白馬の戦士
「護り神さま!」
ボクはレインコートがぶわあって風でまるでパラシュートみたいになりながら剣をもった神さまに呼びかけたよ。
なんどもなんども。
もしかして台風の風雨にかき消されて聞こえないのかもと思ってまん前にいるのに大きな声で呼びかけたよ。
「神さまっ!」
まだ足りないのかなあ。
そうだ。
ミコちゃんの言っていた『ぜっきょう』をやってみようかな。
大きく息を吸い込んで。
胸を張って。
声がひっくり返ってもいいから。
「かーーみーーさーーまっ!!」
ああ。
やっぱりダメなのかな。
「だーーれーーだーーっ!!」
はっ!
「ゆ、
「ボクトか!どうしたあっ!」
「工事船が大橋にぶつかって洪水になりそうですっ!」
「なんだと!」
ガガガガガガッ!
わっ!
「うむう・・・しばらく
「えっ!?でもそんなことしたら神さまが!?」
「えーい!一刻を争うのじゃ!覚悟を決めてやれっ!」
「は、はいっ」
えいっ!
ああ・・・やっちゃった。
「むうっ!」
ピシャ!
グワァァアアアンンン!
「あっ!」
石の神さまの体に光の切れ目ができたと思ったら、クワガタの兜と黒と銀の鎧を着けたお侍さんがいきなりボクの目の前に現れたんだ。
それでね、手の甲とか指とかをボキボキ音を立てて鳴らしてたよ。
「ふう・・・実際に体を使うのは200年ぶりかの」
「あの・・・あなたは?」
「おお済まぬ済まぬ。わらわは
「あの・・・女神さまなんですか?」
「だったらどうした。わらわは強いぞ!」
でも、すごいなあ。
すごく細い体をしておられるのに重い兜と鎧も、腰や背に着けた鉄製の武具も、大きな刀も、まるで普通の服みたいに身軽に動いて。僕のレインコートの方がよっぽど重装備に見えちゃうよ。
「ボクト。状況は?」
「さっきゴウンていうとても大きな音がしました」
「ふむ。その音質ならばおそらく船が流れてくる途中で川底の石をえぐったものであろう。まだ間に合いそうじゃの。ところで工事船とはどんなものじゃ」
「え・・・と。ボクも見たことはありません。多分エンジンで動く平くて大きな船だと思います」
「エンジン?よく分からんがもしかして木造船ではないのか?」
「は、はい!多分鉄でできた重い船です」
「鉄が水に浮かぶのか!?ううむ・・・よおし分かった。
「ヴヒヒンッ!」
「あっ!」
目の前の空間から出てきたところなんて分からない感じで白い馬がそこにもう居たよ。
「わらわの愛馬、白兎じゃ。人間より賢いぞ。ところでボクトは馬は好きか?」
「え?はい、好きです」
「なら、乗れっ!」
「わあっ!」
ふわっ、って抱き上げられたと思ったらボクは神速さまが白兎にまたがるその股の間に座らされてたよ。
「よし。一気に最高速に上げるぞ!」
わあっ!・・・え?
「揺れないですし、蹄の音もしませんね?」
「ふふん。最新式の緩衝材を使った蹄鉄を装着しておるのじゃ。光の速度で走ったとて髪一本すら乱れぬわ。白兎、リミッターを外して構わん!全速だっ!」
「ヒヒィイン!」
ぎゅわっ、て感覚になったと思ったら本当に光のトンネルの中を走ってるみたいだよ。なんていうか障害物が現れる前に予測してそれを追い越しているみたいな!
「停止っ!」
「ヒィン!」
ブレーキも静かに、敏速に。
止まったのは大橋の手前。
川の水はほとんど8割方に増水してて橋げたの半分を超えてるように見えるよ。
「ボクト。あの道路2つ上流の中洲に引っかかっておるのが船じゃな」
「は、はい。間違いありません」
「大きいの。じゃがあの様子ならそう簡単にここまで流れて来ぬだろう」
「で、でも神速さま。何か人が」
「人じゃと?」
神速さまとボクとでもう一度船の方を見るとロープを船の縁にかけて引っ張っている人影が3人、船の上と中洲とに居たよ。3支点の真ん中の影がロープを持って中洲の大きな木にロープをくくりつけていたんだ。その影一人でロープを引くと、流れの淀んでいた船の周りにまた推進力が生まれて中洲にそって船がぐるうん、と下流に動き出したよ。
「あやつらは・・・」
神速さまが呟いたら人影が大きな低い声で怒鳴ってきたよ。
「これはこれは神速さまではないか・・・その節は世話になりましたなあ!」
「おのれら、200年前にきっちりわらわが首を撥ねてやったはずじゃが」
「ふふふ。魔神さまのご慈悲で再生させていただいたのです」
「
「黙らっしゃい!生憎俺たちはこの身分を底辺とは思うておらぬのでな。神速!今日は魔神さまのご機嫌伺いにまずは大橋を崩し大洪水で街を滅ぼしたのちにお前の四肢を引きちぎってくれるわ!」
なんて大きい声・・・ボクは耳を押さえながら聞いたんだ。
「神速さま、あの人たちは?」
「私腹を肥やす目的だけで戦争を起こした卑怯な武将三人衆じゃ。200年前、わらわがこの大太刀で頭と胴体を切り離して滅ぼしたのじゃが魔神に取り入って生き返ったようじゃ」
「このままだと橋に船をぶつけられてしまいます」
「わかっておる。ボクト、あの船は中身も鉄でぎっしりと詰まっておるのか」
「いいえ。中はがらんどうの造りのはずです」
「そうか。切れ目はあろうか?」
「ええと・・・リベットが打たれているところがそうだと思います」
「リベット?あの鋲のような部分か?」
「はい、そうです」
「ふうん。ならばなんとかなりそうじゃ。ところでボクト。人が死ぬところを見たことはあるか?」
「ありません」
「ふむう。これからわらわはあの3人を殺すが、平気か」
「・・・・・・・・・・我慢します」
「よう言うた。まあ、あやつらはすでに人ではないがの」
神速さまが、たっ、と白兎の脇腹を蹴るとね、白兎は静かに大橋の欄干のその平均台みたいに細いところに立ったんだ。
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