第115話 ありさちゃんとお風呂

 私はありさちゃんと共に施設のお風呂ゾーンへとむかう。

 いったんプールから出て脱衣所へ行き、ここで私たちは生まれたままの姿となるのだ。


 これがまた、プールへ行く人は水着を着て、お風呂へ行く人はすっぽんぽんなのが恥ずかしい。

 お風呂へ着くまではバスタオルを巻いておくのがいいと思う。


 堂々と歩いている人のメンタルはいったいどうなっているのか。

 せっかくのチャンスなのにこっちから目をそらしてしまった。


 私の豆腐メンタルはいったいいつになったら鍛えられるのか。

 もしや豆腐はいくら鍛えたところで豆腐ということなのだろうか。


 それにしても間違えてすっぽんぽんのままプールへ行ってしまう人とかいないのかな。

 いやしかし、ここですっぽんぽんが大丈夫でプールだとダメな理由がよくわからない。


 きっとああいう人は裸で泳げる人なんだろう。

 そんなことを考えながら自分の荷物を入れてあるロッカーの前で固まっていた。


 そこで妙な視線を感じ振りむいてみる。

 まさかの不審者かと思われたが、こちらを見ていたのはなんとありさちゃんだった。


「ありさちゃん、どうしたの?」

「いや、なんで私の隣で固まってるのかなって思いまして」


「私はロッカーに用があるからだけど」

「え、私のロッカーにですか?」


「いや、私のロッカーだけど……」


 そう言いながら私は自分のロッカーの鍵を開ける。


「あ、隣だったんですね。びっくりしました」

「え、ああ、そういうことね。まさか私がありさちゃんの着替えを覗きに来たとでも思ったの?」


「隣にいられたらそう思いますよ」

「あはは、さすがにそれは間に合わないと思ってあきらめてたよ。でもよかった、隣なら大丈夫だね」


「全然大丈夫じゃないですね」

「着替え、手伝ってあげるよ」


「けっこうです」

「まあまあ、どうせお風呂ではすっぽんぽんなんだし」


「お姉さんもですけどね」

「うぐっ、そうだった……」


「その大きなおっぱいはきっと注目の的ですね」

「そんなバカな……」


 きっと私より大きい人なんていっぱいいるに違いない。

 それに大きさだけでは語れないこともたくさんある。

 形やバランスだって重要だ。


「ありさちゃんみたいなぺったんこが好きな人もいるから気を付けてね」

「失礼ですね、これからきっと大きくなりますから」


「舐めると大きくなるっていうよね。やってあげようか」

「揉むとの間違いじゃないですか?」


「え、揉んでいいの!?」

「ダメに決まってるでしょう! 通報しますよ?」


「ちぇ~」


 まあ焦ってチャンスを失っては意味がない。

 ゆっくりとお風呂デートを重ね、じっくりと関係を深めていこうじゃないですか。


 そうでないと私の方も耐えられないかもしれないし。

 とりあえず今日のところはお触りなしにして、まずはそのお身体を拝ませていただきましょうか。


 私は服を脱ぐフリをしながらありさちゃんの方へ視線をむける。

 するとなぜかこちらをじ~っと見ているありさちゃんと目が合った。


「えっと……、何?」

「いえ別に」


「脱がないの?」

「お姉さんこそ」


「私はありさちゃんが脱ぐところを見たいんだけど」

「直球ですね!? 私もお姉さんの裸を見てあげようと思いまして」


「なぜ」

「お姉さんの体に興味があるからです」


「めちゃくちゃまずい発言に聞こえるよ!?」

「とにかく早く脱いでください!」


「きゃ~」


 なぜか私の方がありさちゃんに襲われるという謎の展開に。

 なんか最近私のまわりには変態が多くなってきた気がするんだけど。

 私も早くレベルアップして、いろんなことを楽しめるようにならないと。


 だんだん恥ずかしがってる私が損していく気がする。

 だがしかし、だからと言ってすぐに強くなれたらこっちは豆腐なんてやってないのだ。


「あ~! またなずなさんが襲われてる~!!」

「ひまわりちゃん!」


 私のピンチに、なんとひまわりちゃんが駆けつけてくれた。


「もう、何してるの!」

「脱がすのを手伝ってたんだよ」


「嘘! 今強引に脱がそうとしてた」

「うん、だから脱がしてたんだよ」


「え? あ、そうか」


 そうかじゃないよひまわりちゃん……。


「水着を脱ぐくらい、なずなさんはちゃんとできるから!」

「それは知ってるよ~。まあいいか、それじゃ先に行ってるね」


 そう言うとありさちゃんは体をラップタオルで包み込み、さっと水着を脱いで、最低限の肌見せでおさえてお風呂の方へむかっていった。


「……まあいいか、お風呂では逃げられないんだし」

「なずなさん、なんて最悪な台詞を」


 私たちは、遅れてきた紅葉さんと一緒にお風呂の準備をしてありさちゃんの後を追った。

 なかなか広いお風呂だろうし、見失うわけにはいかない。


 しかし、そんな心配は必要なかった。

 よく考えてみればあの金髪。

 目立たないわけがなく、少し遠くからでもその姿を捕捉することができた。


 ふふふ、いくら万全を期しても、タオルのままお風呂には入れないし、体を洗うこともできない。

 私は洗い場に入ったありさちゃんをバレないように追いかけ、頭を洗い始めたあたりで隣に座った。


 これは勝った、そう思ったのだが。

 なんとありさちゃんの体はタオルの代わりに泡まみれで何も見えない。

 すごい、こんなことがありえるのだろうか。


 いやしかし、目の前で起きてしまったのだから受け入れるしかない。

 ありさちゃんはもはや泡のお姫様となってしまっていた。

 くっ、結局見れないのか……。


 しかし、やはり私は変態なのだろうか。

 これはこれで激しく興奮する。

 ぐふふ、ありさちゃん、私の勝ちだね。


 とりあえず私も泡で包まれておくことにしよう。

 この子の方が先に洗い終えるだろうしね。

 ということで私は大量の泡を生成し体を包み込んでいった。


 これで私も泡のお姫様だね。

 満足した私が頭を洗おうとした時、ふとありさちゃんとは逆の隣を見ると、そこにはひまわりちゃんがいてこちらを見て固まっていた。


「どうしたのひまわりちゃん」

「なずなさん……、それアウトです」

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