは限定版と店舗特典ですな。
確かにこれは店舗で買うと独特の高揚感があるんですよね。
というか、普通に百合ゲーですな。
これはもう完全に愛花ちゃんのだね。
しかもそのゲームは私もダウンロード版を予約している。
すっかり忘れちゃうんだよね、ああいうのって。
お店を出ると彩香ちゃんがゲームなどが入った袋を愛花ちゃんに手渡す。
「えへへ」
幸せそうに笑う愛花ちゃんは超絶かわいい。
ゲームの女の子もかわいいが、この愛花ちゃんも負けずにかわいい。
抱きしめて連れて帰りたいけど、今日はゲームをさせてあげよう。
また今度だね。
ルンルンな愛花ちゃんを眺めていると、気付けば家の近くまで戻ってきていた。
いつの間に……。
ちょうどショッピングセンターの近くまで来た時、彩香ちゃんが足を止めた。
「私は夕飯のお買い物していくわ」
「あ、じゃあ私も行こうかな」
「そう? 愛花ちゃんはどうする?」
「早く帰ってゲームしたい」
「わかったわ」
私が手を振ろうとすると、愛花ちゃんはニコニコしたまま、私の前にやってくる。
「えへへ、実はこのゲームにお姉さんみたいなキャラが出てくるんです。もうずっと気になってて、今晩で攻略しますね」
愛花ちゃんは謎の宣言をすると、楽しそうに走り去っていった。
呆然とする私。
「……これは新しいタイプの告白だろうか」
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