XVI ボクのココロがあふれ出すのさ

身代わりの神さま?

 ボクたちは夕暮れまで白い灯台の隣で過ごしたよ。


 ミコちゃんとふたりで街を見下ろしたり、反対の方向を向いて海を見下ろしたり。


 目を港の岸壁のところに移すとね、とっても色のはっきりしたオレンジ色の船が泊まってるの。

 不思議な形だな。

 大きいよ。


 なんていうか、船の半分だけがある感じみたいな形なんだ。

 岸壁のところにはクレーンが3台・・・4台?ぐらいあってね、よーく見てみるとそうさをしている人が見えてくるよ。


 気持ちよさそう。


 操縦席はクレーンのとても高いところにあって、これは見えた、ってわけじゃないけどそうさしている人の目がとても真面目な目に感じる。


「ボクト、手を繋いでもいい?」

「どうして?」

「寒いから」

「うん、いいよ」


 その後は夕暮れまでミコちゃんと一緒に海と空を見てた。


 海は曲がってるよ。

 空も、曲がってて、レイジさんが持ってる紺色の大きな傘みたいな。


 空の色がピンクになりかけて段々暗くなって来た時、誰かが灯台の丘を登ってきた。


「こんばんは」

「こんばんは」

「こんばんは」


 女の人は園長せんせいぐらいのお年に見えるよ。とても痩せてる人。


「まだあの女のひとは帰ってこないのかしら?」

「えっ。女のひとって、誰ですか?もしかして・・・」

「そう。あなたのお母さんよ、ボクトくん」

「あなたは?」

「身代わりの神よ。大鯛ダイタイっていう名前よ」

「えっ?鯛?魚の?」

「そうよ」


 ミコちゃんはその大鯛っていう女神さまに、すっ、って頭を撫でられたよ。


「あなたはよい子ね、ミコちゃん」

「どうしてわたしの名前を」

「わたしはあなたの身代わりになろうとしてなれなかった。だから申し訳なくて」

「わたしの?身代わり?」

「そう。あなたが前の幼稚園でいじめに遭っていた時、わたしはなんとかして転園児として駆けつけて代わってあげようとした。でも、あなたはそれを望まなかったでしょう?」

「ええと・・・」

「美川理子。あなたが幼稚園を辞める前に転入してきたんだけれど」

「あっ!」


 そっか。

 みがわりっ子、だね。


「ミコちゃん。『いじめられるの代わってあげる』ってわたしが言った時、こう言ったわね。『ダメ。誰かほかの子がいじめられたらわたしは幸せじゃない。誰一人としていじめられないのが本当の願い。いじめが全部なくなることがわたしの本当の願いなの』って」


 それでね、今、大鯛さまはボクのお母さんの身代わりをしてくださってるの。


「ボクトくんのお母さんはきっと何かを感じたのね。少し前にこの丘を降りてね。それでボクトくんを探しに行ったのよ。その間わたしが灯台の仕事を代わってあげてるの。ねえ、ボクトくん」

「はい」

「これは幻想だと思う?」


 心して。


「いいえ。ほんとうのことだと思います」

「あなたのお母さんがここに住み込みで仕事をしてることも?」

「・・・おとうさんはけいむしょにいます。そしておかあさんはボクを天から授かった子にするために赤ちゃんポストにあずけました。だから、ほんとうのことだと思います。おかあさんはとても深い考えでそうしたんです」

「あなたも、いい子ね」


 そうおっしゃって大鯛さまはボクとミコちゃんを抱きしめてほおずりしてくださった。


「お母さん役の身代わりもしてくださるんですね」


 ミコちゃんがそう言ったらね、こうおっしゃったよ。


「だって、月影つきかげもそうしているでしょう?」

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