第90話 なずなのベッドでおやすみ
ある日の放課後。
私は同好会の活動を頑張りすぎてへとへとになりながら帰宅した。
何を頑張ったのかは聞かない方がいい。
「ただいま~」
「おかえり姉さん」
「あ、柑奈ちゃん! 帰ってたんだね」
「うん。あ、後で部屋に行くから」
「え? うん、いいけど」
わざわざ部屋に来るなんて何か用事かな?
ほんの少し気になりながら、私は自室へとむかう。
部屋に入ると、すぐに女の子の声がした。
「あ、お姉さま! おかえりなさい!」
「果南ちゃん、来てたんだ」
私はそう返事をして、少し経ってから「うん?」となる。
「って、果南ちゃん!? なんでいるの!?」
「遊びに来ました~」
「まあそれはそうだろうけど、なんでこんな平日に……」
「会いたくなったからです!」
「そっか、ありがとう!」
その行動力はすごいな。
遠いところなのに、会いたいからって来ちゃうなんて。
愛されてるのは嬉しいけど、果南ちゃんのお母さんも大変だろうに。
と、そこで気付いたことがある。
今果南ちゃんはベッドに座っているけど、その後ろで私の布団が盛り上がっていた。
中に誰かいる?
近づいて布団をはらりとめくってみると、中にはなんとひまわりちゃんがいて、スヤスヤとかわいく寝息を立てていた。
「天使が私の布団で寝てる……」
何ということだ。
今すぐ上から覆いかぶさりたいところだけど、果南ちゃんもいるし自重する。
ちょっと残念だけど、今は私の布団に甘い香りを残していってもらうことにしよう。
うふふ、今夜はひまわりちゃんの香りに包まれていい夢見るんだ~。
夢の中に出てきて、あんなことやこんなことできちゃうかもだし。
「起こさないの?」
「うん、かわいいからこのままにしとく」
「ふ~ん、じゃあ今日は私がお姉さまを独り占めだね!」
そう言いながら果南ちゃんが私の体にすり寄ってくる。
「はいはい、わかったからちょっと座らせてね」
私はいったん果南ちゃんを引きはがして、床にクッションを置いて座る。
そしてすぐさま果南ちゃんが私の足の間にすっぽりと収まった。
「果南ちゃん、そこ好きなの?」
「みんな好きだと思いますよ」
「ふ~ん」
なんとなくわかるけど、私はされる方がほとんどだから実はよく知らない。
今度お母さんにやってもらおうかな。
あ、最近甘えることがあったし、彩香ちゃんでもいいかも。
「お姉さま、今他の女の子のこと考えてますよね」
「え、なんでわかるの……」
「顔がにやけてたから」
「え、嘘……」
私そんなに顔に出るの?
やだなぁ……。
その時、コンコンとドアがノックされる。
「入るよ~」
「どうぞ~」
さっき言ってたとおり柑奈ちゃんが部屋に入ってきた。
一瞬私たちの姿を見て顔が引きつったような気がしたけど、すぐに何事もなかったかのような表情へ戻る。
これだ、このポーカーフェイスを私は習得しないといけない。
姉妹なのだから、きっと私にもできるはずだ。
「で、なにするの?」
柑奈ちゃんは床に座りながら果南ちゃんに尋ねる。
「う~ん、あんまり時間ないしどうしようかな」
「決めてなかったの?」
「うん、お姉さまに会いたかっただけだから」
私の腕の中でそんなかわいいこと言わないで欲しい。
ちょっとした衝動でおかしなことしちゃうかもしれないでしょ!
「あ、そうだ! アニメ見たい!」
「アニメ?」
「うん、アニメ」
「まあいいけど」
私はPCを起ち上げ、いつもお世話になっているアニメ配信サイトへログインする。
あとは果南ちゃんの希望するアニメを選び、いざ視聴!
って、あれこの作品は確か……。
アニメ1話が始まり、しばらく見て確信する。
これはそう、女子高生と女子小学生が恋をするおねロリものだ。
私にしては珍しく見逃していたものなのでこれはいい機会だ。
果南ちゃんのことは関係なく、私も楽しませてもらおう。
しかしまあなんという状況だ。
女子高生である私が、女子小学生を抱きしめ、隣には女子小学生の妹がいる状態でおねロリアニメを視聴するなんて。
なんとなく気まずいところもあるね。
そんな感じでちょっとそわそわしながら視聴を続ける。
するとなんとこのアニメ、第1話にして小学生の妹ちゃんとのキスシーンが!
隣に柑奈ちゃんもいるのに、なんて気まずいんだこれ。
やっぱりアニメは一人で見るに限るよねホント。
チラッと隣の柑奈ちゃんを視線だけ動かして様子見すると、むこうもこっちを見上げていて目が合ってしまう。
お互いはっと視線を外し、私は恥ずかしくてもじもじとなった。
もう果南ちゃん、なんてもの見せてくれるんだ。
ぎゅっと少しだけ果南ちゃんを抱く力を強めると、そこで気付いたことがある。
確かめるために顔を覗き込んでみるとやっぱり。
果南ちゃんはこの状況でスヤスヤと眠ってしまっていた。
うお~い!
君が見たいって言ったんでしょうが~!
なんとかこの子を起こしてやろうと、私はちょっとあれなところに手を伸ばしていく。
その時、ブブブっと何かがバイブする音が聞こえた。
え、ちょっと待って。
この子、まさか妙なもの仕込んでるんじゃないよね?
私は恐る恐る、しかしちょっと何かを期待しつつ、音のした方へ手を伸ばしていく。
そしてスカートのポケットから出てきたものは。
……ただのスマホだった。
ですよね~。
いや、私もスマホだと思ってましたよ?
それよりどうしよう。
スマホは今も震えながら、画面には『ママ』と表示されていた。
果南ちゃんのお母さんからの電話だ。
さすがに出るのはまずいよね。
まだ話をしたことないし。
とりあえず果南ちゃんを起こすためにバイブしているスマホを脇の下に当ててみる。
「わっひゃ!」
「あ、起きた」
「な、何?」
「電話だよ、お母さんから」
「本当だ。あ、切れた」
タイミング悪く、応答しようとした瞬間に電話が切れてしまった。
しかしその後、短く『ブブブ』とバイブする。
これはメッセージでも入れてきたのかな。
スマホのロックを解除してメッセージを確認する果南ちゃん。
私も位置的にその画面を覗き込むことになり、表示されているメッセージを目撃してしまった。
そこには。
『果南~? もう約束の時間過ぎてるわよ? 早く来ないとぶっ〇すわよ?』
……。
怖い。
これ本当にあの時見かけたお母さんなの?
もっとやさしそうに見えたんだけどなぁ。
それよりまずい。
このままじゃ果南ちゃんがぶっ〇されてしまう。
さすが珊瑚ちゃんのご親戚だ。
「あわわわわわ……」
果南ちゃんはそのメッセージを見て、おもしろいくらいに動揺していた。
「お姉さま! せっかくですけど帰ります!」
「あ、うん、そうした方がよさそうだね」
ドタバタとしながら私たちは果南ちゃんを玄関まで見送る。
「一緒に付いていこうか?」
「大丈夫です! ……多分!」
果南ちゃんは微妙な返事をして、慌ただしくお母さんのところへむかっていく。
まさかこれが果南ちゃんとの最後の会話になるなんて、この時は思いもしなかった。
……。
……。
……。
なんてね。
その夜。
いろいろあった1日が終わり、私はそろそろ就寝しようと布団をめくった。
「スヤ~」
「ひまわりちゃあああああああん!!」
忘れてた~!!
というかまだいたの~!!
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