IX あえない神さま

あいたい気持ちはつよいけど

 ボクは風邪をひいちゃったよ。

 熱も出てね、寮のお部屋で寝てるんだ。


「ボクトくん、大丈夫?」

「ありがとう、ミチルちゃん。うつるといけないから自分のお部屋に戻って?ボクは大丈夫だから」

「うん・・・でも熱が高い時は誰かいないと心細いでしょ」

「うーん。そうだけど、でもミチルちゃんがおかゆとかリンゴをすり下ろしたのとかくれたし・・・それに生姜湯しょうがゆを飲んだらなんだか寒気が消えて体がラクになったよ」

「そう・・・少し眠る?」

「うん」


 次に目を開けるとね。

 誰かがボクの枕の横に、こてん、て頭をもたれて眠ってたよ。


「んあ・・・ボクト、よく眠れた?」

「うん・・・あれ?ミコちゃん?ミチルちゃんは?」

「追い出してやったわよ。油断もスキもないんだから!」

「そっかあ・・・」

「ボクト、大丈夫?死んじゃダメだよ?」

「ふふ。風邪だもの、大丈夫だよ」

「でも熱が40℃近くになったって」

「もう下がったよ」

「それならいいけど。だってボクトはお伊勢参りもしてないんだから死んじゃダメだよ」

「え。どうして?」

「ほらあ・・・前の連休にアタシが家族でお伊勢さんにお参りしたって話したでしょ?一生に一度はお伊勢参りするもんだよ、って」

「そっか。そうだったね」

「ボクトは行きたくないの?」

「うーん。お参りしてみたいけど、遠いんだよね」

「うん。すごく遠いよ。お父さんも車の運転でヘトヘトになってたもん」

「いつか行けるかなあ・・・」


 そうお話してたらね、園長先生がお部屋に来てくださったよ。


「ミコちゃん、お母さんが車でお迎えに来られましたわよ」

「うん。じゃあ、ボクト。早く元気になってね」

「ありがとう。おやすみなさい」

「おやすみ、ボクト」


 園長せんせいがポットのお茶を新しくしてくれてる時にボクはなんとなく聞いてみたんだ。


「園長せんせいはお伊勢参りしたことあるんですか?」

「ええ、ありますわよ。まだ学生の時でしたわね」

「どんなところですか?」

「とても神聖な場所です。絶対に写真を撮ってはいけない場所もありますわ」

「写真を撮るとどうなるんですか」

「たぶん本当に目が見えなくなってしまいますわ」


 なんだろう。怖いところなのかな。

 ボクもいつか行ける時があるのかな。


「ボクトくん、お参りしたいのですか?」

「はい。でもすごく遠いんですよね」

「そうですね・・・ここからだと相当時間がかかりますわね。電車で行くにしても飛行機で行くにしても」

「そうですか・・・」


 園長せんせいはボクの顔を覗き込んで少し何か考えておられるみたい。

 しばらくするとね、こんなことをおっしゃったよ。


「ボクトくん。『ようはいじょ』へ行ってみませんか」

「えっ。ようはいじょ?」

「そうです」


 園長せんせいはにっこりされてボクのおでこに冷たいタオルを乗せてくれたよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る