X 神さまの前でのびょうどう
ほんとうのびょうどうって?
たまたまね、クルトくんが社会科の授業でテーマに上がったからってボクに教えてくれたんだ。
「ボクトは世の中平等だと思うか?」
「えっ。そうだねえ・・・」
ボクはクルトくんが学園のカフェテリアでごちそうしてくれたイチジクパンのトーストが乗っかったお皿を見てね、こう言ったんだよ。
「イチジクのパンみたいに珍しいパンを食べられないひともいるよね・・・平等じゃないかも」
「ボクトはそんなこと言う側じゃないよ。今はイチジクパン食べてるかもしれないけど、お父さんとお母さんがいないってことはボクト自身が平等に扱われていないってことだろう?」
「そうなのかなあ」
「そうだよ。ボクトはもっと主張していいよ。自分は大変なんだって」
「でもクルトくん。あんまりたいへんだって思わないよ」
「そこはボクトが大人しすぎるんだよ。だって高校までは
「うーん。それぐらいの年になったら働きながら通えないかなあ。それに大学に行かなくてもやってみたい仕事にすぐついてもいいかも」
「ふーん。そういう考え方もあるか」
「クルトくんはどうなの?自分は平等に扱われてるって思ってる?」
「いや。イケメンに生まれてないことがそもそも平等じゃないだろう」
クルトくん、かっこいいのに。けんそんだよね。
「なあボクト。大学受験はなあ、不条理な世の中で唯一平等にチャンスが与えられてるイベントなんだよ。金持ちの両親の方がやや有利だっていう状況はあるにしてもそれでも平等なはずのイベントなんだよ」
そうなのかなあ。
「クルトくん。ほんとうにびょうどうにするんだったら、受験じゃなくてくじ引きが一番びょうどうなんじゃないのかな」
「く、くじ引き!?だ、だってボクト、そんなことしたら努力して勉強してた奴はどうなるんだよ?」
「でも。たとえばミコちゃんは前の幼稚園でいじめに遭ってたけど、きっといじめのことが辛くてかけっことかぜんりょくではしれなかったと思うよ」
「ん・・・・・」
「それに本を読んでもいじめのことが気になって集中できないと思うし、勉強とかにも集中できないと思うな」
「・・・なるほどなあ」
ふっ、とテーブルの隣を見るとね、ボクとクルトくんの横に女の子が座ってるんだ。
「あっ・・・いつのまに?お前、誰だよ」
「わたしはそなたにオマエなどと呼ばれるいわれはない」
ボクは、はっ、と気がついたよ。
この女の子は神さまだって。
なぜならカフェテリアにはボクたちしかいなくなってて、天井だったはずのところにね、絵に描いたみたいに雲の上に赤玉みたいにして乗っかったお日様とその向かい側にやっぱり雲の上に白玉みたいに乗っかったお月さまがあったもの。
だからボクは質問を変えたよ。
「あなたはなんの神さまですか?」
「平等の神だ、小僧」
その神さまはボクとクルトくんをいつのまにか雲型の乗り物に乗せてたよ。それでねえ、暗くなってる空を飛んだんだ。
「坊主、小僧」
「ど、どっちが坊主で小僧なんだよ。俺にもちゃんと名前があるわい。俺はクルトだ!」
「ボクはボクトです」
「そうか。坊主はクルトで小僧はボクトか。わたしは
女の子の姿をした清廉さまが、ぶわあ、って長い袖を振るとね、雲がいっぺんに晴れて、見たらそれは街なんだ。
でもね、建物がたくさん崩れてて、街のあちこちに火が見えてね、なんだか火事みたいだったよ。
「さて、クルト。下の街はなんだと思う」
「何って・・・あれか?震災かなんかが起こった街か?」
「戦争をやっているのだ」
せんそうっていう言葉をボクは知ってるけど、園長せんせいが言った言葉の意味が一番そうだねえって思うよ。
『戦争は、やってはいけないことです』
それからこう思って清廉さまに聞いてみたよ。
「誰と誰がせんそうをしているんですか?」
「ボクト。同じもの同士が戦争をしているのだ」
「同じもの同士?」
「そうだ。見てみろ」
そうおっしゃるとね、下に見える風景がズームされたみたいに大きく見えたの。
「あっ!・・・」
クルトくんが叫んだんだ。
叫んだ理由はとてもよくわかったよ。
「クルトよ。驚いたか。恐ろしいのか」
「戦ってる奴ら、全員同じ顔じゃないか!?」
体の大きさはバラバラ。
着てる服もバラバラ。
男の人も女の人も。
子供も大人も。
肌の色が白い人も黒い人も。
片足がない人も両足ある人も。
若い人もお年寄りの人も。
みんな、同じ顔なの。
目が細くて口がとても小さくて。
それで顔が細くて。
「どうだ。これがわたしが作った『真に平等な世界』だ。美しいだろう」
「ど、どこが!みんな武器を持って撃ち合ってるじゃないか!砲弾でビルを叩き壊してるじゃないか!」
「でも、全員同じ顔だ」
「だ、だから?・・・」
「ここで戦っている人間どもの顔が同じなのはな、全員がそれぞれの生まれ変わりだからだ。性別・国籍・体格・知能・性格・環境・・・それぞれ微妙に異なった人生を送ってはいたが根本は変わらない。同じような悪業を何度も重ねて反省がないのでこうして一箇所に集めて気の済むまで同士討ちをやらせてやるのだ。どうだ?能力の差だとか経済力の差だとか細かいことを気にする必要はないだろう?同一人物なのだからな。それが力の限り、好きな武器を選んで殺し合うのだ。究極の平等だろう?」
「じ、地獄じゃないかっ!」
クルトくんはやっぱりやさしくて正義を守ろうとするココロを持ってるんだね。ただ、どうすればいいのかわからないから清廉さまにつかみかかろうとしたんだ。そしたら精錬さまはするりとお避けになってね。
「
ボクは神さまのご意向はたいせつだっておもうけど、でもクルトくんがそんな世界に行くのはとても辛くていやだったから清廉さまにこう言ったんだ。
「どうすればこの戦争は終わるんですか?」
そしたら清廉さまはこう言ったよ。
「勝てば、終わる」
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